Pure
玲莱(れら)
第1章 …大学1年生 前期…
01.出会いと再会
春は出会いが増えるから、どちらかというと好きだ。卒業や親の転勤で会えなくなった友達も過去にいたけれど、それよりもこれから出会う人たちとの新しい世界に期待してしまう。大学生になった今年は、始めたいことが山のようにある。
「
入学式のあとのオリエンテーションで、隣の席の女の子と自己紹介をした。大学はアメリカ分校を除いてすべてのキャンパスが兵庫県内にあり、楓花が通うことになるのは駅からも近い中央キャンパスだ。彼女・
「やっぱ女子校ってそうなるんやぁ」
「うん。うちの高校はバイトも禁止してたし、文化祭も男子は入場不可やったし……」
もちろん、隠れてアルバイトをしていたクラスメイトもいたけれど、楓花はそこまでしたいとは思わなかった。授業の七時間目が急に追加された日もあったので、慌ててアルバイト先に連絡しているのを何回も見た。その連絡をしていた携帯電話ももちろん、学校に持ってくるのは禁止されていた。
「厳しいなぁ」
「やっと解放されたから嬉しいわ」
大学はクラスがないから友人を作りにくい──と周りの大人から聞いていたけれど、楓花が選んだ大学は名前の順に幾つかのクラスに分けられていた。ホームルームのような時間が週に一度あって、学科のことを学んだり仲間と交流したりするらしい。
高校のとき特に学びたいことが浮かばなかった楓花は、得意だった英語を身に付けようと英語コミュニケーション学科を選んだ。希望すれば分校はもちろん海外の提携大学にも留学できるらしいけれど、楓花はいまのところ予定していない。
「俺も仲間に入れて」
話しかけてきたのは、楓花たちの後ろに座っていた青年だった。彼・
「あれ? もしかして桧田?」
食堂で三人で食べ始めていると、トレイを持った青年が近づいてきた。
「あーっ、
「──ここ、良い?」
他に空席が見つからないらしく、本田
「そういえば先輩、高校のとき足
「ああ……そうそう。もう治ってるけど、ちょっとだけ違和感あってな……」
翔琉と智輝が話すのを楓花は黙って聞いていた。二人の出身高校はキャンパスからすぐ近くで、サッカーでは強豪だったらしい。翔琉はどこかのサッカー部に入りたいと言っているけれど、智輝は違う道を選んだと言った。
「もうしないんですか? ダメなんですか?」
「いや、あかんことないけど、病院で働いてるほうが続きそうやし」
「ふぅん……先輩の格好良いとこ見たかったです」
「はは、もう無理やわ、引退してからやってないし」
智輝は理学療法士を目指しているらしい。もしサッカーを続けていれば人気が出そうな気はするけれど──翔琉よりも爽やか高身長でイケメンに見えた──、病院で働いても看護師や患者から取り合いになりそうだ。
「それより桧田、女の子二人も連れてんのに、相手したらな」
「あっ、いえ、私らは別に……たまたま席が近かっただけで」
彩里が慌てて言うと、智輝は『ははっ』と笑った。
「桧田、近くに男はおらんかったんか?」
「おったけど、取られたんですよ。そんでこの二人が、ちょうど前におったから」
「わざとそうしたんちゃうん?」
「違いますよ。先輩こそ……俺の邪魔せんといてくださいよ?」
「邪魔? ああ──二人とも、こいつ気つけてな、そんな良い奴ちゃうから」
「ちょっ、先輩!」
智輝は笑いながらだったので嘘か本当かは分からないけれど、翔琉は今のところ、ちゃんと勉強して卒業して就職するつもりらしい。それよりも楓花は理学療法士を目指すという智輝に興味があるけれど、彼の事情は分からないし、次にいつ会うかも分からない。
「それじゃ、またな」
教授の研究室に用事があるようで、智輝は先に食堂を出ていった。
「やっぱ先輩、格好良いよなぁ。勿体ない」
「先輩って……すごかったん?」
「試合でゴールするの、ほとんど先輩やったんちゃうかな。女子にもモテてたし……」
「へぇ……」
健康スポーツ学部なら体育館の近くにいることが多いのだろうか、と考えながら、楓花は席を立って空になった食器を返却口へ持っていった。キャンパス内には他にもカフェやレストランがあるようなので、次は違うところへ行ってみよう、と話しながら三人で教室へ行った。午前中は学科全員が集まったので大教室だったけれど、午後はクラス単位で普通の教室に集まるらしい。
一クラスは四十人ほどで、担任になった男性教授は優しそうだった。経歴や専門分野等の自己紹介の中でギャグを連発していたおかげで人気が高くなるのは──きっと別の話だ。
教授に続いて学生たちも自己紹介をするようで、それでも時間はあまり取れないので一言ずつ名前と出身地を簡単に言うことになった。関西圏で実家から通っている学生が多いけれど、地方出身で寮生活や一人暮らしをしている学生も少なくない。楓花は長く大阪で暮らして高校の頃は奈良出身の友人もいたけれど、初めて聞いた兵庫県以西の方言が可愛いと思った。
いろんな地方の友人ができると楽しいだろうな、と考えながら迎えた最後の自己紹介は──。
「
「──え? 渡利君……?」
「楓花ちゃん、知り合い?」
楓花は演台に立つ晴大を見て、少しだけ顔を強ばらせてしまった。
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