第3話

イブの日の夜は、決まってリキはいない。


クリスマスイブのザ・マカオンのライブは毎年恒例になっていて、リキはいつも昼過ぎには家を出て行く。









───午前9時。


布団からはみ出た首筋に、冷たい冷気を感じて目が覚めた。


カーテンの隙間から入り込んだ真新しい朝の光が、冷気でピンと張りつめた薄暗い室内を照らしていた。


思わず身震いして、隣にいる彼に身を寄せる。


リキは静かな寝息をたてながら、条件反射なのかそんなわたしをぎゅっと両腕で抱き締めてくれた。


途端にわたしの体は、大好きな匂いと温もりに包まれる。






この時間が、一番幸せだ。


忙しいリキはいつも深夜に帰って来るし、ツアー中なんかは長い間会えないこともある。


ついこの前まで、ずっと海外でツアーをしていたし。


リキはついて来なよって言ったけど、わたしはわたしで仕事があるからそういう訳にはいかなかった。


……ただその仕事ももう、『ある理由』から辞めようとは思っているけど。






兎に角こうやって一緒に布団の中でまどろむことなんてあまり無いから、この瞬間はすごく貴重なんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る