エルフィニア航空戦
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──エルフィニア航空戦
1741年3月。
魔王軍がケレブレス・ルートを爆撃するのを、エルフィニアも、三国同盟もただ眺めていたわけではない。
彼らは爆撃を阻止するための防空作戦を展開していた。
全滅した既存の航空戦力に代わって、新たに汎人類帝国にて訓練を受けたエルフィニア空軍の空中騎手たちが、地上管制の指示に従って迫りくる魔王軍のドラゴンたちを要撃する。
『魔力探知機に反応あり。敵が北東より侵入中──』
エルフィニア空軍は高度な魔力探知機による防空索敵網を展開しており、ドラゴンたちは侵入すればすぐに探知されてしまう。
「出撃だ! 急げ、急げ!」
それからグリフォンに跨った空中騎手たちが離陸する。彼らは口径13ミリの大口径ライフルを手にドラゴンたちが侵入してきた方向へと向かう。
「青二号、見えたか?」
「まだです、青一号」
エルフィニア空軍は基本的な飛行部隊の単位を2騎1組としており、基本的には2の倍数で部隊は編成されていた。
彼らは魔力探知機が探知した方向へと向かい、敵を探す。
「いた! グレートドラゴンだ!」
彼らの眼前にグレートドラゴンたるぺルナティクスが飛行しているのが見えた。それを護衛するようにして飛行する多数のレッサードラゴンとともに。
「やるぞ。我に続け!」
巨大なグレートドラゴンに空中騎手たちは恐れることなく突撃。
大口径ライフルを手にしたまま、グレートドラゴンに迫った空中騎手たちは銃撃を浴びせる。魔術障壁が大口径ライフル弾を防ぎ、ぺルナティクスは忌々し気にグリフォンたちを見た。
「ぺルナティクスより護衛部隊。エルフィニアの羽虫どもを落とせ」
「了解」
ぺルナティクスの指示でレッサードラゴンたちが空中騎手に向けて進む。
「クソ。レッサードラゴンに狙われてる!」
「援護する!」
レッサードラゴンに追われる空中騎手を、別の空中騎手がそのレッサードラゴンを狙うことによって援護した。
レッサードラゴンの熱線が飛び、大口径ライフル弾が飛び交い、激しいドッグファイトが繰り広げられる。
最終的に戦闘に勝利したのは魔王軍だ。しかし、少なくないレッサードラゴンの被害が出てしまった。
「忌々しい連中だ」
ぺルナティクスは予定通りの爆撃を終えると、基地に戻っていく。
エルフィニア航空戦は魔王空軍にじわじわとした出血を強い、ケレブレス・ルートの遮断を困難にしている。
魔王空軍はやはり一対一の航空戦に興味はなく、カリグラ元帥は第2航空艦隊に徹底した敵航空戦力の地上撃破を命じていた。それに従い、第2航空艦隊はケレブレス・ルートの爆撃と並行し、航空基地への爆撃を続ける。
それから戦闘に参加しているのはエルフィニア空軍だけではなかった。
汎人類帝国も航空戦力を展開させ、エルフィニア航空戦に参加していた。
汎人類帝国としては貴重な実戦経験を積む機会ともみており、ローテーションで空中騎手をエルフィニアに送り込んでいる。
このエルフィニア航空戦が続ている間はケレブレス・ルートの完全な遮断はあり得ない。そう思われていた。
しかし、実際の数字は魔王軍のケレブレス・ルートへの爆撃が始まってから、エルフィニアの戦力が急速に減少しつつあるのを示していた。
物資不足が続き、エルフィニア軍の戦闘力は減少している。
「陸軍と空軍はケレブレス・ルートを封殺しつつある。残るは海上だ」
そういうのは魔王海軍南方艦隊司令官であるライドネ大将だ。
魔王軍によるケレブレス・ルートへの爆撃が続き、汎人類帝国も物資輸送の軸足を海路に移そうとしつつあった。
そうであるために海路の遮断が迅速に求められている。
「まずは敵主力艦隊を叩く必要があります、提督」
「ああ。エルフィニア海軍、そして派遣されている汎人類帝国海軍部隊だ」
魔王海軍が海路を塞ぐに当たって相手をしなければならないのは、エルフィニア海軍と汎人類帝国海軍だ。
エルフィニア海軍は戦艦4隻と装甲巡洋艦8隻を中核とする艦隊を保有しており、汎人類帝国海軍は戦艦6隻と装甲巡洋艦6隻を中核とする艦隊を派遣してきている。
対する魔王海軍は戦艦6隻と装甲巡洋艦6隻のみである。
数の面で魔王海軍は敵に劣っている。
「相手にとって不足はなし、だな」
しかし、魔王海軍はこの戦いに自信を持っていた。
「敵艦隊は相変わらず
エルフィニア海軍と汎人類帝国海軍はやるべきことがあるにもかかわらず動いていない状況だった。彼らは積極的に魔王海軍の海路での補給を断ち、自分たちのシーレーンを防衛すべきであるのに主力艦は動いていないのだ。
「では、事前の予定通り、敵海軍基地であるラウィラス軍港を強襲する」
魔王海軍は敵主力艦隊の根城を襲撃するつもりだ。
もちろん、彼らには策があったし、それを成し遂げるための道具もあった。
さて、ここで三国同盟側の視点から見てみよう。
ラウィラス軍港ではこのときあまりに多くの軍艦が停泊しており、キャパシティオーバーになっていた。何せ戦艦だけでも10隻が停泊しているのだから。
「リナラゴス提督。我々はこのようにしていていいのでしょうか?」
エルフィニア海軍の艦隊司令官であるリナラゴス提督に部下が尋ねる。
「というと?」
「ニザヴェッリルでは停泊中にグレートドラゴンに襲われて艦隊が壊滅しています。我々もこの一か所に戦力を集めてると危険ではないかと……」
「ふむ」
ニザヴェッリル海軍がグレートドラゴンに爆撃されて、港湾にいた全ての艦艇が撃破されるという悲劇を招いていた。リナラゴス提督の部下はそれを警戒していたのである。
「では、その心配を解決しよう。ニザヴェッリルのときとの状況の違いだ」
それに対してリナラゴス提督が語る。
「ニザヴェッリルは戦線付近に海軍基地があり、魔王軍の動きに対する反応は遅れる状態だった。さらに言えばニザヴェッリルは魔力探知機を十分に装備していなかった」
「そうなのですか?」
「ああ。調査結果を読んだ。間違いない。対する我々は戦線から十分に後方であり、魔力探知機をあちこちに配備している。グレートドラゴンが近づけばすぐに反応できる状態にあるのだ」
ニザヴェッリルがグレートドラゴンの襲撃を受けたのは、早期警戒が上手くいっていなかったからだ。彼らはグレートドラゴンの接近を探知するのが遅れたために、出港する暇もなく撃破されてしまったのである。
それに対してエルフィニアはラウィラス軍港の周辺に魔力探知機を配置し、グレートドラゴンだけでなく、レッサードラゴンだろうと探知できる早期警戒網を準備しているのであった。
だから、彼らは安心していたのだ。
だが──。
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