転生女神に会いたくてリセマラしまくった結果、あと三回で魂を抜かれる件

瑞木 玖

転生女神に会いたくてリセマラしまっくた結果、あと三回で魂を抜かれる件

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 俺が九十七回目に死んだ時は、アルコール急性中毒だった気がする。

 に会いたくて、やけ酒を呷ったんだっけ。

 

 女神こと、転生者を魔王に導く転生女神。

 名前の通り、マジで女神。名は体を表すんだなあ。

 声は絹糸のように繊細で美しく、肌はもっちり赤ちゃん肌、ブロンドさらさらヘアに、身体はぼっきゅぼん。顔は端正に作られた女児玩具の人形のよう。誰もが息を呑むキューティービューティーフェイス。

 特筆すべきは、こんな俺でも親身になって転生の話をしてくれたこと‼

 ぜってーいい性格してる女だぜ。


 そんで、初めての転生で俺は彼女に一目惚れしたって訳。

 だけど、何かい死ん《リセマラ》でも、女神に毎回会えるわけではない。

 そのため、俺は死ぬ気で死ぬほどリセマラを繰り返した。

 感覚が麻痺し、死への躊躇いを忘れるくらいには。

 俺の頭の中は、どうやったら低コストで死ねるか。これだけ。



 ――さーて、次こそ女神に会えますように‼ あばよくば、勇者に選ばれて一緒に旅しちゃったりして‼ ぐふふっ。


 死後、数十秒五に転生の使者は現れる。


 俺は目をばっちり開けて、女神を迎える準備をした。


「初めまして……」


 ――これは、正真正銘女神の声だ‼


 俺は精神の部屋のベットから飛び起きた。


「初めましてじゃないよ‼ 俺だよ、俺‼ 勇者かと思って召喚されたけど、ニセモノだった勇者‼ 女神、だよな⁉」


 にこやかで柔和な笑みが、一瞬にして灰のように消え去った。


「また、死んだんですか? はっきり言うと、あなたが勇者だなんて、迷惑です」


 今にも雪が降り荒れそうな性格に女神が一変した。


「え? 女神、どしたん……? 性格が……」


 女神はセットされた髪を掻きむしった。

 同時に俺の女神イメージが崩壊していく。


「あー、あなた死にたがりでしょ? そんなのが魔王を打つ勇者になんてないでしょ」


「勇者……俺のこと、勇者って言ったか⁉」


――俺、ついに勇者に選ばれたのか⁉


「え、ええ」


「俺、俺さ、女神がいるなら絶対死なないって誓うよ‼ 魔王を倒すからさ、だから一緒に旅に出てくれよ‼」


「……では縛りをつけましょう。あと三回死んだら、魂をあの世にお返しし、二度と転生できない身体にします」


「いいぜ‼ 俺、死なない自信ある‼ 勇者になったら、こんな俺でも強くなれんだろ⁉ 余裕だぜ‼」


「わかりました。せいぜい生き残れたらいいですね」


 棘のある言葉を吐いて、女神は俺に魔法をかけた。



 あと三回しかリセマラできない魔法を。




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「よーし、無事勇者になれたことだし、旅に出発しますか」


 俺は召喚先の城で、装備一式を見繕ってもらった。

 ニセモノと追い出された時とは天と地の差がある待遇に、若干苛立ちを覚える。

 が、そんなこと女神と旅に出られるならどーてもよし。


 俺は相棒となる剣を決め、武器屋から一歩を踏み出した。


「女神、最初の目的地は?」


 当たり障りのない問いかけに、女神はカッと目を瞠った。


「この街に魔王が度々出没しているのです‼ 魔王はここで倒すのですよ‼」


「え⁉ マジで⁉」


「あ」

 

