オタク俺氏、実はイケメンだっかもしれない

AteRa

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 オタク俺氏、実はイケメンかもしれない。


 このことに気がついたのはふとしたことだった。街中を歩くとチラチラと人がこちらを見てくるような気がするのだ。なるほど、最初は勘違いかと思っていた。しかし見られる頻度が多いし、女性たちが心なしか頬を赤らめているような気がする。うむ、間違いなく俺はイケメンかもしれない。


 それならばと、俺はまずはコンタクトに変えた。やはり眼鏡イケメンも需要はあるだろうが、それだけでは少しニッチになってしまうだろう。イケメンは大抵眼鏡を掛けていない。俺も外そうと思ったのだ。眼科に行って処方箋を貰い、コンタクトレンズ屋に行く。そこで試着させてもらうと、店員から「雰囲気がだいぶ変わりましたね」とか「より優しそうになりました」とか言われてしまった。イケメンな俺に早速惚れてしまったらしい。だが俺はイケメンであれど二次元にしか恋をしないと決めている。三次元には興味がないのさ。


 その後、俺は服を買い漁り始めた。店員には「お似合いですよ」とか、「かっこいいですね」とか言われる。さすが俺氏。イケメンだから洒落た洋服すらも似合ってしまうのだろう。しかし洒落た服は着心地が悪い。少し太っているからか。俺は更なるイケメン化を求めてダイエットも開始した。


 最初はなかなか痩せずに苦労したが、痩せればさらにイケメンとなり、もしかしたら芸能事務所から声がかかってしまうかもしれない。そう思えば頑張れた。最初の一ヶ月は1キロしか落ちなかったが、それからはトントン拍子で落ち始め、次の一ヶ月で5キロ、さらに次の一ヶ月で4キロ落ちた。これにより、俺はさらなるイケメン化することが出来た。


 しかしすると視線が減った気がする。何故だ……。俺は間違いなくイケメンになっているはずだ。しかし何故視線が減るのだ。俺は考えた。その理由を。結果、俺は一つの答えに気がついた。髪型が悪いのだと。痩せて、服も洒落て、最後に残ったのは何か。それは髪型だ。俺には洒落た髪型が足らん。しかもイケメンになったものだから、そのアンバランスさが仇となり、視線が減ってしまったのだろう。そう考えるのが自然である。


 というわけで美容室に来た。美容室に来た俺は最近流行りのイケメン俳優と呼ばれる人の画像を見せて、こんな感じにしてくださいとお願いした。それからチョキチョキと軽快に髪が切られていき、重たかった髪型がスッキリし、ちゃんと整えられた。美容師にも「お似合いですよ!」「かっこいいですね!」とテンション高めに言われてしまった。やれやれ、どうやらイケメンになり過ぎてしまったみたいだった。


 しかし相変わらず視線は以前よりも減った。まあ、視線が減ったことはもう気にならない。何故ならば俺は自分がイケメンであることを自覚できているからだ。自分が自分でイケメンであることを認めるのが大事だと、俺は気がついたのだった。





   ***





 ある日、私が街でその人を見かけた時、思わず吹き出してしまうかと思った。平成初期のバリバリのオタクが歩いていたのだ。ネルシャツにボロボロブカブカのジーンズ。登山に行くかのようなリュックにポスターを差している。眼鏡もゴツく、度も強そうだ。一瞬何かのコスプレかと思ってしまった。しかし本人にはそのつもりはなさそうだった。ビクビクして周囲を気にしてる様子がまさしくオタクのようだった。





   ***





 私はコンタクトレンズ屋の店員である。その日、太っててオドオドしてるせいで酷く挙動不審に見える、ごっつい眼鏡を掛けた男性が来た。正直気持ち悪いと思ったが、私はなんとかその気持ち悪さを堪えて接客した。しかし眼鏡を外してコンタクトに変えたら、多少は見れるようになった。特に目元が大きく優しそうな垂れ目で、痩せたらそれなりに格好良くなるのではないだろうか。素材は悪くないと感じた。ああ、でも、優しそうですねと私が言った時のフヒッという笑いだけは流石に気持ち悪かったが。





   ***





 俺は服屋の店員である。とあるシフトの日、太ってて挙動不審な男が来た。来ている服も、母親がイ◯ンで買ってきたかものをずっと着ていたせいでボロボロになってしまったかのようなネルシャツとジーンズで、さすがにダサいと言わざるを得ないファッションだった。見ていられないレベルだ。しかし垢抜けのモチベだけは高いみたいで、お金をたくさん握りしめて、色々な服を買っていった。うちの服を試着した時は、それなりに見れるようになった。しかし、お世辞で似合ってると言った時にフハッという笑いを溢して、少し気持ち悪いと感じてしまったが。





   ***





 その日、学校帰りに私が街を歩いていると、そこそこイケメンそうな人を見かけた。少し挙動不審で髪型もボサボサでダサかったが、素材は悪くないように思える。スラリとしていて、何処かアンニュイな表情がいい。私はバレないように視線を送り、友達にも「ねぇ、あの人意外とかっこよくない?」と聞いてみた。友達の好みではなかったようだが、悪くはないと言ってた。もしかしたら強がりだったのかもしれない。周囲を見渡してみると、ちらほらバレないように視線を送っている人がいる。しかし本人は視線を送られていることに気がついていないようだった。





***





 私は美容師である。その日、それなりに素材の良さそうな人が入店してきた。しかし髪型には興味がなかったのか、伸ばしっぱなしでかなりダサい。イケメン俳優の画像を見せてきたので、頑張ってそれに寄せてみることにした。するとどうだろう。かなりイケメンになり、これなら女性も思わず盗み見てしまうと思うほどになった。やはり素材が良かったのだろう。自信がありそうな感じだし、これはモテると確信した。思わずテンションが上がって、「お似合いですよ!」とか「かっこいいですね!」とか言ってしまった。変に思われてないといいけど。しかし、髪型であんなに人って変わるのかと美容師の私も思い直すほどだった。

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