団長のお願い
「今日はもう遅いから寝よう。団長たちは野宿するよな?」
いつのまにか暗くなっていた空を眺め、僕は言った。
「そうさせてもらいます」
ぺこりと団長が頭を下げる。敬語、やめてくれていいのにな…。
改めてSSSランクの恐ろしさを知る。
SSSランクの武器をあげると言ったとき、団長は僕に対して敬語になった。
僕はただタネを植えるだけで、僕が頑張ってつくってるわけじゃないんだよなぁ。
ちょっぴり罪悪感に浸りつつも、小屋のドアを開ける。
団長たちは、ティスを含め野宿の準備をしていた。
ティスが集団の中で普通に笑っていて一安心する。
やれやれ。なんとか戦わずに言いくるめられてよかったよかった。
僕はあくびをしながら、小屋の中に入った。
「―改めて。きみたち、どんな武器が欲しい?」
翌日。
武器を与えることになった三人を小屋の前に呼び出した。
小屋の前にやってきた三人…団長のグルーバ、副団長のハーツとフルールを前に、僕はそう聞いてみる。
団長はアゴに手を当てながら言った。
「そうですね…わたしは剣が得意なので、やはり剣でしょうか。できれば、切れ味がよく、かといい軽いものを」
ちゃんと具体的で助かった。
…いや、実際植えさせるのは団長たちのほうがいいのか?
と、ハーツが言った。
「俺は弓で!今まで使ってた弓はもう古くて使いづらかったので…」
ほう、ハーツは「こういうやつがいい!」っていうのはないんだな。
まあいいけど…。
「わたしはオノをっ。…たった一振りすれば敵が消滅しちゃうくらいのオノがいいですねっ」
フルールが赤くなった頬に手を当てながら言う。
お、おう…フルールが一番恐怖?
でもまあ大丈夫だろう!
「三人とも、剣と弓とオノでいいんだな?」
三人がコクリとうなずく。
「じゃあ、一週間以内には用意してやるから、もうちょっと待っててな。今日も野宿していいから」
って、ここら辺は僕が仕切ってるわけじゃないんだけど…。
「感謝します」
ペコリと頭を下げたあと、三人はそれぞれどこかに行ってしまった。
礼儀正しくてなにより!
よし。始めるか!
♢♢♢
えーと、団長は剣だったよな。
切れ味がよくて、軽くて、…あとは、どんなに強い魔物でも倒せちゃうような剣!
で、ハーツは弓。特に願いはなさそうだったけど、サービスだ。
弓だけじゃなく、矢も育てることにした。
そうだなぁ…弓は、軽くて使いやすいもの。あとは何年も使い続けられるものかな。
矢は、先が鋭くて、毒が塗ってあるもの!と、普通の矢。
最後にフルール。オノだったか…。
軽くて、一振りすれば敵が消滅しちゃうオノ。ついでにちょっと可愛いやつ!!
必死で念じて、三つのタネに土をかぶせる。
よし、完了!
これでSSSランクの武器が育ったらいいんだけど…。
そこまで考えて、ハッとした。
これでSSSランクの武器が育たなかったら…団長たち怒っちゃうのでは!?
だ、大丈夫だよな。うんうん。
内心心配になりつつも、立ち上がる。
足元に置いていた巾着を拾い、小屋の中になおす。
そしてシャベルを取り出した。
そう。井戸づくりの続きだ!
僕の予定だと、今日中には水が見える…予定。
ぐーきゅるるるる…
あ。
お腹の虫が立派に鳴る。
誰にも聞かれてないよな!?
あたりを見回すが、誰もいない。よかった…。
お腹をさすりながら思った。そういえば、昨日なんも食べてない…。
ティスにまた狩って来てもらわなきゃ。
「ごめんだけど、ティス知らない?」
近くにいた天使族AとBに聞いてみた。
「ティスですか?知りませんけど…」
「今日は一度も見てませんよ」
そ、そうか。
い、一度も!?朝っぱらからどっか行ってんのか…?
お礼を言って、その場を立ち去る。
うーん、狩りに行ってほしいのは本望だけど、どっちかといえば井戸のほうが大切な気がする。
さっさと井戸づくりを終わらせたい!!
そのためには、ティスを探さなければ。ティスがいないと、土を運べないのだ。
…でも、今日は一度も見てないってどういうことだ?
さすがに一人くらいは見てるだろう。
そう思い、天使族C、天使族D、天使族Eにも聞いた。
が、誰も見ていないという。
うーん…どこに行ったんだ?
と。
ドドドドド、と後ろから足音が聞こえた。
悲鳴も聞こえる。え、何が起こってる?
「マ、マシロ!そこどいてっ!!」
えぇ!?
