4 貴女と

「ん……ぁ…………、も、もぅ……」

 指先に当たる、熟れた小さな襞をそっとなでると彼女はつらそうにつぶやいた。

 否。つらくはない……いや、それも否、だ。実際その表現は半分だけ正解だ。

「うん? もうどうしたの? 続きはなに?」

 意地悪をして耳元でささやく。いやまあ、これ定石でしょ? 攻めてる人の特権。意地悪というか、まあ意地悪か。愛おしくてやっちゃう意地悪。

 もちろんわかってるよ、ハニーが言いたいことは。思ってることは。でも訊くのだ、意地悪して。いろんなハニーを見たいから。

「もう……だ、め……」

 顔を桜色に染めて悦楽に震え、中にあるもの開放したくてたまらないつらさ。彼女の髪の毛からつま先まで可愛くて淫らだ。

「まだだめ、もう少し」

 指先を止めてハニーの耳たぶを口に含んだ。

「んんんっ」

 今は何をしてもどこに触れても、吐息ひとつででも、彼女を支配できる。

 部屋の明かりを落として、二人で互いの服を脱がせて。どのくらいの時間がたったかもうわからない。唇をむさぼって身体を重ねてまさぐりあって、互いの熱が新たな熱を呼ぶ。しかし終わりを知らせるのは滴り落ちた汗の冷たさ。甘い時間が終わりを告げ、私の中の小さな獣が彼女を喰らおうと動き出す。

 でもすぐには食べてあげない。ハニーが食べられることを望んでいることもわかってる。

 でもまだ。つらくて気持ちよくてそれが涙となって彼女の瞳を更に潤ませる、そんな可愛くて淫らな姿を少しでも長く見たいから。私だけが許された、私だけの至福。それはきっと今だけの至福。だからこそ、一秒でも長く、この腕の中に抱きたいのだ。いつまでも甘い夢を見続けられるほど大人でも子供でもない。どちらにもカテゴリされない中途半端な存在だから必死にあがいて掻き抱く。今という時間を、貴女を。

「いいよ」

 より身体を密着させ彼女の唇に己のそれを重ねる。その声、その吐息、涙も唾液もすべて私の中に。私の中で果てて。

「あぁ……っ…んんっ……っ」

 ハニーは緊張を解いて私の腕の中に落ちてきた。

 そして少しの沈黙が、少しだけ互いの熱を冷まして。

「…………うーん」

「どうだったの?」

「嫌な感じはなかったけど、やっぱりお布団がいいかな」

 にっとハニーは微笑んだ。

「だよね、私も思った!」

 そう、ハニーの言うように悪くないけどよりいいのは布団だ。

「立ってやるのは緊急の時かなぁ」

 !?

 満足そうにつぶやくハニー。

 き、緊急時って、どういう時だろ、う……。

 訊き返せないうちに、ハニーは自力で立ってベッドへ私の手を引く。

「一緒に寝よ」

「う、うん」

 さて、また新たな疑問が。

 寝るって、どっち? 第二戦?


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