第12話[本音と建前]

「ところで、呼び出した張本人ルークの出迎えは無いのか?」


 セルジュがジェイムスに問いかけると奥の方から歓声とどよめきが聞こえてくる


「セルジュ=ウッドランド卿、流桜るおう日向守ひゅうがもり彦十郎ひこじゅうろう忠国ただくに殿。此度はローディス家の叙勲及び我が当主ルークと私リーゼロッテの挙式にお出て下さり、留守にしている夫に成り代わり感謝致します」


 リズの装いは薄紫のエンパイアドレスに肩掛けのショールの代わりに帝国騎士団のマントを羽織り留め具には何故か皇帝家の紋章をこれ見よがしわざと見せる様に着けている。そして両脇には近衛師団をも含む帝国マグナ・カルタ16騎士団長が勢揃いしていた···つまり···


「ルークの野郎···そう···来るか」


「これは···なかなかどうして」


〘同盟とルークの朋友いう枷が無ければ帝国の平和を踏みにじる者には一切の容赦はしない〙


 と言うリズの···いや、帝国を代表する静かな意思表示宣戦布告


「立ち話もなんでしょうからこちらに。各隊長は各自の判断で解散」


 しかし、誰一人としてその場を離れようとはしなかった


「セルジュ殿、これでは迂闊に手出し出来なくなりましたな」


「フン···ところで子供達アイツらはどうした?」


「御子息達ならば騎士団詰所へ稽古に向かわれましてございます」


 そして、そのカイン、幻十郎、空練息子達一行


「たーのもー」


 フランクに接するカインに対し門兵は毅然と対応する


「恐れ入りますが、アポイントか紹介状はございますか?」


「アポイントは知らぬが、訓練場のみの利用許可をしたためた剣聖クリストフとローディス子爵夫人リーゼロッテ騎士団総長の連名許可証でよろしいか?」


「拝見させていただきます···確認しました。ようこそマグナス騎士団へ」


 空練にとって初めての海外でしかも異国の剣道場、立てかけた見慣れぬ武具にテンションが上がらぬ訳が無い


「おお!来たか、若造共」


 新兵を教える軍曹が手を止め、カイン達を迎えてくれた


「こんなに早く来れるとは思っておりませんでした」


「確かローディス子爵の招待だっけか?レオン剣聖ディアナ剣竜も不在だがマグナス帝都に居る間は遠慮なく研鑽してってくれ」


 空練の目に訓練場の横で少年を指導している若い女性が写る。空練は道場主の父親に何度掛け合っても入門が許されなかったので少し少年を羨ましく思っている


「軍曹殿、ここはあんな女子供にまで門戸を開いておるのですか?」


 軍曹は空練の何気ない質問にビビり小声で


「この際、良い機会だから言っておく。あのお子は帝国マグナ・カルタ第三王位継承者ピエール王子なるぞ、粗相の無い様にな。隣のはローディス子爵の代わりに剣を教えている中央騎士団のアリス=ハミルだ、見た目に騙されるなよ?ああ見えて猛者揃いの中央騎士団に居るだけに強いからな」


「でも女子おなごでしょう?手数と速さを警戒すればなんて事無いです」


「ハミル!ちょっと良いか?」


「なんですか、軍曹」


「このやまとの客人が騎士団流の鍛錬を味わいたいそうだ。王子もお疲れの様だし」


「軍曹、ボクは見てても良い?」


「かしこまりました。誰か王子に椅子と客人に訓練用の木刀を見繕ってやれ」


 若い兵士は空練を保管庫に連れて行き一通り見せた中で空練が選んだのは廃棄された建設用足場板を素振り用にこしらえた厚さ3cm1寸15cm5寸刃渡り120cm4尺の斬馬刀を模した木刀、応ずるアリスが選んだのは刀身が90cm3尺と長く握りが51cm1尺7寸の柄が長めの木刀だ


