第54話 この世界の片隅に
「てめえ、雑魚のくせに俺様とキャラかぶってんだよ!さっさと死ね!」
「ああ?オレの方が登場は先だろうが!クソダサ仮面が!」
「んだと!?俺様の方が生まれは先だ!このクソ大好き小僧が!」
はあ……。私は呆れて何も言えません。先ほどからずっとこんな調子。まるで子供の喧嘩です。しかしながら、交わされる言葉こそ幼稚そのものですが、魔法の応酬はとても高度。真っ赤な炎と真っ黒な炎が踊る様は、見ている分にはとてもかっこいいです。私の出番はいつも後半。カルラくんは今回も一人で片をつけると勢い勇んでいましたが、純粋な実力では相手の太陽さんの方が上のようで、少しずつ押されてきています。
「意外にしぶてぇガキだな。構えろよ。単純な火力勝負といこうぜ?」
「あ?やってやるよ、クソ太陽!」
流石にそれはまずいのではないでしょうか。そう言いかけましたが抑えます。口を出すと何を言われるかわかりません。どうせクソメガネだとかなんとか言うのでしょう。とりあえず本当に死にかけるようなら助けることにします。
「てめえの一番で来い。俺様も本気でやってやる」
「白黒つけるぞクソが!」
お互いにものすごい魔力を解放しています。干渉範囲にいる私まで燃えそうです。とはいえ、もしもの時に備えて私も魔力を集中します。守り切れるのか不安ですが、最悪マジックキャンセラーがあるので大丈夫でしょう。カルラくんはまだ使い慣れていないようですし、戦闘に夢中過ぎて忘れていそうですが……ああ、不安です。
「久しぶりに張り合いがある奴だから殺すのは惜しいが……仕方ねえよなあ!燃え尽きろ!
「勝つのはオレだ!クソが!!
こんなの死にます。冗談じゃなく死にます。空が一面真っ黒になり、温度が急上昇しました。太陽さんは禍々しいと形容するのがピッタリな流動する球状の黒炎を投げつけてきます。雪どころじゃなく地面が溶けてますよ?何なんですかあれは。個人が扱っていい代物じゃないです。
対するカルラくんは渦巻く炎の竜巻のような魔法を、まっすぐ穿つように放ちました。高密度に練られた魔力を一点に集めた一撃からは、カルラくんの本気が伺えます。まるで神々の戦いのよう。そんな風に他人事にしたがっている自分がいます。もう本当に嫌です。
炎と炎の衝突。凄まじいほどの熱風が辺りの雪を溶かし、さっきまで寒かったはずなのに、あまつさえ蜃気楼が出ています。空気の激しい振動に肺が焼けそうです。その轟く爆発音が衝突の激しさを物語っています。私はマジックキャンセラーを起動して、どうにか事なきを得ました。この不思議な装備は魔法を打ち消してくれる優れものです。離れた位置で見ている私が使用せざるを得ない状況なのですから、本人たちはもっとダメージを受けているに相違ありません。頭がおかしいと思います。
「面白え!!俺様の黒天を炎で受け止めたのは、ツクヨミのババア以来だなあ!!」
「クソッタレ!バカみてえな火力しやがって……!おらああああ!」
やはりカルラくんの方が押されています。だからあれほどやめた方がいいと……言ってはいませんでした。私はいつも声が出せません。思考が頭で絡まって、うまく紡ぎ出せないのです。あれだけ好き勝手に思ったことを言えるカルラくんは、とても尊敬します。どんなに汚い言葉でも、私みたいに黙っているよりはマシだと思うのです。
「だが、終わりだなあ!小僧!!火力を上げるぜええ!」
「てめえまだ上があんのかよ!?クソがあああ!」
あああ。まずいです。非常にまずい状況です。明らかに劣勢になってきました。これは、決闘の邪魔だとか男の勝負だとかそんなことを考えている場合じゃありません。だけど怒られるのが嫌なので一応確認します。精一杯声を出しました。
「カルラ……くん!マジック……キャンセラー!使って!」
「うるせえ!オレが勝つ!」
こうなると思っていました。でももう我慢できません。流石に戦いが長引いたせいか、お互いの炎が少しずつ弱くなっています。今なら……!これまでだんまりを決め込んできた私は、魔力を集中して解き放ちます。
「
地面から岩を纏うごつごつとした巨大な腕が出現し、真っ黒い太陽を握りつぶしました。やりました。私は小さくガッツポーズをします。
「てめえええ!クソメガネ!」
「邪魔しやがったな?雑魚女がああ!」
はあ。私は小さくため息を漏らします。まあこうなりますよね。わかっています。ですが今回ばかりは仕方がないのです。これは命をかけた戦いなのですから。
「……子供じゃないんですから」
私はその巨神の腕で太陽さんに殴りかかります。容赦はしません。どうせ魔法無効でも使ってくるのでしょう。
「そんなもんが俺様に効くとでも思ってんのか??
鈍い紅の炎を纏ったものすごい長さの剣が巨神の腕を一刀の元に切り伏せました。魔法無効など使う必要すらないということでしょうか。いや、これは完全に私の推測ですが、太陽さんはそういう小細工を嫌っていそうな気がします。しかしこちらだって、もちろん効くなんて思っていません。ですから、私はすかさず魔導小銃で撃ちまくります。隙間なく弾幕を張ります。魔法無効の銃弾です。流石に厄介でしょう。
「ちっ、でも助かった……クソ……サン……」
発砲音でよく聞こえませんでしたが、カルラくんが何か言った気がします。どうせ碌でもないことでしょう。無視して撃ち続けます。リロードが必要になるまでひたすらに。
「いいから……倒しますよ」
リロード中に声を張り上げました。私としては精一杯です。カルラくんに前衛で戦ってもらわないとサシの勝負では勝ち目はないです。銃だけで倒せるなんて初めから思っていませんから。やはりと言うべきか、銃弾はかすりもしていません。多少、動きを牽制することはできたみたいですが。
「ハエみてえにうるせえな雑魚アマがあ!」
太陽さんがリロードの隙をついて私めがけて走り寄ってきます。めちゃくちゃに速いです。黒炎を纏った細身の剣を構えて迫るその姿は、周りを爆ぜる黒い魔素も相まって、まさに悪魔か何かのようです。少なくとも太陽さんなんて生やさしいものではない……そんなプレッシャーがありました。ものすごい怒りを感じる魔力が干渉してきます。
その時でした。私は焦って銃弾を取りこぼしてしまったのです。接近戦は苦手なので、まともにやり合ったら多分死にます。最悪です。私は死を覚悟しました。思えばあまりいい思い出がありません。いつもいつも後悔してばかりです。私のミスで迷惑をかけてしまう。今回もまた。
もっともっと言いたいことがあったのに、怖くて声が出せませんでした。ずっと、そうやって生きてきました。そうしていつの間にかこうして逸れ者のチーム。周りに合わせていたはずなのに。失敗を恐れるあまり自分からは何もしてきませんでした。声をかけることすら……。いろいろとフラッシュバックしてきます。思考も散らかっています。さようなら、世界。
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