第5話 飼育される人間②

 彼らが世界に誕生した時、彼らは高級品だった。子が生まれづらいハイソやアッパー層のものだった。彼らは生まれながらにして、その層の世界を維持するために奉仕する存在だった。


 徐々に技術が進み、彼らを手にする社会階層が広がる。彼らは時代が求めているカワイイを持つ女の卵子と精子から作られる。遺伝子情報はカタログ化されている。実際に産むのは、体力がある契約した女たちだ。彼女たちは妊娠、出産が仕事だ。


 生まれたあとは、一律に管理され、一律に養育され、一律に専門の学校”天使園”に入学する。


 彼らは伸び伸び育つ。怖い言葉、キツイ言葉は使わない。話し合いで解決する。優しく、思いやりがあり、献身的な行為をすると褒められる。最も尊いことは、自分の命を投げ出してまで他者を助けることだ、と教わる。


 彼らは買われて、飼い主の元に行く。飼い主には厳正な審査がある。収入、格式、人格適合など。彼らにはチップが埋め込まれていて、身体に急激なストレスがかかると自動的に通報される。『ペット人間保護法』ができる。


 アンジェは可愛さ特化型のペット人間で、寿命は25才。ゆくゆくの飼い主の介護や長寿に対しての寄り添い型の場合は40才。


 アキラは妹のように可愛いアンジェがいると、彼女など欲しくなかった。アンジェが死期を迎えると、想像を絶する絶望がやってきた。後追いも考えた。実際、ペット人間ロスによる自死は増える一方だ。


 アキラは寄り添い型のペット人間を買った。アンジェほどは可愛くない。すぐに手放した。アンジェロスに耐えられず、ペット人間はもう辞めることにして、好きでもないそこそこの彼女を作り、結婚する。



 50年後。ペット人間は、社会実験の一つだった。いよいよ、人工人間への入れ替えをしていく。人間を管理するため、AIがカタログから掛け合わせを決める。もはや、”自分の子”は贅沢品だ。世界が決めた、価値ある子どもが配分され、人類の発展に寄与する人材を育てることが人類の目標になる。


 たくさんの女が”出産ワーカー”になる。女は腹を痛めずに母になり、男は他人の子を育てるために働く。大人は社会の維持と、優秀な次世代のために働く。


 子どもは可愛い。天使園で褒められたほほえみは、血が繋がらなくても家族であり愛があると思わせる。


 彼らが大人になった世界に戦争はない。愛と平和。人類の英断は、恐怖や争いの遺伝子を駆逐した。

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