辺境の田舎暮らしの俺が、人化する聖剣と魔剣を手に入れたけど元から最強でした
帝樹
第1話 聖剣と魔剣
「さてと、収穫終わり。一人で収穫するのにも慣れてきたな」
今日は待ちに待ったイモの収穫日。俺はこの日のためにすでに水や他の準備は済ませてある。
「今日で俺も十七かぁ。誕生日はいつも母さんが好物のイモ焼きを作ってくれていたのになっと」
イモを入れたカゴを持ち上げるとずっしりとした重みを感じる。さすがに全部を一つのカゴになんて入れすぎだったかな?
まぁ自宅前の畑だからちょっと重くたって大したことないけど。
家に入ってカゴを置き、イモを二つ取り出し俺はまた外へ出て裏の祠へ向かった。
「父さん、母さん、アッシュ・グロウは今日で十七になりました」
イモを二つ祠に捧げて目を閉じる。
俺が生を受けたのは、今日まで生きてこられたのは父さんと母さんのおかげだ。
このイモだって母さんの結界魔法で守られた畑だからこそ、こうして病気することもなく順調に育ってくれた。
父さんはあの家を俺に残してくれた。それに火の起こし方や狩りの仕方など生きていく
二人とも俺が十三の時に病気で亡くなってしまったけど、本当に立派な親だったと今でも思っている。
そういえば父さんが死ぬ間際に、十七になったら祠でなにか唱えろって言ってたっけ。なんだったかなぁ? えーっと、確か……
「ラカチ・ノイコ・イサ」
思い出したまじないの様な言葉を唱えると、小さな祠が動いて下へと続く階段が見えた。
「階段? 父さんが言っていたのはこの事?」
でも階段があるって事はなにかあるんだよな? 父さんが残した言葉なんだ、とりあえず下りてみよう。
祠から階段が現れて興奮していたのかも知れない。
だけど何かが、誰かが背中を押しているような感覚抱きながら、一つ一つ確実に俺は階段を下りて行った。
「うわっ! これって金貨の山? それに白い棒と黒い棒が壁に飾り付けられている……」
なんだろうこの棒? すごく豪華な飾り付けをされているけど……もしかしてイモを掘りやすくなる道具なのかな?
無類のイモ好きの俺のために父さんが残してくれたと考えれば、納得のいく話だと思った。
都の人たちはこういう豪華な棒を使っているのかも知れない。
「でも、なんだか白い棒は神々しく見えて、黒い棒は禍々しく見えるなぁ……」
期待と不安が心の中で渦巻く。しかし、もしイモを掘るための道具だとしたら俺はこれを取らずにはいられない。
「イモをさらにおいしく食べれる、とかの道具だったら嬉しいなっと」
おもむろに白い棒と黒い棒を壁から外す。よく見るとこの棒は母さんが昔に読んでくれたおとぎ話にでてくる剣のようだった。
「これは剣? どうしてこんなものが……そうか! これでイモを切るとおいしくなるんだな! さすが父さんだ!」
イモも木だっていつも手で切っていたからこれは助かる。手が汚れないし、それに切れ口も奇麗になるし、なんて便利な道具を残してくれたんだ。
父さんが残してくれたイモ切り包丁を眺めていると、どこからか聞いたことのない声が聞こえてきた。
「あなたがマスターですね? 私は聖剣のソフィア。私を手にした貴方はこの世界を救う使命を持つのです」
優しそうな女性の声が聞こえてきたと思ったら、次はたくましく、強そうな女性の声が聞こえてきた。
「主様、そんな無価値な剣など必要ない。魔剣のレア、妾がいれば主様はすぐにでもこの世界を支配することが可能である」
聖剣と魔剣、これが父さんが残してくれた剣なのか。それに剣って喋るんだ、おとぎ話では聞いたことないけど。
「えっとソフィアとレアだっけ? 急に救うとか支配するとかよく分からないんだけど」
「マスターが私を抜いた時、貴方はこの世界の救世主となるのです」
「そんな剣を持っては主様の威厳が損なわれてしまう。そんな小娘は置いといて妾をお抜きになって」
イモ切り包丁かと思ったら、とてつもなく面倒なことになってきた。とりあえず抜かなければいいのかな? 抜かなければ救世主になるとか訳の分からないことにはならないだろうし。
「ああ、えっと、うん。いいや」
「マ、マスター? いいやとはどういう事なのですか?」