バッと後ろを振り返る。と、見覚えのあるイノシシの顔が間近にあった。
「うわぁあぁっ!?」
絶叫しながら、あわてて右に避ける。
イノシシはスピードを緩めることなく、木に激突。
そのまま力尽きたのか、動かなくなった。
「マシロ大丈夫?」
あとからやってきたティスが、心配そうな表情を浮かべる。
「だ、だ、大丈夫…」
思わずしりもちをついてしまった。イノシシ、怖え…!!
「そろそろ食べ物もなくなるころだし、ボアを狩ってたの」
そ、そういうことか。
が、もうボアは食べ飽きたなぁ…。
これが正直な感想だった。
♢♢♢
ティスに井戸づくりを手伝ってもらおうと思ったが、再び逃げ出したボアを追いかけてまたどこかに行ってしまった。
イノシシ…生きてたんだな。そのまま逃げ延びてくれよ!
仕方ないので、一人で井戸づくりを行うことにした。
ジャンプして下におりようと、ぐっと腰を低くする。
一度はしてみたかった。ジャンプしておりるやつ!
ちょっとカッコよさそうじゃない!?
よーし、いくぞ。いーちにーのさん!
「えいやっ!」
「マシロさん!」
「うぇっ!?」
ジャンプしたとたん名前を呼ばれ、へんな声が口から出る。
団長か!?バッドタイミングッ!!
「マ、マシロさん!?」
ズドーンッ
見事にお尻から着地。
いっ…たぁ!
足から着地するつもりだったのに!
ゆっくりと立ち上がりさすさすとお尻を撫でる。
よじよじと土のカベを上り、にゅんっと地上に顔を出した。
「す、すみません…」
団長がしゅんとうなだれていた。やだおっさんなのにちょっとカワイイ!!
「…いや、べつに謝らなくていい。どうかした?」
ジンジンと痛いお尻の痛みを我慢しながら尋ねる。
「マシロさん。少しお願いがありまして…」
「お願い?」
はて…お願いとは。
「内容によるけど、言ってみろ」
「はい。…よければ、副団長のハーツとフルールをあなたさまの配下に加えさせてやってほしいのです」
団長は真剣な顔でそう告げた。
はい…はいか?…配下!?
そ、それって、部下みたいな?僕に部下なんか…っ。
と、そこまで思って、ここは現代じゃなく異世界だと思い出した。
もぞもぞ地上に出て、顔の前でブンブンと手を振る。
「だ、団長も冗談が好きですねぇ…」
「冗談ではありません。本気です」
「う、で、でも、ハーツたちは納得したのか?」
そう。そこ重要!
二人がうなずかなきゃ、僕は承認しないっ。
…そもそも配下に加えさせてほしいっていうのも承認してないけど!!
というか、なんで配下になりたいんだよ!
「はい。二人とも喜んで納得しました」
ウソ―ン!!!
二人の笑顔が頭の中に浮かび、ぶるぶる震える。
「で、で、でも、あの二人は副団長なんですよねっ…?もし僕の配下に加わるとなったら、騎士団から離れることになっちゃうのでは…」
「それは大丈夫です。じき副団長の目星はついております」
うわああああああ!!泣
これはうなずかなきゃ引いてくれないパターンだ。
「だ、だけど配下なんて!配下の意味知ってますか、自分のさしずのもとにある人ですよ!?」
「あの二人は、命令といえばなんでもこなします。きっと大丈夫です!」
ガッツポーズしないでよおっさぁぁん!
僕に配下なんていらないのにっ。せめて仲間―。
仲間?
そ、そうだ。配下じゃなくて仲間にすればいい!!
「団長!僕は二人を配下じゃなくて仲間にしたいっ」
「仲間、ですか?」
「うん。配下といっても、頼むことは食料調達とか、そんなもんだし。ティスだって仲間だけど、自由にしてるし…ダ、ダメか?」
ちらりと上を見る。と、団長は「うぐっ」とヘンな声を漏らした。
「…マシロさんがそう言うなら。では、改めまして。
―あの二人をあなた様の仲間にしてやってください」
「は、はいっ」
ピンと背筋を伸ばす。
団長が頭を軽く下げたので、僕もあわてて下げた。
「…あの、ちなみにどうしてはい…ごほん、仲間にさせてほしいと…?」
団長は頭を上げながら言った。
「あの二人…マシロさんのこと、気に入ったみたいなんです。詳しいことは、本人に聞けばわかります」
そ、そうか。
…とまあ、こうして、新たな天使族の仲間―ハーツとティスが増えたのだった。
―――――おまけ―――――
「そういえば、マシロさんって女なんですか?」
「だ、団長!?ち、違うけど!!」
「そんな可愛い顔して男なんですか!?」
「そうですけど!?」
「…ちょっと触らせてもらうことって…」
「でっ、できるわけないだろ!!」
ティスとおなじこと言ってる…。天使族ってこうなのか!?
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