イケメンとザリガニガール

士流

第1話 ザリガニガール降臨

「 ついに今日から高校生か」


俺は学校へ向かう道中、一人で呟いた。


俺の名前は池面強いけめんつよし。身長175cm、体重68kg、髪の色は虹色のドレッドヘアーでこれといった特徴は無い。


だが、そんな俺にも夢はある。


心も身体も今よりイケメンになり、恋をすることだ。


そして今日は高校の入学式で初の登校日だ。今日から気合を入れてイケメンを目指そう!


俺は意気込んだ。


俺が入学する高校は池照高校いけてるこうこう。確か2歳くらいの頃、かなりの名門校だという噂が流れていた気がしたから入学を決意した。


俺は学校へ向かう途中、ある男の事を思い出していた。

その男の名は半寒武はんさむたけし。俺のライバルだ。


中学生の頃、みんなが50m走で30秒の壁を越えられない中、半寒君は27秒という大記録を叩き出した。29秒で満足していた俺に更に上を目指せると教えてくれたのが彼だった。


半寒君も池照高校に入学すると聞いたし、高校生活が楽しみだ。


半寒君の事を考えながら通学路を歩いていると、曲がり角で誰かとぶつかって尻もちをついてしまった。


「 いだーーーい!!! お尻の骨、30本くらい折れたぞこれ!! いだいよーー!!」


俺はあまりの痛さに泣き叫んでしまった。


「 あの、大丈夫ですか?」


泣き叫ぶ俺にぶつかった相手が手を差し伸べた。


手を差し伸べた相手は女性で、制服からして俺と同じ池照高校の生徒らしい。桃色の髪を三つ編みにした可愛らしい子で、口にはザリガニを咥えていた。


その子を一目見て思った。これが恋なのかもしれない……。


いや、恋だ!!


俺はザリガニを咥えた美少女に一目惚れをしてしまった。


これが恋……運命の出会い……。


とりあえず俺は、ザリガニを咥えた美少女の手を取ろうとした。


だがその瞬間、美少女の咥えていたザリガニが暴れ出し、俺の方へ飛んできた。


「 うわっ」


俺は驚いて大きく口を開けてしまった。


そしてザリガニは俺の口に入った。


……これは……まさか……。


ザリガニ間接キス!!!!!


まさか高校入学初日に間接ザリガニキスをしてしまうなんて、なんて、なんて、、、


なんて幸せなんだ!!!!!


俺はあまりの感動に気を失ってしまった。



「 俺は一体……」


それから目が覚め、小指に嵌めていた小指時計を確認した。


「 36秒ってとこか…」


どうやら俺は36秒ほど気絶していたらしい。


ザリガニも美少女の姿も無かった。


「 あの子、うちの制服着てたしまた会えるかな……。いや、また会える!必ず会える! ザリガニ間接キスをしたんだ……彼女とはきっと、運命の赤いザリガニで繋がっているに違いない!」


俺はザリガニ少女との出来事を思い出しながら学校へ向かった。


学校へ向かい歩いていると、帽子を被った若い男性がいきなり声をかけてきた。


「 おはようございます! よろしければこちらの商品買いませんか? お得な値段となっていますよ!」


朝からとても元気な男性だな…。


フェイスもなかなかイケメンだし、物によっては買ってあげなくも………。


「 なんだとっっ!!」


男性が手に持っていたものはスプーンだ。しかも木製。


「 今ならお値段なんと、1本、2万9800円です!!」


安い! 安すぎる!!


木製スプーンが1本、2万9800円だと!!


欲しい、絶対欲しい!!


俺はポケットから、折り紙で作ったマイ財布を取り出し、いくら入っているか確認した。


「 6円か……」


くそっ!! あと少し足りない!!


今から銀行へ行ってお金をおろしてくるか?


いや、そんな事してたら学校に間に合わない。


どうする、絶対スプーンは欲しい!!


俺が困っていると、後ろから男性の声が聞こえた。


「 すみません、そのスプーン100本ください」


その声には聞き覚えがあった。


まさか、このボイスは!!


「 よう、池面。久しいな、中学卒業以来か?」


「 半寒君!!!!!」


スプーンを100本購入しようとしているその男は、中学の同級生であり、俺のライバルである半寒君だった。


半寒君は相変わらず、スキンヘッドにイチゴ柄のカチューシャとサングラスを掛けている。


やっぱりハンサムだな……。


「 ありがとうございます! お会計298万円です!!」


スプーン売りの男性はとても笑顔だ。


「 現金でお願いします」


半寒君は現金でスプーン代を払い、俺たちはその場を去った。


「 久々に良い買い物をした。池面、お前にもこのスプーンを30本程くれてやろう」


「 ガチかい!? 欲しい!」


半寒君はスプーンを30本くれた。


さすが俺のライバルだ。


だがひとつだけ疑問が残った。


「 半寒君、大丈夫だったのか?」


「 何のことだ?」


「 スプーン100本じゃ足りなくないか? せめてあと300本は買っといた方が良かったんじゃないのか?」


俺は疑問に思っていたことを聞いてみた。


「 おいおい、そんなに買っちまったら他の人が買えなくなるだろ? このスプーンはかなりのものだ。俺たちだけが買い占めて良いものじゃあない。池面、お前もそう思うだろ?」


「 その通りだな」


俺はなんて愚かな人間だったんだろう。それに比べて半寒君は……。


「 ありがとう半寒君。俺はまたひとつ成長しちまったみたいだ。礼を言う」


「 気にすんな、俺とお前の仲だろ?」


俺たちは笑いながら学校へ向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

イケメンとザリガニガール 士流 @supershiryu777

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