第2話 迷宮の罠

冷たい空気が肌を刺すように漂い、世界樹迷宮の奥深くへと続く道が、不気味な静寂に包まれていた。ユウたちは他のパーティと連携しながら、迷宮の入り口からゆっくりと前進していたが、その表情はどこか緊張に満ちていた。


「まずは罠に注意しよう。この迷宮には、過去に多くの冒険者が命を落としているんだ」ユウが声を潜めて言った。


「そうだな。これだけの規模のダンジョンなら、罠も相当手強いだろう。油断はできない」ガイアも頷き、他のメンバーに目配せをする。


「罠か……それなら俺の出番だな」カイがニヤリと笑う。「俺が少し先を進んで、罠を見つけて解除する。何かあったらすぐに知らせるから、後ろで待っててくれ」


ユウはカイに任せることにした。盗賊としてのスキルを持つカイなら、罠の発見や解除に優れているはずだ。それでも、ダンジョン内に潜む脅威には終始注意が必要だった。


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カイが先頭に立ち、他のメンバーが数歩後ろを慎重に進む。世界樹迷宮の中は広大で、壁や床には植物の根が絡みつき、足を取られそうになることもあった。空気は湿っていて、どこからともなく滴る水音が響いている。


「おい、見つけたぞ」


カイが突然立ち止まり、足元を指さした。そこには、地面に小さな突起があり、微妙に他の石畳と異なっているのがわかる。


「これ、典型的な罠だな。おそらく、踏むと天井から何かが落ちてくるか、周囲が崩れるかだ。解除してみるから、少し下がってくれ」


カイは器用に道具を取り出し、慎重に罠を操作し始めた。数分後、カイが満足げに頷いた。「よし、解除完了だ」


「助かった、カイ。これで先に進める」ユウはホッとした様子で、仲間たちと共に前進を再開した。


しかし、歩き出してすぐに、リナが鋭く声を上げた。「待って!罠は一つだけじゃないはずよ」


ユウが反射的に動きを止めると、足元に光るものが目に入った。ほんの一瞬の気の緩みで、次の罠に引っかかっていたかもしれない。リナの素早い指摘に全員が息を呑む。


「リナ、ナイス判断だな」ユウが感謝の言葉を口にしながら、慎重に罠を避けて進む。


「どうやら、この迷宮は単純な罠だけじゃなく、連鎖する仕組みがあるみたいだ。気を抜くなよ」とゼンが冷静に指摘する。


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一行はさらに深く迷宮を進んでいくが、次第に道が狭くなり、視界が悪くなっていく。植物の根が絡み合い、足場が不安定な場所が増えてきた。罠に気をつけながら進むのは、想像以上に体力を消耗する作業だった。


「この先はさらに複雑になっているかもしれない。カイ、お前のスキルだけじゃ限界があるかもしれないぞ」ガイアが声を潜めて警告した。


「確かに……もう少し慎重に進むべきかもしれないな」ユウは周囲の壁や足元を注意深く観察しながら歩を進めた。


突然、何かが床を這う音が響いた。全員が身構える。ユウは剣を抜き、カイが罠以外の脅威にも目を光らせる。


「これは……罠じゃない、モンスターだ!」リナが叫んだ瞬間、壁の隙間から巨大な根が音を立てて動き出した。


「来るぞ!」ユウが声を上げると同時に、全員が攻撃態勢に入った。


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壁から這い出してきた巨大な根が音を立てながらうねり、ユウたちの前に立ちはだかる。モンスターだ――世界樹迷宮の守護者の一種かもしれない。目の前に現れたその存在は、ただの植物ではなく、意志を持って動いているかのように攻撃の準備をしていた。


「こいつは手強そうだな……」カイが短く息を吐き、戦闘態勢に入る。


「罠を解除してきたけど、今度は逆に利用できるかもしれないぞ」カイが鋭くユウに目を向ける。


「罠を使うだと?」リナが驚きの表情を浮かべた。


「そうだ。さっき解除したばかりのトラップがあのモンスターに役立つかもしれない。俺がうまく誘導してみる。罠の範囲に追い込めば、こいつを一気に片付けられる」


カイの提案に、ユウは一瞬の迷いもなく頷いた。「やってみよう。俺たちがその隙にモンスターを牽制する」


「了解!」リナとゼンもそれに続く。彼らは素早く役割を分担し、戦闘の準備を整えた。


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カイは再び罠をセットするために少し後方に戻り、迅速にトラップの仕掛けを調整し始めた。その間、ユウたちはモンスターの動きを封じるために行動を開始する。ユウが剣を抜いて前へと突進し、リナが背後から援護射撃の体勢に入った。ゼンは呪文を唱え、モンスターの動きを鈍らせる魔法を発動させる。


