名も亡き化物は哭き縋る

絵之色

第1話 プロローグ

 人の死とは、どれだけの価値と意味があると人々は評価するのだろう。

 名が知られている存在のみが、価値があるのだろうか。

 名が知られていない存在は、意味がないのだろうか。

 何も語られていない白紙のページのように、自分にとって無回答なのだろうか。

 それとも、なんの意思もないと切り捨てられる燃えカスなのだろうか。

 その意図も、問いも……人々はなんと語るのだろう。


「……ああ、不思議だ」


 一匹の化物は口にする。

 まるでこの世の不思議への探求心に燃える学者のように。

 まるでこの世の全ての善悪を踏破してきた読者のように。

 彼の者は、問うのだ。

 どこまでも無垢を気取る白き世界で。

 どこまでも垢塗れな黒く塗りつぶされている自分はただ一人、回答を求めた。

 

「この世界は、正常と異常。どちらが正解なのかを投げかけようじゃないか、なぁ? ――――その他に分類される、その他大勢の皆々様」

「いや、いやぁ!!」


 彼の者に握られた鋏は世界を分断する。

 時に白と黒、有色と無色のように。

 時に善と悪、正義と不義のように。

 時に理想と無想、傲慢と無垢のように。

 彼の者は、少女を分断する。


「ああ、楽しみだ。楽しみだ。楽しみだ。それこそ汝の存在理由……とくと思い知ってもらおうか。お嬢さん」


 鋏に血が纏わりつく。

 人々は、彼の者を無情むじょうと評す。

 人々は、彼の者を悪意あくいと評す。

 人々は、彼の者を醜怪しゅうかいと評す。

 その意図は、どこまでも単純明快な正解だ。

 月光に照らされた夜道にて、刃に滴り落ちる一滴の血が伝う。

 月が彼の者の在り方を表わした。

 赤く咲き誇った醜い少女の姿と共に黒尽くめの人物は囁いた。


「さぁ――――ゲームスタートだ」


 ――その者を、猟奇殺人鬼と人々は呼んだ。

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