「あの体格で大太刀物干し竿を使うのか」


「多分、身体の小ささを補う為の両手剣ツーハンか。パワーファイター対決と言う訳だな···幻十郎、見ないのか?」


「見なくても分かる」


「お前はどっちだ?俺はハミルさん」


「それじゃあ賭けにならん、ハミル殿は剣士として我々より1歩先んじておる。剣の質が違う」


 空練は大木刀を軽々と上段に振り上げ大きく吐いた気合いの声と同時に振り下ろすが、アリスは真横から大木刀に足を乗せてその勢いのまま横回転して空練を横薙ぎに打ち付けた


「ぐおっ!?」


 本来ならアリスの回転斬りで吹っ飛ばされるなのだが空練は倒れずに右腕1本で大木刀を肩に担いで立っていた


(ウソでしょ?フィリップ隊長とはいかないまでも私の回転斬りを!?)


「参り···ました」


 空練の敗北宣言でその場はアリスに軍配が上がるが勝ったアリスはどうにも釈然と納得してない


「軍曹、この立ち合い私の負けです」


 その場に居る全員が耳を疑った


それがしに恥をかかせる気か!」


「違うわよ、キミが普段使ってるあの刀で対峙してたら私はあんな戦い方をしなかった。キミも貴方達も私達マグナ・カルタ甘く見なめてるから勝っても嬉しくない」


 アリスはピエール王子を連れ訓練場を後にする


「ハミル、ボクはハミルが無事で良かった。ルーク先生も剣聖レオンも褒めてくれるよ」


 ピエールのあどけない笑顔がアリスのにキュンとくる。一方、残された若武者は


「流石はって所か」


「帝国に来るまでは某もカイン殿も[身知らずの口叩き]でござった。空練にも見聞を知って貰おうと父上と天嶺佐々木先生に同行を頼んだ甲斐があったものよ」


「幻十郎、そこは[井の中のかわず大海を知らず]じゃねーの?」


「それには[されど空の青さを知る]と続きがごさってな、我々は己が流儀を極めてはおらぬゆえ蛙にすらなっては居らん」


 そして宿の一室ではリズとセルジュと彦十郎の3人が一同に介している。無論、室外からの盗聴を警戒し振動遮断エリアミュートの魔法をかけている


先生ルークの言葉を代弁させていただきます」


「さっきのは違うのか?」


「アレは帝国の立場上のです。これから話す事は先生のです」


「なるほど、ルークアイツらしい」


「ベトナ遺跡の事は既にご存知かと」


「報告書には手練の冒険者でも手に余るから、許可を得ず勝手に入ったら助ける事は出来んって書いてあったな」


「それにルーク殿はその遺跡を封じる為に事故に遭われたそうだが」


「セルジュ卿と彦十郎殿だけには伝えて欲しいと言われておりましたのでかような場ではございますがご容赦ください」


 リズが深々と頭を下げると


「まったく···ルークの奴ぁを迎えたもんだ。俺の妻程じゃ無ェがな」


「ありがとうございます。コレは私も半信半疑なのですが先生は御二人なら聞いてくれると信じておりましたので、そのまま言わせていただきます」


 リズは2人にルークが見聞きした事をそのまま伝えると2人の表情が固まる


「コレはルークアイツを叱らねばならんな。どう思う?彦十郎」


「全くだ、今回ばかりはルーク殿が悪い」


「と···おっしゃいますと?」


「リーゼロッテ殿は御存知でしょう?ファルザードとやまとにも[遺跡]があると」


「ええ、聞き及んでおります」


ファルザード我が国のウルカヌス火山の虚空ヴォイド遺跡と倭の京極きょうごく領で管理している黄泉比良坂よもつひらさか、どちらも神殿や社を建立し管理して人払いをしている」


