2枚のチケット

第59話

その日のバイトは、何だかそわそわして集中出来なかった。


コウ先輩の言葉がきっかけで、グレーのパーカーの彼のことも鮮明に思い出してしまって、いつも以上に窓ごしに噴水を覗き見てしまった。


わたしの歌が上手だった、と言って柔らかく笑ったコウ先輩の顔が浮かび──。


薄いグレーのパーカーの彼の残像が、頭を過る。


そして突然、中田くんのあの強い眼差しを思い出す。






何の繋がりもない3人の姿が、ぐるぐると頭を駆け巡っていた。








バイトが終わり家に帰ったのは、0時前だった。


母はもう寝てしまったようだけど、ダイニングテーブルには夜ご飯がいつも通り置かれていた。


キッチンの流しには、けっこう大きめの開いたお酒のボトルが置かれている。


一人テレビを見ながらそれを食べ、なるべく音をたてないようにお風呂に入った。

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