「こっちだ、こっちに来い!」ユウが叫びながら剣を振り、モンスターの注意を引く。巨大な根がユウに向かって振り下ろされるが、彼は間一髪で回避する。次の瞬間、リナの矢がモンスターの胴体に突き刺さり、ゼンの魔法で一瞬動きが鈍くなった。


「罠の位置まで誘導するぞ!」ユウが叫び、モンスターの動きをコントロールしながら後退する。モンスターは怒り狂ったように体をうねらせ、追いかけてくるが、彼らは決して油断せず、冷静にその動きを観察し続けた。


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「準備完了だ!」カイの声が響いた瞬間、ユウたちはモンスターをカイの仕掛けた罠の範囲へと誘導した。


「今だ!」ユウが合図を送ると、カイがトラップのスイッチを作動させる。床下から突如として巨大な石柱が飛び出し、モンスターの動きを完全に封じ込めた。続いて、天井から鋭い木の枝が降り注ぎ、モンスターの体を貫いていく。


「やったか……?」ユウは一瞬の静寂の中で、モンスターの動きを確認する。巨大な根がついに動きを止め、地面に崩れ落ちた。


「やったな!」カイが満足げに笑い、リナとゼンも肩の力を抜いた。


「罠をうまく利用できたな。これで先に進める」リナが矢を収めながら言った。


「カイ、よくやった。お前の機転のおかげだ」ユウはカイを称賛した。


カイは照れくさそうに肩をすくめた。「まあ、こんなのは朝飯前さ。でも、まだ安心はできないぞ。罠やモンスターがこれで終わるわけじゃない」


「そうだな……油断せず、次に備えよう」ユウも気を引き締めながら、さらに迷宮の奥へと目を向けた。


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罠を巧みに利用してモンスターを撃退したユウたちのパーティは、ダンジョンの奥へ進む前に一旦戻ることを決意した。カイの提案で、他のパーティと情報を共有し、次の進むべき道を確認し合うためだった。世界樹迷宮の奥には何が待ち受けているかまだわからない。罠やモンスターは序章に過ぎないかもしれないという考えが、全員の頭をよぎっていた。


「もう少し進めるかとも思ったけど、無理は禁物だな。他の連中から情報を聞き出しておく方が賢明だ」ユウが周囲を見回しながら言った。


「まあな、あんまり前のめりになるのは危険だ。自分たちの力を過信すると、足元をすくわれる」カイも同意し、少し疲れた表情を見せながら肩をすくめた。


リナは少し不満そうに唇を噛んだが、ゼンが冷静に言葉を挟んだ。「ここで情報を集めておくのは悪い選択肢じゃない。特に、他のパーティがどれだけ進んでいるかを知っておくことで、全体の状況が把握できる。先に進むのはそれからだ」


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彼らは一度、世界樹迷宮の入口に戻り、ガイアたちがまだ準備を整えている場所へ向かった。ガイアのパーティもまた、先ほどの戦いでいくつかの罠に遭遇し、モンスターとも交戦していたようだ。彼らも、すでに体力を消耗している様子だった。


「無事戻ってきたみたいだな」ガイアがユウたちの姿を見ると、満足げに笑みを浮かべた。「こっちもなんとか進んでるが、罠が想像以上に厄介だ。迷宮全体が何かを守るように配置されている気がする」


「罠の精度が高いのは、俺たちも感じた。ここまで何とか凌いだけど、もう少し進むと、もっと複雑になるかもしれないな」ユウが応じると、ガイアは頷いた。


「何か新しい情報は掴めたか?」リナがガイアに尋ねる。


「俺たちが調べたところ、どうやらこの迷宮には4つのルートがあるらしい。それぞれが異なる難易度のエリアに繋がっている。ただ、一つだけ特に危険だと言われている道があって……」


「特に危険?」ゼンが興味深そうに顔を上げた。


「そうだ。その道は“マッドハウス”の発動率が極端に高いと言われているんだ。過去に挑戦したパーティのほとんどが行方不明になっているらしい。正直、行くかどうかは慎重に考えるべきだな」