「それでは我が国でも同じ様にすれば···」


 気がはやるリズをセルジュが留める


「建立し人の深層意識からその場を畏れさせるにはそれなりの理由が必要だろう、ただ[危険だから]とか[鉱夫の慰霊]だとパンチが弱い」


「黄泉比良坂は冥界の入口として理由はありますし、虚空遺跡はセルジュ殿が荒神と化した土地の山神を封じましたからね」


「あー、あん時ゃ彦十郎お前にもルークにも世話になった」


「先生がそんな事を?初めて知りました」


「そん時ルークの奴「故郷で学校の先生になります」ぅ〜とか言ってたクセに今じゃ子爵の片手間に修理屋やってんのかよ」


「実際、教師はされてました。私も6年間お世話になりましたから」


「あ、そうなんだ。だからルークアイツを先生呼びしてたんだな」


「某も違和感を覚えておりましたが成程、そういう間柄でござったか」


「しかし、遺跡を封じるのに神殿を建立するのは良いアイデアなのですが···キョムス闇の=サン光明=トゥーン結社とメロリン教の存在がベトナ遺跡を根城にするかと思うと正直鬱陶しいですね」


「あー···ソレがあったか」


 彦十郎は渋い顔をするセルジュに問いかける


「何ですか?その如何にも怪しい団体は」


「倭でも居たろ?博之上人と大天狗党というケチなテロリストが」


「そういえば居ましたね、あの時はルーク殿に我が殿が助けられましたな」


「その時も大怪我してたよな?確か···背中をこうズバーって。防護プロテクトが間に合って致命傷は避けられたがな」


「それがあの背中の傷だったんですね」


「彦十郎、俺ぁ滞在中ベトナ遺跡に向かう。お前も行くだろ?」


「愚問ですな、ルーク殿なら我々を連れてくでしょうし」


「先生の事、分かってらっしゃるンですね」


「そりゃあ立場はあれど戦友ダチだからな」


「それでは明日、案内役を使わせますのでベトナ遺跡へどうぞ。騎士団詰所にベトナ遺跡直通の転移門ゲートを通しておりますので」


「そういう便利なモノがあるのか!?」


「いえ、帝国には時をつかさどる八大賢者モンド様が居られるとか。ならば不思議ではありますまい」


「では、土地の冒険者ギルドには私から話を通しておきますので。明日の朝お迎えにあがります」


 リズは一礼して宿を後にする、2人はその後ろ姿を見送りながら


「あの器量、胆力。ルークの奴にちょうど良いな」


「自己肯定の低い奴ですからな、確かにあのぐらいでよろしいかと。さて某は明日の準備でも致そう」


「久しぶりだな、に戻るのは」


「ええ、城務めデスクワークで鈍った腕を取り戻しましょうぞ」


 その部屋の片隅で燭台の影がスッと動いたのを使の騎士のセルジュは勘づいた


「どうかなされたのか?」


ルークあの野郎め、あの嬢ちゃんや俺等に悟られずに闇の精霊スパイ仕込んでやがったか。影なんてどこにでもあるからノーマークだったぜ」


「恐らく護衛と伝令でしょうな」


「だとしてもだぞ、ここからベトナ遺跡までどれだけ離れてると思ってンだ?流石の俺でも半径1kmがギリだ」


「本当に恐ろしい奴になったものよ」


 ベトナ遺跡、鉱夫寮


 ルークは塩と香辛料に漬けた干し牛肉と天日で乾燥させた食用キノコに干した麦、近場で採れる野草を煮た簡単な麦雑炊を作っているとがルークの影と一体化する


「そうか、2ならせいぜい中層までは行けるか。ボクも強くなっとかないとなぁ···」


「どうかしたのか?」


 モンドに人間用の食事は塩分が高すぎるので坑内に徘徊していた首狩り兎ヴォーパルバニーの肉を焼いて冷ましたのを与えている


「ボクが尊敬するベトナ遺跡ここに来るんですよ」


「逆にルークお前が尊敬しない奴を見た事が無ェ」


「居ますよ、ただモンド様の近くに居られないだけで」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る