プロローグ

 僕は秋花翼あきはなつばさ。ごく普通の高校一年生。毎日しっかりと学校にも行けているし、友だちも居る。勉強もそこそこだし、部活もバスケ部に入っている。


 ここでは僕が中学二年生から三年生の時の話をしようと思う。その頃は学校で成績もまあまあよく、図書委員会の副委員長、委員長もやっていて、部活も今と同じバスケ部に入っていた。

 

 周りから見たら結構順風満帆な中学校生活を送っていたように見えたはずだ。でも、今はすべてを克服してしっかりと生きているんだが、その頃、僕には悩みがあった。それは、


「感情を思いっきり周りに表現することが出来ない」


 ことだ。周りから見てもなにも異変を感じられなかっただろう。でも中学校の頃、泣いた記憶がない。怒った記憶がない。心の底から喜んだことがない。


 周りからだったら全然わからないかもしれない。でも心が全然動いてくれなかったんだ。


 なにかで負けた。悔しい。なにかで勝った。嬉しい・・・・・・


 そんな感情が湧いてこなかった。だからどう自分を表現して良いのかわからなくていつも意識して薄ら笑いをしていた。

 

 周りの友達は特に気にしている様子はないのでそこまで困ったことはなかった。


 でも、自分の心が締め付けられるようにどんどん苦しくなった。どんどん感情が溜まっていってしまった。でも、放出することが出来ない。誰かに思いを打ち明けることも出来ないし、一人でなにかに感情をぶつけることも出来ない。


 ただ自分の中にすべての感情を閉じ込めてしまっていた。ああ、こんな自分が嫌だ。もっと楽に生きたい。そうやって絶望していても、そんな気持ちも全部が全部、心の奥底にしまってしまっていた。


 そんな僕の心の扉を開いてくれたのは君だったんだ。


◇◆◇


 ある日、僕は恋をした。


 ちょうど、もう心が壊れそうなくらいにすべてのことを溜め込んでしまっていた頃だ。


 いや、あれが恋だったのかは今でもわからない。でも、君に出会って自分の中でなにか大切なものが変わったような気がした。


 でも、その恋そのものは儚く散ってしまった。あれは夢だったのではないかと言うほどに一瞬の恋。


 そんな自分をあとから振り返ってみて、あさがおみたいだな。なんて思った。あさがおは朝の短い間だけに咲いて、昼になるともうしぼんでしまう。


 あさがおが咲くのは本当に一瞬の間の出来事なのだ。日が高くなる、早いと九時ごろにはもうしぼんでしまう。


 実は早朝の三時、四時から咲き始めているのだが、その間は起きている人があまりいなく、人目につくのは六時から九時までのたったの三時間なのだ。


 そう、僕の恋は三時間くらいの闇の間と三時間くらいの片思い、三時間くらいの甘酸っぱい恋の時間。そこからしぼんでいってしまったのだ。


 それでも感情を表に出せなかった僕は変わったんだ。あさがおだってすぐにしぼんでしまうけど咲いたっていうことに意味がある。だからいつか君に逢えたならありがとうっていいたい。この感情を思いっきり伝えたい。


 もし、ありがとうって言葉と一緒に花束を渡せるなら・・・・・・


 あさがおの花束を君に。


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