第4話 なめらかな肢体の内臓を食う、おぞましい魔物

 アイダがジャガーのワイナとゴリラのトゥパック、キイロアナコンダ、風の悪魔少女を連れて歩いていると、この村の前を通りかかった。


「これは調べる必要があるわね」


 アイダたちが通りかかった村では頭部が無残に切り離された死体や、女性が触手のような物体に首を絞められる不可解な事件が多発していたのだ。

 静かな村で発見された首なし死体を調べるアイダたちは、死体の首跡に何かが噛いちぎったような痕跡を見た。あまりにも残虐な殺し方から、まさしく妖怪か魔物の仕業と推測した。


「詳しく教えて下さい」


 村人の話では、数年前から不可解な事件がたびたび起きているのだという。

 最初の事件は3年程前、外を歩いていた村の若い娘が深夜突然襲われて、無惨にも首を取られて内臓まで引きちぎろうとした跡があった。当然そんな時間に若い娘がなぜ外に出ていたのか、皆は不思議がった。

 更に内臓を食いちぎろうとするまでなら、オオカミの類いだろうが、首まで獲ってしまうとは……

 そしてまた新たな惨劇が発生しようとしている。


「実は……」


 ここ数日の事である、やはり若い娘が夜中に外に出ようとして、家人に何度も何止められる例があるのだという。

 それを聞いたアイダはピンときた。


「では私たちを家に隠させて下さい」





 深夜である、


 ーーやっぱりーー


 家の周囲に怪しげな生ぬるい風が吹いて、何かが娘の寝ている部屋に入ってくる。もののけのような得体の知れない何かが、フワッと漂っている。すると娘の枕元に立ったそれが声を掛けた。


「娘よ、付いてくるがいい」

「はい」


 娘には何かが見えているようである。

 アイダは皆に、合図をするまでは行動を起こさないようにと念を押して、家人にも全てを任せて欲しいと言ってある。

 妖の行く後から娘がふらふらと歩いて外に出た。淡い月明かりの道を歩いて行く。周囲に影絵のような景色が浮かんでいる。

 妖と娘が行く後からは、アイダたちが悟られないようにそっと付けている。

 すると、何やら前方に人のような者が立っているではないか。


「娘よ、よく来てくれたな」

「…………」


 なんと娘はその若者のような者にそっと寄り添っていく。だが、その者が声を荒げた。


「違う、其方ではない!」


 娘には見えていないのだろうが、それは明らかにまやかしである。その者の顔が苦痛に歪んでゆく。隠れていたアイダたちが姿を現し、声を掛けた。


「おまえは何者なの?」

「ンッ!」


 アイダたちに気づいたその者の姿が変わり、娘を食おうと真っ赤な口を開けた。その瞬間、風の悪魔少女が娘をさらった。

 姿を現した魔物は、オオカミのような頭に蛇の胴体がついてうねっている。


「なるほど、それがおまえの正体ね」

「ガーー!」


 唸り声を上げる魔物にジャガーのワイナが飛びかかってゆく。たちまち激しく闘いが繰り広げられて、ワイナの牙が魔物を傷つけた。

 蛇の胴体を持つ魔物は、動きがジャガーに劣って見える。

 ついに魔物が逃げ出すと、それを追うワイナをアイダが止めた。


「ワイナ、待って」

「…………!」

「あの魔物には何か事情が有りそうだわ。後を付けてみましょう」


 アイダとワイナ、トゥパック、キイロアナコンダと風の悪魔少女は、逃げて行く魔物の後を追っていった。





 そこは古い橋のたもとである。魔物のすがたが見えない。


「何処に行ったのかしら」

「アイダ、これを見て」


 風の悪魔少女がアイダを呼んだ。


「これは……」


 そこに有ったのは、頭の無い蛇と、首を斬り落とされた犬の死骸であった。





 アイダたちは村人から話を聞いた。話の内容はこうである。

 ある日この橋を通りかかった、サムライとその娘がいた。娘を休ませている間に、サムライは用足しに森の中へと入って行く。すると残された娘のところに、一匹の野良犬が親しげに寄ってきた。

 娘は優しくその犬を撫でていると、突然その犬が激しく吠え、襲いかかって来る。犬は娘の背後から忍び寄る蛇に気が付いたのだった。

 犬は蛇の頭に食い付き振り回して噛み切ってしまう。

 だが、悲鳴を聞いたサムライが駆けつけると、倒れている娘の側で暴れる犬を見た。


「この外道!」


 サムライは刀を抜くと、一太刀で犬の首を斬り落としてしまった。

 それからは、深夜になると村の娘を呼び出してはその頭を噛み切り、内臓をしゃぶる魔物が現れるようになったのだった。


「でも魔物は言っていたわね」


 ーー違う、其の方ではないーー


「首を斬り落とされた犬は、優しくしてくれた娘さんを探しているのではないかしら」


 アイダは村人と話し合い、犬の供養をする事にした。アイダと風の悪魔少女は犬の死骸を丁寧に埋葬すると、優しく話かけた。


「あなたの事と話は理解したわ。首を切ったサムライは勘違いをしていたの。娘さんが襲われたとね」

「あなたに優しくした娘さんは、きっと今は悲しんでいるはずよ。もう関係のない村の娘さんを襲うのは止めてあげて」


 その後村に魔物が現れる事は無くなった。




 アイダは再びジャガーのワイナとゴリラのトゥパック、キイロアナコンダ、風の悪魔少女を連れて歩き出した。


「アイダ、見てごらん」


パーティーの後をついて来る犬がいるではないか。


「……おいで」


 しゃがんだ風の悪魔少女が声を掛けた。近づいて来る犬は、じっとアイダと風の悪魔少女を交互に見ている。


「この犬はもしかして……」


 アイダが声を掛けた。


「あなたは精霊なのね」


 犬はアイダの前まで来ると、じっと止まって見つめ始めた。


「いいわ、付いていらっしゃい」


 パーティーに新たなメンバーが加わった。

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