第13話 冒険者ギルドの見解

《sideユウタ》


 地震が収まり、あたりは静寂に包まれていた。


 僕は手の中にある苗を見つめ、これが魔物が守りたかったものだという確信を抱いた。樹木のような魔物だったが、その魔物はただこの苗を守ろうとしていたのだ。


「守れたんだな……」


 僕は苗を大切に胸に抱きしめ、周囲を見渡した。


 巨大な魔物が倒れ、魔石と丸太が残されている。僕はそれらを拾い、慎重に魔女っ子の元へ戻った。


 彼女はまだ不安そうな顔をしていたが、僕が無事に戻ったことに少し安心したようだ。


「大丈夫、もう終わったよ。地震も収まったし、そろそろ脱出しようか」


 僕が彼女に優しく声をかけると、彼女は小さくうなずいて立ち上がった。足を引きずりながらも、彼女はなんとか歩けそうだった。


「本当に……助けてくださって、ありがとうございました……お兄さん」

「お兄さん?」


 突然の呼び方に、僕は思わず驚きの表情を浮かべた。彼女が照れくさそうに微笑んでいるのを見て、年齢を聞いてみることにした。


「えっと、君はいくつなんだ?」

「私、十六歳です。お兄さんは……?」

「俺? 俺は十八だよ」

「じゃあ、やっぱりお兄さんですね」


 彼女がそう言うと、僕は少し照れくさくなりながらも、自然と笑みがこぼれた。


「よし、じゃあお兄ちゃんがしっかり守るから、安心してくれ」


 僕がそう言うと、彼女は恥ずかしそうに笑いながら、身を預けてくれる。


 僕は彼女をおんぶして、ゆっくりとダンジョンの出口に向かって歩き始めた。


 地震後のダンジョンはまだ瓦礫が散らばっていて、生き残ったゴブリンもいるので、荷物を抱えた俺では対処が難しい。


 歩くのも一苦労だったけど、慎重に進めば問題なさそうだ。


「さあ、もう少しで外だ。頑張ろう」


 彼女は頷いて僕に従ってくれる。無事にダンジョンを脱出することができた。


 外に出ると、冒険者ギルドに戻るために歩き始めたが、街の方から異常な騒ぎが聞こえてきた。


 大勢の人の声と、何かのカメラが向けられているような光景が広がっていた。


「何だ……? なんか騒がしいな」


 僕は街に近づくにつれて、その騒ぎが冒険者ギルドの前で起こっていることに気づいた。


 マスコミらしき人々が大勢集まり、ギルドの前で何かを撮影している。


「何かあったのか?」


 この時の俺はダンジョン配信が今も続いていることを忘れていた。


「まずいな……」


 僕は魔女っ子を連れて、そのまま騒ぎに巻き込まれるのは避けたいと思い、ギルドの裏手から入ることに決めた。


 魔女っ子もそれに同意してくれたので、静かに後ろについてきてくれる。


 ギルドの裏口に着くと、すぐにカリンさんが出迎えてくれた。


「ユウタ君! 無事でよかった……!」

「うわっ!? カリンさん!」


 カリンさんの豊満な胸に包み込まれる。

 背中には、可愛い魔女っ子妹。前は綺麗なカリンさん!


 女の子にサンドイッチされてしまった。


 カリンさんの顔を見上げれば、心底ほっとした表情が浮かんでいた。彼女は僕が無事に戻ったことを心から喜んでくれた。


「ギルドマスターがあなたに会いたがっているのよ」

「ギルドマスターが?」

「うん。ついてきて。あなたも一緒よ!」

「私も?」


 魔女っ子と共に、急いで僕を中に案内してくれた。


「ありがとう、カリンさん。外、すごいことになってますね……」

「ええ、あなたの配信が大きな話題になって、マスコミが押しかけてきたの。だけど、まずはあなたたちの無事が一番だから……」

「えっ!? ダンジョン配信? うわっ! 本当だ! 皆さん、すみません。無事に冒険者ギルドに戻れたので、録画を終わります」


 そう言ってダンジョン配信の停止ボタンを押した。


 カリンさんはそう言って、僕たちをギルドの中へ案内した。僕は無事に戻れたことに感謝しつつ、ギルドマスターの部屋へと案内された。


 ギルドマスターはスインヘッドの厳ついオジサンだった。


「えっと? どういう状況ですか?」

「あのね。君は途中から返事をしていなかったけど、全てダンジョン配信として記録されていたんだよ。だから、あなたが地震の原因であるドライアドの暴走を見届けたことはわかっています」

「ドライアドの暴走?」


 僕は意味がわからなくて、首を傾げる。


 カリンさんの説明を聞けば、どうやら地面に根を張っていたドライアドがゴブリンの巣穴に達してしまったのではないか?


