第1話
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それから数年後______
「はぁ・・・」
亜麻色の長い髪をゆるい三つ編みで一つに束ねた紫の瞳を持つ年若い女性は、ベッドの横に座って腕を組んでいた。ベッドに横たわっている子供を目に、大きなため息が漏れていた。これからどうしたらいいのか考えあぐねていたからだ。彼女の名はレイリア。15歳で既に冒険者として生計を立てていた。
『まぁ、助けないなんて選択肢はないけど・・・さてこれからどうしたものか・・・』
ここは、森の真ん中らへんにある小さなログハウスの一室で、本来であれば彼女の寝床ではあるが、今は小さな男の子がベッドに横たわっていた。顔も含め身体のあちこちに擦り傷があり、かなり痛々しい有様だ。黒髪に青い目をした恐らく六・七歳くらいの子供だ。今はホッとしたのか、寝息を立てている。だけどよほど怖かったのだろう。目の下にはうっすらと涙の痕があった。
『そりゃ・・・そうだよね。あんな目にあったんだもの』
レイリアは男の子を拾った時の、つい先ほどまでの出来事を思い返していた。
レイリアは獲物を探していた。冒険者ギルドの仕事でもあり、自身の食料になる魔獣を森で探索していたところ、見つけてしまったのだ。美味しそうな魔獣ベアアイに襲われている子供を。ちなみにベアアイはその名のごとく、熊に似た魔獣なのだが、その身体は通常の熊の二倍、そして最大の特長は名前の由来にもなっている大きな目が顔に一つだけあるのだ。
『えっ!こんなところに子供が?!』
彼女は驚いた。なぜならこの森は小さな子供が来るようなところではなかったから。地元の子供なら誰でも、この森が危険であると知っているからだ。そして当然のことながら、男の子はベアアイから必死で逃げていた。その目には恐怖から涙が溢れていた。無理もない、自分よりも何倍も大きな魔獣に追われているのだから必死だったのだろう。だが、実際のところ、男の子は別の事情があったのだが、それは後でわかることになる。
『助けないと!!』
レイリアは声をかけた。
「こっちよ!」
男の子は女性の声に反応して、振り向いた。
が、彼女はすでに男の子の側にいた。
「え?」
男の子は驚いていた。なぜならレイリアは一瞬で男の子の側に来たからだ。少し距離はあったものの、彼女の身体能力ならば、造作もない事だったのだ。
「もう大丈夫、私が助けてあげる。」
「!!おねえさん、後ろ!!」
レイリアは魔獣と追われている男の子の間に入ったので男の子の後ろ、つまりは魔獣の前に登場した形だ。
「お肉、いただき♪」
「え?」
「てぃ!」
男の子はポカンとしていたが、レイリアは振り向きざま、大きく回し蹴りを魔獣の胴に命中させた。
「ガッアアァァ!」
魔物は蹴られた勢いで大きく後退し、後ろにある木に激突した。レイリアはすかさず帯剣していた剣を抜き、ジャンプして剣を一つ目の魔物の眉間の真ん中に突き刺した。
「ごめんね。無駄にはしないから。」
「グゥアァッ・・・」
魔獣は眉間の急所を突かれたため、絶命し地面に倒れた。
「あ・・・あ・・・」
「ん??あぁ、怖かったよね。」
一連の流れに男の子は声にならないようで、剣を納めたレイリアが近づくと後ずさりしていった。
『そっか、そうだよね。大人よりも大きい魔獣に追いかけられたんだもん。まだ怖いよね。』レイリアは屈んで、手を差し出した。
「さ、子供がこんなところにいたら危ないよ。お姉さんと一緒にいこ?」
「い、いやだ・・・・」
『あれまだ怖いのかな??すごい恐怖に引きつった顔をしている。』
「う、うわぁあああああ!!!」
レイリアは逃げようとした男の子の首の後ろにスコンと手刀を入れた。相手は子供なので、当然手加減はしている。
「えい。」
「ぐえっ!!」
男の子は前のめりに倒れそうになったので、レイリアはすぐさま首根っこを掴み地面に倒れ込むことはなかった。
「うん。静かにしようね。森で騒がしいのはお姉さん嫌いなの。」
しかし、意識を失った男の子に聞こえている訳がなかった。
『うるさいから、つい気絶させちゃったけど、私を見て逃げようとしていた気がしたのは、気のせい?・・・え?私そんなに怖い顔していたのかな・・・ううん、気のせい気のせい・・・のはず、よね?』
実際はその通りなのだが、レイリアは気のせいだと思い込もうとしていた。
「さてと・・・」
しばし考えた末に、気絶した男の子を左肩に担ぎ上げ、右肩に先程仕留めた魔獣を縛った縄をズルズルと引いて自分の家へ帰ることにした。
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