私とホタルの「恋」の駆け引き
くるみXXX
Episode0:プロローグ
おばあちゃんにいつも教えられていた言葉がある。夏の思い出として残っている唯一の言葉。
夏の日差しの中、冷たいカルピスの氷とガラスが当たる心地いい時間。東京から山口に父親の帰省をしてきた私はおばあちゃんと日向ぼっこしていた時だった。
「茜、夏の蛍の伝説って知っているかい?」
「んー?」
まだホタルという言葉すら初耳だった頃だったので、何かのおまじないだと思っていた。なんだかワクワクものだ、そう思っていた。おばあちゃんは話を続ける。
「遠い昔にね、この近辺に大きな彗星が降ってきて周りの家がみーんな消えてしまってね。だけど、たった一人の人物とホタルとの縁結びによって神様が二人の大切な人を救うという予言があるんだよ」
「なんかすごいことだね」
「そう。凄いことさ。けど、1800年前のことだからね、ちょっと昔話のような感じもするんだよ。でもね、今の世にもそういう大切な人との縁を繋げるってことは必要だと思うんだ。何かのために頑張ることはとても大切で尊いことだ。だけど、一番大切なことは頑張っている人を支えてくれる人の存在だ。茜がおばあちゃんのことを支えてくれているようにね」
私は嬉しかった。おばあちゃんに自分のことをわかってくれていたから。
「だから、もし好きな人とか好きなこができた時にはよく考えて行動しなさいな」
「うん」
このお話を教えてもらってから1年後。そんな優しいおばあちゃんが突然逝ってしまった。私は泣かなかった。なんでだろう、自分にもわからなかった。けど、おばあちゃんとの夏の思い出が私をいつも支えてくれているのは確かだった。
10年後、私はこの言葉がずっと気になっていた。
だから、私は伝えたい。大切な人を守りたいって気持ちは時には大きな力になることを。それはただしてあげたいからとかじゃないんだと思う。人は誰にでも誰かを守るべき大切な人がいるということを信じてほしいから。
『茜は、優しいね』とよく言われるけれど、それは私じゃなくておばあちゃんが私に優しくしてくれたからだ。
『茜の笑顔は人を幸せにする』といつも言ってくれて、私の笑顔を守ってくれたおばあちゃんがいたから私は笑っていられるんだ。
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