第2話 能力の穴
「ぐはっ!!!」
俺の頬に番長の右ストレート。
脳が揺れる・・・。
くそっ!もう一度だ!
俺は意識がもうろうとする中、もう一度心の中で叫ぶ。
「拷問はじめ!拷問はじめーーー!!!」
何も起きない・・・。
なぜだ!なぜ!
番長が口を開く。
「ふん、骨のねえやつ!
まあ、これで噂もなくなるだろう。
ここからは俺の個人的なイジメの開始だぜ!」
なんて卑劣なやつ。
まだ殴ろうってのか!
くそーーーー!!!
俺はやぶれかぶれにもう一度心の中で叫んだ。
「拷問はじめーーーーー!!!」
パっ!
視界が切り替わった。
あの拷問部屋だ。
しかし、なぜさっきは拷問部屋に切り替わらなかった!?
そうか、やつには、メンツを丸つぶれにされたから、それを元に戻したいという大義名分があった。
だが、今は、ただ自分の憂さ晴らしという悪意しかない。
その悪意にこの能力は反応したのだろう。
あとで、一般人にも試す必要がありそうだ。
一般人に試して、拷問部屋に切り替わらなければ、この能力は悪意を持つ人間にしか反応しないことが立証できる。
さて、分析はこのくらいにして、拷問をはじめよう。
「な、なんだこりゃあ!!!」
四肢をおもり付き鎖で拘束された番長がいた。
「てめえ、なにしやがった!
って、よく見りゃ、俺の子分が言っていた拷問部屋じゃあねえか!
あいつ、本当のこと言ってたんだな・・・。」
さあて、この番長、どう調理してやろうか。
野良猫の分、俺への顔面パンチの分、今までこいつにいじめられた人々の分。
こいつは多くの罪を背負いすぎている、殺してもいいのでは?
いや、さすがに殺しはまずいか・・・。
俺はまず拷問椅子に無理やり座らせた。
「うがああああああ!
てめえ、こんなことして、ただじゃ済まねえぞ!!!」
そうか、こいつを生かすということは、後に報復が来るということ。
殺しはまずいから、報復できないよう、両腕切断くらいにしてやろうか。
「大丈夫、安心しろ。
お前が俺に報復できないくらい、ズタズタにしてやる。」
俺は引き裂き台を用意した。
「て、てめえ、何をする気だ!」
「ここに来い。」
「そうやすやすと行くわけねえだろ!」
バチンっ!!!
「ぎゃあああ!!!
わ、わかった、いきゃあいいんだろう・・・。」
番長は重そうなおもりをゆっくり引きずりながら、引き裂き台の前に来た。
俺は番長の胴を台に固定し、両腕を縄で縛った。
そして、ハンドルを回すと、腕に縛った縄がどんどん巻かれ、腕が引き延ばされていく。
「て、てめえ!
なんて卑怯なことしやがる!」
「ふん、貴様が行ってきた数々の所業に比べたら、こんなの普通だろ?」
「カツアゲ、野良猫いじめくらいしかしてねえよ!
あんまりじゃねえか!」
ブッブーーーー!!!
ウソをついている証拠のブザーだ。
「正直に言え。
ウソをつくたびに腹にムチを入れるぞ?」
バチンっ!!!
「うがあああ!!!
わ、わかった。
集団リンチ、いじめ、万引き。
どうだ? これで全部だ。」
ブッブーーーー!!!
「往生際の悪いやつめ、まだ吐いてないものがあるな?」
バチンっ!!!
「ぐああああ!!!
集団レイプ!!!
俺の子分が好きだった女だ!!!」
ブザーが鳴りやんだ。
「ク、クズめ!!!」
こいつの子分の好きな女ということは俺の好きな女でもある!
そいつをレイプしただと!!!
あまりの罪の多さに、俺の拷問の手にも気合が入り、思わずハンドルの回しを早めてしまった。
ボギっ、ブチっ!!!
「ぶぎゃあああああああああああああああ!!!!」
あっ、やべ。
番長の腕は骨折し、ちぎれた。
出血が止まらない。
これ、死ぬんじゃね?
拷問部屋には一応止血キットもあるが、簡単な処置を行うものしかない。
しばらくして、番長は死んだ。
「ま、まあ、こんな人間、死んで当然なくらいだ。
こいつが死んで喜ぶやつのほうが多いだろ。」
俺は殺人を犯してしまった自分を正当化するよう御託を並べた。
そして、拷問部屋は消えた。
俺の目の前には数分前まで番長だった肉塊。
地面には血が広がる。
さて、どうしたものか・・・。
この現場にいては、俺が殺人犯なのは明白。
俺はその場から立ち去り、何食わぬ顔で授業に戻った。
すると、校内放送が鳴る。
「緊急!緊急!
死人が1人出ました!
構内に殺人犯がいるかもしれません。
生徒たちは至急、運動場に集まり、集団下校してください!」
俺たちは下校することとなった。
まあ、だるい授業も途中で終わるし、ラッキーかな。
とか思っていたら、自宅に電話が。
母親が電話に出る。
「はい、ジャービスです。
ええ、ええ。
ええ、わかりました。
ジェイキー!先生から電話!」
ちなみにジェイキーとは、俺の名ジェイクの愛称である。
両親からは親しみを込めてそう呼ばれている。
話は戻るが、先生から電話だ。
嫌な予感がする。
俺は受話器を取る。
「はい、先生。」
「もしもし、ジェイク。
今日、校舎裏にいたって他の生徒から聞いたぞ。
校舎裏での事件は知っているのか?」
嫌な予感は的中。番長の死体の件での電話だ。
「さあ、なんかあったんすか?」
俺はしらを切る。
「うーん、知らないならまあいい。
だが、なにか気がかりがあったら何でも言ってくれ。」
先生の取り調べはあっさり終わった。
---
後日。
学校はしばらく休校となったが、また再開した。
そして、全国集会にて、校長が番長の死を公表した。
瞬く間に、犯人は俺だといううわさが広まった。
そりゃ、子分をズタズタにした噂もあるし、俺が番長と一緒に校舎裏にいたという噂もある。
当然、犯人は俺だと思われても仕方ない。
俺はそんな状況ではこの学校にいることはできなかった。
そして、俺は転校することとなった。
最後の登校日の帰り、俺の好きな子が駆け寄ってきた。
「あ、あのう・・・。
うわさだってのはわかってるんだけど。
あなた、番長たちを懲らしめてくれたのよね?」
「な、なぜそう思う?」
俺は動揺した。
好きな子から突然話しかけられたこと。
そして、なぜこの子に番長の件がわかるのか。
「女の勘よ。
ありがとう。
私、あなたのこと忘れないから。」
それだけ言うと、彼女は去って行った。
この時、俺の中で何かスイッチが入った。
正義のスイッチとでも言おうか。
このチカラ「拷問部屋」はけっこう残虐な能力だ。
でも、それで卑劣漢を成敗すれば、こうして喜んでくれる人は確かに存在するのだから。
こうして、地獄の拷問官ジェイクが誕生したのだった・・・。
=== 作者あとがき ===
ヒロインは3話から登場します!
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