 そのためゴブリンたちの巣穴の中には強力なゴブリンもいたようで、ドライアドは傷を負い、倒すことで養分を吸収したが、命の危険を感じたドライアドは、新たな命へと注いで、終わりを迎えたのではないか?


 憶測でしかないので、今後の調査で詳しくわかるだろう。とのことだった。


「さて、ユウタ君。無事に戻ってきてくれて本当に良かったわ。そして彼女もね。まずは今回の件について話を整理しましょうか」


 カリンさんは優しく微笑みながら、魔女っ子の方に視線を向けた。魔女っ子はまだ緊張している様子だったが、ゆっくりと口を開いた。


「えっと……私、あの……置き去りにされてしまって……その……」


 彼女はうつむきがちに話し始める。その様子を見て、僕は口を挟んだ。


「彼女は、パーティーの仲間に見捨てられて一人でゴブリンの巣穴に取り残されていたんです。地震の最中、彼女を助けようとしたんですが……」


 僕が説明すると、カリンさんは真剣な表情で頷いた。


「ギルドとしては、緊急時のため、彼らの行動を強く批判することはできないの。だけど、彼女を見捨てる際に、あなたが怪我をしていることが、ユウタ君のダンジョン配信でわかっているわ」


 カリンさんは優しく、魔女っ子に話しかける。


「緊急時の人命救助や、仲間を置き去りにする行為に悪意があることはわかっています。冒険者たちにはそれなりの処罰が必要になるでしょう。君たちの証言をもとに、彼らの行動をしっかりと調査して、今後の対応を決めることになります」


 魔女っ子は不安そうな顔をしていたが、カリンさんの言葉を聞いて少し安心したようだ。


「ありがとうございます……」

「それにしても、君が彼女を助けたこと、そしてドライアドの件を解決したことは、ギルドにとっても非常に重要な出来事だったわ」


 魔女っ子が、今後冒険者を続けるのか、やめるのか、それはわからないけど、あいつらとの関係はどうにか決着しなければならない。


 その時にギルドが味方をしてくれるなら、心強いな。


 カリンさんは僕の方に向き直ると、改めて感謝の意を表した。


「ユウタ君、君が今回の件で得たもの――あの苗や、丸太、魔石――それらについて、どうするか決めた?」


 カリンさんの質問に僕は少し考え込んだ。


 正直、あの苗が何か特別なものだということは感じていたけど、それをどうするべきかまだ決めかねていた。


「苗は……あのドライアドが最後にあなたに残したものよ」


 そう言われて、苗を手に取る。魔女っ子がそれをじっと見つめていた。


「この丸太って、素材になりますか?」

「そうね。ユウタ君はヒノキ棒を使っているから、ドライアドの丸太は、武器に加工ができるわ」

「なら丸太は武器に! 魔石も拾ったんですけど……これ、ギルドで買い取ってもらえるんですよね?」


 カリンさんは微笑んで頷いた。


「ええ、もちろん。ドライアドは成長すると、Aランクの魔物だから、かなり貴重な魔石よ。買取価格に期待してね。ギルドで適正な価格で買い取らせてもらうわ」

「じゃあ……苗については、俺が育てることにします。あのドライアドが守りたかったものだし、俺がその想いを引き継ぎたいと思ってます」


 カリンさんは僕の言葉を聞いて、少し驚いた表情を浮かべたが、すぐに納得したように頷いた。


「ユウタ君、君ならきっとその苗を大事に育ててくれるわね。ドライアドも君に託したんだと思う。じゃあ、その苗は君が持っていて大丈夫よ」

「ありがとうございます。大事に育てます」


 僕は苗を大事に抱きかかえながら、丸太と魔石をカリンさんに渡した。


 彼女はそれらを受け取ると、優しい微笑みを浮かべた。


「これで報酬も受け取れるし、君が得たものはかなり大きいわ。今回の件は大きな話題になっているし、君の名も広がることになるでしょう。これからも慎重に、そしてしっかりと冒険を続けていってね」


 カリンさんとの話し合いが終わって、ギルドマスターの部屋を出た。


 最後までギルドマスターは言葉はなかったけど、威圧感はあったな。


 魔女っ子も僕の隣で一緒に部屋を出た。後日、事情を話すそうだ。


「あの! お兄さん!」

「えっ?」

「助けていただきありがとうございます!」


 魔女っ子は少し恥ずかしそうに頬を赤く染めながら、僕に向かって小さく微笑んでいた。


 その瞳は何かを決意していた。


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