アライグマもどきのできること


いつもと比べて短いです

―――――――――――――――




アライグマもどきが突然やってきて、イタズラをして、急にここに住むだなんて言い出して。


これからもイタズラをされては困る…。ていうか、コイツをおいても害しかない気がする。


腕を組みながら、ちょっと遠くのほうにいるアライグマもどきを見つめる。

…うん、顔がすごく悪い。絶対悪いこと考えてそうだ。

条件付きで住まわせるか?

いや、そもそも、アライグマもどきって一体なにができるんだろう…。


「おい、アライグマー」


名前が分からなかったから、適当にそう呼んでみた。

と、当のアライグマもどきは急に顔を真っ赤にしてキィキィ言い出した。


「俺様の名前はあらいぐま?っていうやつじゃねぇ!カン太って名前がちゃーんとあるんだ。覚えとけこのクソ人間ッ!」


「く、クソ人間!?」


言いすぎじゃないか!?まあいいけど…。

アライグマもどき…じゃなくて、カン太(なんか人間みたいな名前だな)はしっぽをふりふりしながらそこらへんを走り回っていた。



「と、とにかく。お前はここに住みたいんだろ?」



そう聞くと、急にカン太が立ち止まって、きゅるきゅるの丸い目で僕を見つめた。


「もちろん住みたいに決まってるだろ!」


小動物か!!

というツッコミたい気持ちを抑え。


「……そういえば、お前寝床とかないのか?」


気になっていたことをド直球に聞いてみた。寝床があれば、ここに住む必要もない気がするけど。

と、カン太が、急にしゅんと肩を落として言った。

明らかにテンションが落ちている。


「……さっき、ボアに寝床つぶされた。あとからきた天使族の女にも踏み潰されたから寝床はない」


「そ、そうか」


それにしても、ボアと天使族の女って…。

一瞬、頭の中に想像してしまった顔をかき消すように、ブンブンと頭を横に振る。

い、今のは聞かなかったことにしよう。


それにしても、寝床がないのはかわいそうだな。


僕もちゃんとした寝床はないけど、カン太くらいの大きさだったら作れるんじゃないか?

もちろん作り方は知らないけど、教えてもらったらきっとできるだろう。


「よし。じゃあ、寝床は用意してやる」


「ほ、ほんとか!?」


カン太がくりっくりの丸い目ん玉で僕を見つめてくる。

うーん…悪い顔してるときは悪いけど、こういうときは可愛いな。


「…その代わり!こっちの条件も聞いてもらえればな」


「おう、聞いてやるぜ!」


自信満々に答えるカン太さん。


とにかく一番優先すべきことは、みんなにイタズラしないこと。

さっきも団長をケガさせたし。女の子なんかにケガさせたらマジで許さん(おっさんがにじみ出ている気がする…)。


カン太はなんとか首をタテに振ってくれた。どうしてもイタズラしたかったみたいだ。


どんだけイタズラ好きなんだよ…。

あと、どうしてもってときは僕に襲い掛かってくれとも言っておいた。

それから、僕はカン太にできることを聞いた。


カン太は胸をそらせたあと、自慢げに言った。


「ふふん、よくぞ聞いてくれた!もちろん、俺様はただの動物なんかじゃあないぜ」


そりゃそうだよな。しゃべってる時点で、普通の動物じゃないもんな。

一体何ができるんだ?このアライグマもどき。

「今からそれを実行することはできるか?」

「もちろんだ!まあしばらく待て」

…絶対しょうもなさそう。

カン太のことだからな。しょぼそう。…まだ出会って数分だけど。

と。



「うおおおおおおお!」



急にその場で雄たけびをあげたカン太から、青いオーラのようなものがゆらゆらと立ち上った。


な、なんだなんだ!?


青いオーラと、みるみるうちに噴き出してきたケムリが視界を覆う。

なんかカン太の影が大きくなっていくように見えるんだがっ…!?


にょきにょきと長い手足が生えて、僕と同じくらいの身長になって―。


「マシロさん、わたしの後ろに!」

「お、おう!」


団長が前に出る。思ったよりもデカい背中でびっくりした。

なんか用心棒みたいだな。頼りになる。

…が、背中がデカすぎて前がよく見えなかった。


唯一分かるのは、今オーラのようなものが消えたということ。

続けてザッザ、とこちらに向かってくる音が聞こえた。


カン太の足音か?それにしては、歩き方が人間っぽいような…。

そんなわけないか。相手はアライグマもどきだもんな。


「マ、マシロさん。見てください」


団長が驚いたような声を出す。

…まさか、カン太がでっかくなったのか?

