第57話

「あ…。」





驚きのあまり、思わず声が出た。


だって、彼がわたしを見ているから。


初めて、真っ直ぐにわたしを見てくれたから。






実際は数秒だったんだろうけど、長い時間に感じられた。


中田くんは、じっとわたしを見てから再び目線を元に戻すと、何事もなかったのように立ち上がって歩き始めた。


胸が、ドキドキとやたらうるさい。


彼の後ろ姿を見ながら、今更のように自分の顔が熱く熱を帯びているのがわかった。





わたし、絶対に変な顔してた!


中田くんはただ、誰がいるのかふと気になって見上げただけ、って感じだったのに。


何てことない、無意識の行動って感じだったのに。


───わたし一人だけが、物凄く意識してしまった。

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