 女神が俺の背後に視線を送った。まるであり得ない情景を見るように。


「あ?」



ぶしゃっ



 状況を把握する間もなく、俺は死んだ。


 目を開けると、精神の部屋に溜息を吐いている女神と目が合った。


「あの……俺」


「魔王が村の外から投げてきた岩石で圧死されました‼」


  女神は可愛い顔でぶんむくれている。そんな君も愛おしい。


――圧死か、もったいない死に方したな。


「大体、勇者様は不運ゲージが高すぎます‼ どんな行いをしたら、こんなに高くなるのか……」


「リセマラばかりしていたので、色々とチャレンジして……」


「ばか‼ それだから、幸運の装備も効果ナシだったのよ‼ 冒頭に殺される勇者なんかあってたまるか‼」


 口調が荒い女神もいい……‼ ギャップっていいな‼


「のほほんとしないでください‼ 別の勇者探しに行きます‼」


「待て待て待て‼ 次はちゃんと戦うから‼ 俺には分かる。魔王を倒すビジョンが」


「…………」まだ女神に気持ちは届いていないようだ。


「あと二回くらい、一緒にいてくれよ‼ 無責任じゃないか‼」


「……無責任? 誰が無責任ですって⁉」


――ああ、そういう感じ?」


「そ、そうだ。三回と宣言したなら、三回まできっかり俺を見届けるのが筋だろ‼」


「……分かりました。次はまともに戦ってくださいね」


「まかせろ‼」


 俺は自信満々に応えた。


「どこからそんな自信が出てくるの……? 圧死したくせに」


――待てよ、なんで魔王を倒さなくちゃいけないんだ?

 まあいい、轟け俺のスーパーゴッドソード‼




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 城に再び召喚され、装備を整える。ここまでは先ほどもやった流れ。だいぶスピーディーにここの課題はクリアした。

 

 そして村へ降りると、魔王が広場に着地した。

 魔王と言えど、魔獣ではなく人間だ。

 魔が混ざった人間、つまり魔人というところだ。


 空気が邪悪に満ち、息が詰まり肌がビリビリと刺激される。


「よく来たな魔王‼」


 俺は絞っておいた台詞を言って、登場。剣を鞘から抜いて、構える。


 ぎろり、と魔王の邪気を孕んだ瞳に睨まれる。

 一丁前に剣を抜いたくせに、身体が動かない。

 だが、ここで何もしないのは男が廃る。


「お、お前の目的はなんだ‼」


「話が早い。、魔宝石マホウセキだ。ありったけの魔宝石を持ってこい‼」


――め、女神。なんで魔王は魔宝石が欲しいんだ?


 ちらりと背後に立つ、女神に目配せを送る。


「魔王は魔人なので、魔法は魔宝石がないと使えないのです」


――えー⁉ 魔法使うのか⁉ 前世でもっとファンタジー系のゲームすればよかったわー。


「早くしろ‼」


 魔王は甚大な恐怖に押しつぶされ、動けなくなった村人を見て、怒りを募らせた。


「お断りします……‼」


 女神⁉ なに言ってんだよ‼ いいなりになってりゃ、魔宝石を奪われるくらいで済むのに‼


「村の魔宝石が無くなれば、一生雨が降らなくなると言われています‼ どうか、御見逃しください‼」


 魔王の眉がぴくりと動く。

 そして指輪を女神に向けた。


「死ね」


 魔王は一切の躊躇いなく、死に至る魔法を繰り出した。


 だが、魔法の威力が強いほど、魔法の速度は遅い。


 俺は火事場の馬鹿力で女神の前に飛び出た。


「勇者――」


 俺は両手を広げ、まぶたを閉じた。


 死に至る魔法で、転生回数は、残り一となった。




             4

「なんて馬鹿なことするんですか‼」


 俺は女神にどつかれて、目を覚ました。


「よかった…………生きてる……」


 寝ぼけた俺は、上から見上げる女神の頬に手を伸ばし、触れた。


「わたしはあの程度の魔法くらい、自分で裁けました‼」


 女神は俺の手を叩き落とした。


「そんな、助けただろ⁉」


「そんなこと、頼んでません‼」


 ぴしゃり女神は言う。


「……なあ、どうして抵抗したんだ?」


 女神はきゅっと口を結んだ。


「何か理由があるんだろ? 教えてくれよ。女神が大事なモノは俺にとっても大事だから、一緒に守らせてくれ」


「……わたし、この村で生まれて、この村で死んだの。

 そして、この村に女神としてした」


 え、そんなことあるのか……?


「だから、この村にある大事な魔宝石を知ってるの。呪い封じの魔宝石を」


「呪い、封じ?」


「この村は大昔、魔獣が飢饉の呪いをかけたの。それを封じるために王子が呪い封じの魔宝石を探して、飢饉の呪いを封じくれているの。だから、あの魔宝石がなくなったら、この村はまた……」


 滲んだ声でそう訴える女神はうつむいて、顔を両手で覆った。


 呪い……

 不運……

 