いやいや、そんなバカな―。



「俺様が本気を出せば、これくら余裕よ!がーっはっはっは!」



胸を張って笑っていたのは、僕と同じくらいの身長をした少年。が、一人。

豪快に笑っていた。

グレーの髪の毛を一本にまとめていて(といっても僕よりかは長くない)、日焼けした黒い肌を露出していた。



「え…だ、誰?」



正直な感想を述べた。

と、その少年は見るからにショックを受けた表情をする。


「も、もう忘れたのか!?俺だよ、俺!」


「オレオレ詐欺?」


「なんだよおれおれさぎって!ざけんなっ、もう俺のこと忘れたのかよっ!」


「そ、そう言われても…」


困っていると、団長がこそっと耳打ちした。

「たぶん、カン太だと…」

「カ、カン太ァ!?」


思わずデカい声が出てしまった。

カン太はふふんと胸をそらせ、鼻息を出す。


カ…カン太?コイツが?


アライグマもどきのときの姿が頭をかすめる。

目の前の少年の頭には、アライグマもどきと同じような耳が頭についていた。

…目つきとか、どことなく、カン太に似ている。



もしかして、カン太はアライグマもどきの姿から人間の姿になれるのか!?



まじまじと少年の…カン太の顔を見つめる。

見るからにヤンチャそうな顔をしていた。

ガキ大将みたいだな。

ていうか、



「…できることってそれだけか?」



人間になれるのは分かったけど…これからなにか起こるのか?

それともこれで終了かな。

…べつに、これは独り言のつもりだった。

が、僕のつぶやきが聞こえたのか、カン太は急にあたふたし始めた。



「え!え、えーと………お、俺様、これ以外できること、ない…」



それを見て、僕は団長と顔を見合わせた。

急にしゅんとしょぼくれたカン太を見て、急に母性本能がうずくのを感じる。


あ、あんなにいたずらっ子で可愛くないカン太が、少し可愛く見える自分がいるっ…!

くそぅ、こんなとこ見ちゃったら住まわせるに決まってんだろバカがぁ!

気持ちを切り替えるように、僕はごっほんと大きく咳払いをする。



「し、仕方ないな。二度とイタズラをしないんだったら、今日からここに住まわせてやってもいい」



えっほんと咳払いをしてからそう告げる。

と、しょんぼりしていた顔が見るからに明るくなった。

「ほ、ほんとか!い、言ったからな!?」

「僕は嘘をつかないぞ!」

目をキラキラさせながらそう言うカン太。


ぼふんっとケムリを上げてもとのアライグマもどきの姿に戻り、わーいわーいとずっと飛び跳ねていた。

すると、急にこちらを振り向き、とててと駆け寄ってくる。


「そういや、お前の名前はなんていうんだ?」


カン太が僕に尋ねる。

あれ、言ってなかったっけ。

「僕はマシロ。仲良くしてな」

「お、おう」

差し出した手のひらに、カン太の小さなアライグマの手が乗る。


ああ…アライグマってほんとカワイイ。ちょっと見た目違うけど。


中身も可愛かったらよかったな…。

なんていうのは、願望である。


―こんな感じで、急にやってきたいたずら好きのアライグマもどき…じゃなくて、カン太が、仲間に加わったのだった。




―――――――おまけ―――――――

ベツに読まなくてもいいヨ。読んだほうがいいっちゃいいかもしんないけど。

マシロ…マ  カン太…カ


マ「カン太の種族ってなに?アライグマ?」

カ「むっ。そんなだっせぇ名前じゃねぇ!」

マ「ダサいとかいうな、アライグマ様を!」

カ「ふん。…俺様の種族は“アレエグマ”だ。よーく覚えとけクソ人間!」

マ「アレエグマ……あと僕はクソ人間じゃない」

カ「うっさい!」


アレエグマ…聞いたことない種族。

どことなくアライグマと似てるな…というかアライグマのパクリ?

と思ってしまったマシロであった。


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