第2話 ワニと蛇の化け物カンパクティ
虹の精霊アイダは、ジャガーのワイナとゴリラのトゥパック、キイロアナコンダ、風の悪魔少女を連れて歩いている。すると通りかかった川辺で、村人たちが何やら騒いでいる。ここは人界では無いが、人のような姿で人のように暮らしている精霊界の人々が居る。米麦などの精霊が妖精となり、やがて人間のようになって暮らし始めた場所である。
「どうしたんですか?」
「カンパクティが子供を咥えて川に引きずり込んだんだ」
カンパクティとはワニや蛇に似た巨竜であり、言い伝えでは蛇に化身した後に闘いに敗れ、引き裂かれて上半身は大地となって下半身は川になった化け物だ。
アイダは振り返ってゴリラのトゥパックを見た。
「あ、悪い、おれは泳げないんだ」
「…………」
すると背後からジャガーのワイナとキイロアナコンダが出てくる。
「おれたちがやろう」
キイロアナコンダは水生動物ほどではないが、水辺を好み、沼や川、湿地帯などに生息している。一方ジャガーも熱帯林やマングローブからなる湿地など水辺に生息する。カピバラやワニなどに襲いかかったり、川の中で待ち伏せ、近づく獲物に水中から襲いかかることもあるほどに水中戦をこなすのである。驚いた事にジャガーは水中でワニの喉に噛みついたまま、何分も潜っていられるほどタフなのだ。
「ワイナ、上流を見てくれ。おれは下流を探す」
「分かった」
引きずり込まれたのは、だいぶ前だと言う。子供は多分もう生きていないだろう。それでも2人はジャガーとアナコンダの姿になり二手に分かれた。アイダとトゥパックは川岸を、風の悪魔少女も風となって探し始めた。
しかしアイダたちや村人たちの懸命の捜索にもかかわらず、子供の行方は分からず、化け物も姿を消してしまった。
風の悪魔少女が広範囲に見て廻ったが、やはり見つからなかった。
だが2日目になって、再び近くの村から被害者が出たとの報告が有った。
「皆んな、行くよ」
その村でもパーティーは分散して探したのだが、ついに化け物を見つける事が出来なかった。
「駄目だわね」
「…………」
皆が黙ってしまったその時、
「私が囮になるわ」
「えっ」
風の悪魔少女が囮になると言うのである。
「いざという時は逃げる事が出来るんでしょ」
「もちろんです」
「いいわ、やりましょう」
風の悪魔少女が囮となって川辺に立つと、他のメンバーは周囲に隠れた。
ところが2日経っても3日経っても化け物は現れない。諦めかけたころ、
「んっ」
風の悪魔少女は微かな気配を感じた。何かが近づいてきている。ワニなどではない、妖の衣をまとった化け物のにおいがする。
ーーついに現れたわねーー
川面が僅かにうねり、その動きが止まった。直後である、いきなり水柱が突き上げてくると、風の悪魔少女の姿がフッと風になった。
おどろおどろしいワニのような牙をもった化け物の頭が、スルスルと水中に没して行く。
最初に動いたのはジャガーのワイナだった。木立の陰から走り出し、ためらう事なく水中にジャンプすると、後は激しい水しぶきが上がる。
ジャガーの牙が化け物の喉に食い込んでいるように見える。だが、化け物が身を捻りジャガーを道連れに水中へと消える。
やがて水面が静かになっても両者の姿が現れないまま時間が経ってゆく。そして再び水面が激しく泡立つと両者の死闘が続いて、また水中に没した。すると川岸から、スルスルと水中に入って行くキイロアナコンダがいる。
キイロアナコンダは水中に潜ったまま、格闘しているジャガーと化け物に近づき、蛇のような怪物の胴体に巻き付いた。そしてそのまま万力のように締め上げ始めたのだ。
ジャガーのワイナとキイロアナコンダ、そして化け物が一塊りとなり水面近くで激しく暴れている。
だがここで異変が起こった。
「なに!」
ワイナとキイロアナコンダが弾き飛ばされたのだ。
「なんだ?」
「あれは一体……!」
化け物の姿が変わり始めたのだ。
「奴は変身したぞ!」
それはワニの頭と蛇の胴を待つ巨大な怪物であった。頭も胴も頑丈な鱗のようなものに覆われている更に巨大な化け物へと変身したのである。
弾き飛ばされたワイナがつぶやいた。
「駄目だ、これだけ巨大だとおれの牙も歯が立たない」
キイロアナコンダも同様のようである。
「アラカザシャザムスヴァーーきゃーー」
呪文を唱えようとしたアイダの身体が化け物に弾かれ吹き飛ぶ。
「アイダ!」
トゥパックがアイダを抱き起こした。
「駄目だわ、呪文も効かない」
「…………」
「こうなったら最後の手段だわ」
「どうするんです?」
トゥパックが聞いてきた。
「沼の主を召喚するの」
それを聞いたキイロアナコンダは下を向いているが、アイダは静かに語り掛ける。
「あなたの気持ちは分かるけど、ここは理解して……」
「…………」
「私と一緒に人界に行って、頼んで欲しいのよ」
敵わない相手が現れたからと召喚を頼むのは、負けを認めたに等しい。だがキイロアナコンダはついにアイダの提案を受け入れた。
風の悪魔少女が起こした風に乗り、アイダとキイロアナコンダは人界に行き沼の主に会う。
アイダとキイロアナコンダは、沼の主と共に川岸に現れた。
「あれが其方たちの言う化け物なのだな」
風に乗り現れた大アナコンダの鼻は、発達した盾のようなシールドで覆われている。体色は暗い茶色で、背中に黒い斑点があり、ドラム缶のような胴の腹部は白っぽく、黒の斑点がある。
ここで沼の主が向きを変えようとしたその時、いきなり化け物の攻撃が始まった。
「んっ!」
地鳴りのような振動と共に水柱が立ち、巨大な化け物が沼の主に襲いかかってきたのだ。主は身構える間もなく組み敷かれ水中に没した。
やがて水面が激しく泡立つと、2体の異形な塊の想像を絶する死闘が一昼夜続いた。
互いに噛みつき引きちぎろうとするのだが、硬い鱗がそれを許さない。互いに何度か噛みつき剥がれるうちに、主の牙が化け物の首に深く食い込んだ。
「ウグッ!」
沼の主は化け物の胴を巻き、あらんかぎりの力で引きちぎろうとする。
「ギシッギシッーー」
化け物の胴体はのたうち回る。
「ギシッ、ギシッギシッーー」
「ギャァーー」
それは化け物の断末魔の叫びであった。首は引きちぎられて、大量の血は川の色を赤く染め、投げ出された首は小島となって残った。
沼の主の前で、キイロアナコンダが片膝を地にしてこうべを垂れている。
「その方の挑戦は、いつでも受けてやろう」
「…………」
虹の精霊アイダは、ジャガーのワイナとゴリラのトゥパック、キイロアナコンダ、風の悪魔少女を連れてまた歩いている。
「アイダ」
「キイロアナコンダの奴……」
「今はそっとしておいてやりましょう」
キイロアナコンダはパーティーの皆から少し離れて歩いていた。
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