亡命者の竜の国の皇子は年上脳筋女子に逆らえない
胡蝶花れん
プロローグ
そこは、とある森の中。子供ならとっくにベッドで寝息をたてているであろう時間に、懸命に満月の月明りだけを頼りに、森の中を駆け抜けている幼い女の子がいた。その子はただ意味もなく走っている訳ではなく、一生懸命に逃げていたのだ。
「はぁはぁはぁ」
年の頃は五.六歳であろう女の子は息切れぎれに、目には涙がとめどなく溢れ、必死で逃げていた。
「うっうう、グス、はぁ、はぁ・・・」
『たすけて!たすけて!だれか、だれかおねがい!!』
そう声に発したくても、今は走ることで精一杯で、言葉にすることはままならなかった。
『なんで?なんで?どうして??・・・わたし、そんなにいらないこだったの?なんで?わかんないよ??!!』
幼い女の子はパニックになっていた。突然住んでいた屋敷から、誘拐という非日常なことが起こってしまったからだ。それもただの誘拐ではなかった。連れ出されたのは継母の目の前で堂々と行われていたのだから。そして継母の口からはまさか言葉が紡がれた。
「二度と帰ってこないで。いえもう帰ってくることは叶わないでしょうけど」
そう言った継母の美しい顔は蔑むように女の子を見つめ、口の端は上がっていた。
『おかあさまなんで??』
口は誘拐犯に布でふさがれて、その言葉が放たれることはなかったが、驚きで目を見開いた様は言わずとも目がそう語っていた。
「くくく、可哀想になぁ。」
そんな言葉を頭上で聞いたかと思えば、そこから意識が朦朧として途絶えた。
そして目が覚めれば、そこは日が沈んだ見知らぬ森の中で、近くには先程自分を誘拐した男二人の会話が聞こえてきた。
「お貴族様の考えることはこえーな」
「おいおい、それを請け負ったのは俺らだろ?」
「ちげーねぇ!楽な仕事で、これだけの金だ!これでしばらく酒と女には困らねぇな!」
男たちは笑いながら、女の子から背を向けた状態で、焚き木の前で報酬で得た金貨を数えていた。
『いまだ!!』
女の子は、チャンスだと気が付き、一瞬のスキをついてその場から逃げ出した。
薬で眠らされていたので、幸い縛られてはおらず身体は自由だった。そしてそこから、森の中を闇雲に逃げ回っていた。
『うぅ、どうして?わたしそんなにいらないこだったの?なにか・・・なにかわるいことしちゃったの?わかんないよ!なんで??』
「うぁっっっ!!!」
しかし、突如左肩に鋭い痛みが走った。女の子は走っていた体勢からそのまま地面に倒れ込んだ。
「い・・いた・・・いよ・・・」
女の子の身体の左肩に深々と剣が突き刺さっていた。倒れ込んだ女の子の体からはその傷跡から血がどくどくと流れでていた。後ろから剣が投げられたからだ。
『わ・・・たししんじゃうの??』
流れ出ている血のせいで、女の子の意識は朦朧としかけていた。だがそんな状態ながらも近づいている気配には気が付いた。
『あぁ・・・つかまっ・・ちゃったんだ・・・』
「ったく!手間取らせやがって!大人しくしときゃ、無駄に痛い思いしなくてもすんだのによ!!」
「そうそう、俺達も鬼じゃねぇからな。一発で殺してやっから♪」
下卑た笑いを浮かべた男が二人。地面倒れている女の子を、上から見下ろし好き勝手なことを言っていった。女の子は、男たちのセリフに、誘拐が目的なのではなく、殺すことが目的だったとはっきりと悟った。
『ころす・・・?しんじゃうってことだよね・・・でも・・・これでかあさま・・とおなじところに・・・』
「うあっ!!」
女の子の身体に突き刺さっていた剣を無造作に男は抜いた。抜いた瞬間肩の傷口からは血が吹き出していた。そしてそのままお腹を蹴り上げられ、俯いていた体を強引に仰向けにさせられた。女の子は痛みと絶望で、涙で視界はぼやけていた。
「い・・いたい・・よう・・・」
二人の男たちは、女の子を見下ろし口を開いた。
「くく、簡単な依頼で良かったぜ!こんなガキ一匹始末すりゃいいだけなんだしな」
「ちっ、本当は売っちまいところだが・・・ソレすると俺らがやばいからな。ここは依頼通りにさせてもらうぜ」
「さぁ嬢ちゃん、俺らは優しいからな、苦しいだろ?今すぐひとおもいに殺してやっからな。」
「嬢ちゃん恨むんなら、俺達じゃなくこんなことを依頼した親を恨むんだな!!」
『かあさま!!』
男は先ほど女の子の肩を刺した血の付いた剣をかかげ、女の子を目掛けて振り下ろした_____
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