第9話キャラメルVSサイクロプス!
ジャイアント・アイはその名の通り一つ目が特徴的な巨人族、サイクロプスのひとりだ。
平均一〇メートル前後といわれるサイクロプスの中にあって、彼は二三メートルという桁違いの巨体を誇っていた。
敵対する相手はすべてがチビであり、自分よりでかいやつは世界中を探しても存在はしない。
だから、俺は世界最強なのだ。
そんな折、彼に異世界最強トーナメント開催の知らせが届く。
紙を読んだ巨人は大口を開けて笑った。
「世界最強を決める大会だって? そんなものをする必要はない。ここにいるじゃないか」
でかい奴は強い。
これこそが世の中を支配する絶対的ルール。
今更証明するまでもない現実。
まあ、どうしても開催するというなら教えてやろう。
俺たちサイクロプスと、それ以外の種族との圧倒的力量さを。
興味半分、面倒臭さ半分で挑んだ大会。
彼はいきなり第1試合からのスタートだった。
誰でもいい。俺にとってはハエ同然。早く来い。
既に試合場に上がった彼から少し遅れておずおずといった様子で現れたのは魔法少女だった。
黒いミニハットに茶色い髪、赤縁の眼鏡をかけた童顔の少女である。
蝙蝠を思わせる黒いマントに白いチョッキ姿の彼女は、得物のつもりなのか星形のステッキを構えている。
魔法少女キャラメルを見たジャイアント・アイは呆れて顔を覆った。
俺の相手はガキじゃないか。こんなやつ1秒もかからずに倒せる。
ジャイアントは欠伸をしてから言った。
「お嬢ちゃん。やめときな。俺と戦うなんて正気じゃねぇ」
まるでハエでも払うかのようにシッシッという仕草をするが、少女は微笑をして。
「お心遣いありがとう。でも、私はあなたに勝つわ!」
「夢見るお嬢ちゃんには付き合いきれねぇよ。まあ、そっちがその気なら仕方ねぇ。
ちょっくら相手してやるか。どうなっても後悔するなよ」
一応の忠告をしたジャイアントは、試合開始早々、巨大な掌で少女を潰しにかかる。
パンッ!
紙袋が破裂するかのような音が会場全体に鳴り響き、巨人が掌を開いた時に残っていたのは真っ赤な液体が付着しているだけだった。
見るも無残な光景に会場からは失神者が続出するが、巨人は頭をポリポリとかいて。
「だから言ったのによぉ。まあ、これも勝負の定め。お前さんはよくやったよ」
「勝負あ――」
審判が試合終了を宣言しようとした刹那、彼は言葉を途中で切ってしまった。
会場にざわめきが起きる中、ジャイアント・アイだけが気づいていない。
「あなた、大きな目を持っているのに気づいていないのね。私があっさりとペシャンコにされるとでも思っていたの?」
声をする方を振り向くと、そこにはキャラメルが無傷で立っていた。
巨人は自分の掌をじっくりと見つめると、血だとばかり思っていた液体は苺ジャムだった。
彼女は巨人の思い込みを利用して罠にはめたのだ。
「うおおおおおおおおおおおッ!」
小娘に馬鹿にされた事実が巨人の怒りに火をつけた。
剛腕を振るい、滅茶苦茶に拳を振り下ろす。鉄球ほどもある拳がいくつも降り注ぎ、試合場に亀裂を走らせ、会場全体を揺らしていく。
キャラメルの運命はいかに。
☆
ジャイアント・アイの拳をキャラメルは魔法で長方形のクッキーの盾を召喚して防ぐが、巨人のパンチの破壊力はすさまじく一撃で盾は粉砕されてしまう。
召喚と破壊を繰り返された末に、ようやく巨人の動きが止まった。
怒りに任せた攻撃は無駄と体力の消耗が激しいのだ。
「今度はこっちの番よ!」
一日千回のスクワットによって鍛えられた足で地面を蹴ったキャラメルは巨人の胸の高さまで跳躍すると、回し蹴りを浴びせる。
しかし、巨人の分厚い胸には蚊に刺されたほどのダメージもない。
絶え間なく打撃を繰り出すキャラメルだが、巨人は彼女の華奢な体を右手で鷲掴みにして動きを封じると、一つ目を見開いた。
大きく開かれた瞳から発せられる強力な熱線を浴びせられ、キャラメルは黒焦げとなり、地面に落下していく。叩きつけられた衝撃と熱線による火傷で、荒い呼吸を吐き出すばかりで立ち上がれない。
高くあげられた巨人の足の裏が迫る。
このまま踏みつぶすつもりだ。
キャラメルには巨人の足が迫るのがやたらゆっくりと感じられた。
最期が迫った生物は時の流れが遅くなるが、魔法少女も例外ではない。
クッキーの盾で守る?
ダメだ。壊される。
転がって逃げる?
攻撃範囲が大きすぎる。
このまま倒される?
それは最悪。
キャラメルは魔法の杖から大量のクリームを放出し、それを推進力にして巨人の足裏に頭突きを食らわせた。
いかに巨人といえども柔らかい足裏に超スピードの頭突きをされてはたまらない。
足に針が刺さったような強烈な痛みが走り、衝撃に驚いた巨人はバランスを崩し、仰向けにダウン。
二〇倍以上も身長差のある相手を転倒させたことで、会場から拍手が巻き起こる。
だが、巨人は割とすぐにダメージを回復させて立ち上がってきた。魔法少女は浮遊魔法を発動して宙に浮かんでいるが、再び掴まれたりすれば後はない。
無言の睨み合いが続く。
先に動いた方が負ける。
キャラメルはそんな直感を抱いた。
ふと、彼女は巨人の一つ目が気になった。
彼にとっては最大の武器である一つ目。あの瞳から放たれる熱線をもう一度当たったら、今度こそ負けてしまうだろう。
いや、負けるどころかあの世に直行するかもしれない。
彼女の心を読んだかのように巨人は目にエネルギーを凝縮していく。
もしも、彼の瞳が――
頭に浮かんだ一瞬の策を実行に移すべく、キャラメルは火中の栗を拾うことにした。
危険を承知で相手の懐へ潜り込むのだ。
「はああああああああっ!」
目玉に渾身の蹴りを放つ。
普段は決して攻撃されることのない目玉を、それも技の発動前に蹴られてしまった。
サイクロプスの眼球は最大の武器でもあるが、最大の弱点でもある。
ひとつひとつがキャラメルの背丈はあるかと思われる涙粒を流しながら、巨人は再び倒れると、後ろを向いて怯え、戦闘意思をなくしてしまった。
「やめてくれ。目だけは、目だけは攻撃しないでくれぇ!」
彼の返事を聞いたキャラメルは腰に手を当て、フンッと不敵に笑って言った。
「それじゃあ、降参する?」
「俺の負けだあ!!」
巨人の敗北宣言により、第1回戦第1試合はキャラメルの勝利で終わった。
第1回戦第1試合 勝者 キャラメル
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