「それは聞き捨てならんな。主様はこの世界を支配する御方であり、妾を支配……」
「だって救世主とか支配とか興味ないし、家とイモがあればそれでいいし」
ソフィアとレアは一瞬沈黙したあとにまた喋り始めた。
「仕方ないですね。ではマスターを救世主になりたいと思わせる事にします」
「主様には世界を支配していただく。そのためなら!」
手に持っていた聖剣と魔剣が宙に浮き、まぶしく光る。俺はその眩しさに思わず目をつむった。
そして目を開けると、目の前には二人の綺麗な女性が立っていた。
一人は、長い金色の髪が祠の中の灯りを受けて輝き、澄んだ青い瞳が印象的だ。白いドレスのような服をまとい、まるで母さんが読んでくれた絵本に出てくる天使のようだった。肌は透き通るように白く、その微笑みは穏やかで優しげだ。
もう一人は対照的に、深い黒髪が腰まで流れ、その瞳は赤く妖しく輝いている。鮮やかな赤い衣装は体のラインを強調していて、俺が今まで見たことのない大人びた雰囲気を醸し出している。彼女の自信に満ちた表情と鋭い目つきは、どこか畏怖の念を抱かせる。
「マスター、聖剣を抜くということは即ち! 私がマスターの物になるという事なのです!」
金髪の女性が元気よくそう言う。その声は澄んでいて、心地よく耳に響いた。
「はんっ! 貴様のような小娘が何を言っておる! 主様はこの妾を抜くに決まっておるだろうが!」
黒髪の女性が挑発的に言い返す。彼女の声は低く艶やかで、聞いたことのない奇妙な感覚に包まれた。
(なんなんだ父さん。これはいったいなんなんだよ父さん! それに剣って人にもなれるの!? 聞いてない、聞いてないって! )
「私の力が信じられないのですね? 私を使えばそこの金貨ですらイモのように切ることができるのです」
「金貨をイモのように? 笑わせるな! 妾を使ってもらえれば金貨など消し炭にしてくれるわ!」
金貨をイモのように、それに消し炭って……全然イモ切り包丁の役目は果たせそうにないじゃないか。
「多分金貨ぐらいなら道具がなくても普通に切れるし、別に君たちの力は俺に必要ではないかな」
「マスター、それはさすがに盛りすぎではないのですか?」
「主様といえど剣も道具もなしには無理では?」
え? どういうことだろうか? 金貨って金貨……だよな? イモよりちょっと硬いだけの金貨だよな?
「金貨ぐらいで二人とも大げさだな、ほらよっと!」
金貨を空中に投げ手刀で真っ二つにすると、二人は目を丸くして口を開けたまま黙ってしまった。
「ま、まさか……そんな……」
「い、いやいや……そんな事って……」
二人は信じられないものを見たような顔で、真っ二つにした金貨を拾って眺めている。
「こ、この金貨は柔らかい物質で作られているのですね! マスター、そうですよね!? そうだと言ってください!」
「そ、そうに違いない! 小娘、貴様も主様と同じようにやってみよ!」
「絶対に柔らかいはず、せーの、そりゃー!」
ソフィアがさっきの俺のように、金貨を空中に投げ手刀で真っ二つにしようとしたが……
ペチン
「い、い、痛いです。こんなの絶対無理ですよ……」
「これだから小娘は。もうよい、妾に任せよ!」
レアも同じように金貨を空中に投げ手刀で真っ二つにしようとしたが……
ペチン
「硬すぎる……」
硬い……のかな? よく分からないけど二人とも手が腫れてしまっているし、とりあえず冷やさないとな。幸いここは家の裏の祠、家に帰れば水もある。
「二人ともまず手を冷やそう。家に水があるからついてきて」
「マスターの家!? 行きます! ぜひ私だけ行きます!」
「何を言っておる! 主様、こんな小娘は放っておいて妾だけを連れていくのが良いと思うぞ」
二人ともって言ったんだけどな……あーあ、なんかドタバタな誕生日になっちゃったな。
でも人と会話するのって父さんと母さん以外で初めてだし、この状況を楽しんでいる自分を感じる。
救世主だの支配だの今は置いといて、二人の手当てをして早くイモが食べたいな。
俺たちは家へと向かった。
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