テケテケかと思ったらチェケチェケだった。

AteRa

本文

 残業と飲み会を終え、酔っ払った疲れた身体で高架下をトボトボと歩いていた時のことだ。

 チカチカと瞬く電灯の下に何か横たわっている女性を見つけた。

 俺は慌てて助けようと駆け寄り、大丈夫ですかと声をかけようとした。

 しかし近づいてみると、彼女の下半身がない。

 それを見て俺は一つの怪談を思い出していた。


〈テケテケ〉


 そう言った妖怪の話を聞いたことがある。

 どうやら下半身がない女性の妖怪のようで、腕の力で高速で動き回り、その音がテケテケとするために、そう呼ばれるようになったらしい。

 俺は殺されると思い、思いきり目を瞑った。

 俺の人生も今日で最後か、そう思っていたのだが……。


「YO……YO……」


 そんな小さな声が聞こえてくる。

 なんだなんだ?

 俺は不思議に思うが、身体は恐怖で硬直したままだし、目を開くのも怖いからジッと黙って待っていた。

 しかし、その声はまだ続く。


「YO……YO……」


 流石におかしいと思った俺は恐る恐る目を開いた。

 するとそこはさながらクラブのように眩い光で満たされていた。

 電柱の光がまるでネオンライトのように色とりどりに光り、上下左右へと踊り狂っている。


 瞬間、静かなビートが聞こえてきた。

 隣に目を移すと、高架下の灰色の壁が一部分だけ浮き出して、ヘドバンしながらターンテーブルを器用に操っていたのだ。

 これはもしかして……


「ヌリカベならぬノリカベか……?」


 ってことはと思って、テケテケの方を見た。

 テケテケも俺を見上げるように見て、そして……


「YO……YO……チェケ……チェケ……」


 コイツ……やっぱり、もしかして……。

 そう違和感に気がついた頃にはもう遅く、ビートが激しさを増していき、テケテケがラップをし始めた。


「YO! YO! チェケチェケ! 私、テケテケ! お前の財布は多分シケシケ!」


 くそっ!

 やっぱりか!

 コイツ、テケテケじゃなくてチェケチェケじゃねぇか!

 ふざけやがって!


「セックス出来ない、下半身ないから! 昔はピチピチお肌で、ビッチビッチ言われていたのに、今ではシワシワ、ヒモにもなれない!」


 ずんちゃずんちゃとビートが大音量で響き渡る。


 くそがっ!

 なんてこった! こんなのって有りかよ!

 こんなん俺も……ノリたくなってきちゃうじゃねぇかよ!


「よお……よお……。よお……よお……。俺の財布はシケシケだけど、俺は毎日毎日バリバリ働く! いつしか夢見るパンパンの札束!」


 俺がリリックを紡ぐとテケテケは不敵な笑みを浮かべてきた。

 何なんだ、この圧倒的強者感は……。

 それから四小節分のラップが終わり、結果発表となった。

 いきなり河童やら一反木綿やら座敷童やらがゾロゾロと出てくる。


 そしてヌリカベならぬノリカベが言う。


「テケテケが良いと思った奴~! プチョヘンザッ!」


 わ~っと大音量の歓声が鳴り響く。


「続いては~しがないサラリーマンが良いと思った奴~! プチョヘンザッ!」


 今度はブーっとブーイングが鳴り響く。

 ……そんなに俺、劣ってたか?


「勝者~、テケテケ~ッ! 皆、両者ともに拍手を!」


 わ~っとまた拍手が鳴り響いた。

 それから俺は徐々に視界が暗くなっていき、俺はいつの間にか眠ってしまっていた。

 高架下で目を覚ます。


「あれは……夢だったのか、はたまたクラブ・百鬼夜行だったのか……。よく分からんな」


 しかし俺はやけにスッキリした気分でうちに帰るのだった。

 なんかヌいた後くらいスッキリしているが……マジでなんだったんだろうか、あの夢……。

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