「マッドハウス……」ユウはその言葉を聞いて、背筋が寒くなるのを感じた。先ほどカイが聞き出した噂が現実味を帯びてきた。


「どうする?あえてその道に挑戦するのもありだが、無理はできない」リナが提案するが、その顔には緊張が漂っていた。


「他のルートも調べた方がいいかもな。あまりにリスクが高すぎる道を選ぶのは……」カイがそう言いかけた瞬間、別のパーティが慌ただしく戻ってきた。


「待て、あいつら、何かあったみたいだぞ」ゼンが低い声で言い、全員の目がそちらに向けられた。


戻ってきたのは三人の冒険者で、彼らは明らかに疲弊しており、戦闘の痕跡が体に残っていた。ユウはすぐに駆け寄って話を聞いた。


「何があったんだ?」


その中の一人が、息を荒げながら言葉を吐き出した。「奥のエリアで……急に空間が歪んで……“マッドハウス”が発動した……!仲間の一人が、プレイヤーキラーにやられたんだ……」


その言葉に、その場にいた全員の表情が凍りついた。ついに、噂でしかなかった“マッドハウス”が現実となって発動している。ユウたちはこの先、どの道を選ぶべきか、慎重に考えなければならなかった。


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マッドハウスの噂が現実となり、危険なルートを選ぶかどうかの決断を迫られたユウたち。だが、慎重な判断が求められる今、彼らはリスクを避け、別のルートを選ぶことにした。


「無茶はできない。安全な道を選んで、まずはこの迷宮の全体像を把握しよう」ユウが決断を下した時、リナが静かに頷いた。


「賢明ね。私たちだけじゃなく、他のパーティも同じように迷っているはず。マッドハウスに巻き込まれるリスクを考えれば、慎重に動いた方がいいわ」


「賛成だ。急いで最悪の状況に飛び込む必要はない」ゼンもその意見に賛同し、少し険しい表情を緩めた。


「よし、じゃあ別のルートを進もう。さっきの情報によると、右手の道が比較的安全らしい」ユウは仲間たちを見渡し、慎重に進むことを決めた。


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ユウたちは他のパーティが集まる場所を抜け、迷宮内に続く別のルートへと足を進めた。このルートは、先ほどの危険な道とは対照的に静かで、特に大きな罠やモンスターが見当たらないように見えた。


「今のところは平穏だな……でも油断は禁物だ」カイが低く呟きながら周囲を警戒する。


壁には古びた碑文のような文字が刻まれていたが、それはユウたちの知っている言語ではなかった。迷宮の歴史を物語るかのように、その文字は不気味に暗い光を放っている。


「これ……古代の言語か?ゼン、お前なら読めるか?」ユウが指さしながらゼンに尋ねる。


ゼンは壁に近づき、慎重にその文字を読み取ろうとした。「少し時間がかかりそうだが、何とか解読できそうだ。この文字は、世界樹が作られる以前の時代に使われていた言語だ。恐らく、ここには何か重要な手掛かりがある」


「重要な手掛かりか……ここで立ち止まって解読するか、それとも先に進むか……」ユウはしばし考え込んだが、ゼンの集中を妨げることはせず、少し待つことにした。


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ゼンが解読を進める間、他のメンバーは警戒を続けていた。リナが壁沿いを歩き、わずかな音でも見逃さないよう耳を澄ませる。一方、カイは地面を注意深く見つめ、罠の兆候を探していた。


「ここは比較的安全だと思っていたが……まだ何かが隠されているような気がするな」リナが険しい表情で言った。


「何か感じるか?」ユウが声をかける。


「うん……何かが、動いているような感じ。遠くでだけど、確かに何かの気配がある」


その言葉に、ユウも剣の柄を握りしめた。平穏に見える道だが、やはり油断はできない。彼らは準備を整え、いつでも対応できるようにしていた。


「よし、解読できた」ゼンが静かに言葉を紡ぎ出した。「ここには“世界樹の根”と書かれている。そして、この迷宮の奥に、根の中心へ続く道があるらしい。その道は……どうやら古代の力に満ちているというが、詳細は不明だ」


「古代の力……それが何かは分からないけど、重要な情報だな」ユウはその言葉を聞いて、何か大きな手掛かりを掴んだような気がした。


「だが、この道が古代の力に繋がる道なら、それだけ危険も伴うだろう。慎重に進むべきだな」ゼンが冷静に付け加えた。


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道を進むユウたちの前に、突然、壁の一部が崩れ落ち、大きな音が響いた。皆が振り向くと、そこには小さな隙間が現れ、その奥からかすかな光が漏れ出していた。


「これは……隠し通路か?」カイが驚きの声を上げる。


「どうする?この道を進むか、それとも別の道を探すか……」ユウは再び考え込んだ。目の前に現れた隠し通路には、何か重大な秘密が隠されているかもしれないが、同時に新たな危険が待ち受けている可能性も高い。

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