「なあ、女神。その呪いの呪い返しってできるか?」


「はい?」


 女神は鼻をすすった。


「だから、俺の不運をなんとか使って、呪い封じの石の呪いを魔王に渡すのはどうだ?」


「あ……。確かに女神の力で不運を操れば、呪い封じの魔宝石の呪いを解放できる……‼」


「やる価値、あるだろ?」


 俺はここぞとばかりに、得意げに笑うと女神にはたかれた。

 ご褒美をいただいたのだから、頑張らねば‼




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 召喚からの手順を早巻きに終わらせ、広場へ駆けつけた。


「いい? 呪いを解放できるのは不運なあなたが石に触れた瞬間だけっ、上手くやるのよ‼」


「おうっ」


 俺は呪い封じ石が入った袋を握りしめた。

 全身に女神の力が巡っているのがわかる。力が酸素のように、身体に巡り、身体の一部になる感覚がする。まるで元気がみなぎるよう。


「おおおおおおおお―――――――――――――ッ‼」


 俺は雄叫びを上げ服を握った半身を隠しながら、魔王に迫った。


「なんだ、雑魚」


 言ってくれるじゃねえの‼


 俺は魔宝石を取り出し、剣をバットにして石を打ち飛ばした。


 これで魔王は……


「なんだこれは、雑魚だ」


 魔王は魔宝石をキャッチすると石を片手で容易く破壊した。


「゛あ―――――――――――――――ッ‼」


 作戦失敗じゃないか‼

 いや、待て待て待て。考えろ‼ どう死ぬかを‼ 今まで九十以上も死に方を考えてきたじゃないか‼ あ‼


「女神、力を上げろ‼」


「? わかったわ‼」


 女神は手のひらから凄まじい力を俺に送った。


 刹那、ぼとっ。


 鳥の糞が頭に直撃。


「よし‼」


「何がよし‼ なのよ‼」


 俺は魔王へ突っ走った。

 そのまま魔王に突撃する勢いで。

 魔王に抱き着くと、俺は即座に魔王の魔宝石を所持しているポケットに手を入れた。


――発動しろ‼ 俺の不運よ‼


 途端、禍々しい複数の呪いが蛇の如くのりょのりょと魔王と俺の身体をまさぐりはじめた。


――よし、呪い返しは成功‼ あとは……。


「勇者‼ もう離れて‼」


 女神が必死な悲鳴を上げる。

 発声がデタラメで、女神の絹の声が台無し。

 好きな女の悲鳴ほど痛いモノはない。


 俺は一瞬、ためらった。いや……


――駄目だ。途中で離したら、呪いが完全に利かない。

 俺も道ずれになってやる‼


 全身が呪いにむしばまれていくのがわかる。

 意識が遠のき、体温が奪われて冷たくなっていく、力が入らない――


「勇者‼ 勇者‼ 夕沙ユウシャー‼」


 俺の意識は途絶えた。




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――あーあ、死んじゃった。あの世逝きか。


夕沙ユウシャくん、夕沙くん、夕沙くん」


――あれ、女神の声がする。俺、魂になったんじゃないのか?


 寝起き眼をこすり、目を開けた。

 すると、そこは雲の上だった。


「はあ⁉ どういうこと⁉ ててて、天界⁉」


「そうよ、天界に来てもらったの」


 目の前には眉目秀麗で柔らかい笑顔の女神。


「村は⁉ 俺、呪い封じの石壊しちまったし……」


 俺が不安の色を浮かべると、女神はふふっと笑った。


「あなたが魔王と心中したあと、感謝の証として、王様から呪い封じの魔宝石を賜ったの。あなたは本物の勇者になったのよ‼ 夕沙くん‼」


「そっか……それなら、よかった。

って、俺の名前……‼」


「夕方の「夕」に数の単位の「沙」で夕沙くん、でしょ? 初めて会った時に言ってたじゃない。前世で夕沙って名前をつけられて、よくそしられたって。俺は勇者じゃないのにってさ」


「やめてくれよ……。そんなの忘れたって」


「ふふふ。夕沙くん、夕沙くん、夕沙くん……」


――まあ、好きな人に名前を呼ばれるのは悪くない。

  だが、はずっつい‼ 話を変えなければ一生いじられる‼


「……それで、俺あの世に逝くから天界にいるのか?」


 女神はかぶりを振った。


「天界で夕沙くんと一緒に暮らすことになりましたー‼ 嬉しい? 嬉しいでしょー?」


 俺は一時停止する。


「ど、どういう流れでそうなったんだよ⁉」


「わたし、身を挺してわたしと大事なモノを守ってくれた夕沙くんのこと、好きになったから、ここで一緒に住まない? 夕沙くんだって、わたしのこと、好きでしょ?」


 そうだけども‼


「どうする? また転生リセマラしたい?」


 女神に会うため、リセマラしてきた……でも、女神と一緒にいられるのならする必要ない……な。死ぬ必要なーし‼


「あ、ああ‼ 一緒に住む‼ もうリセマラしません‼」


 俺は女神のふっかふかな胸にダイブした。




                        Fin.     瑞木 玖












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