私とハニー

慶野るちる

1 ぬくもり

 風邪を引いた。

 だからもちろん今日のデートはキャンセル。

 仕方ない。しかしなんだかなぁ。風邪なんか滅多に引かないのに、何も一週間ぶりのデートって時に風邪引かなくってもいいじゃん、自分よー。

 大学生になって学校が違うと、学生という自由がききそうな身分でありながらも意外にも実際に会える時間が格段に減った。行きたい学部がお互い違ったのだからそれは仕方のないことだ。トイレに行くように手をつないで一緒に、ってことはありえない。ま、電話は毎日してるけども。

 あー寒い。熱上がってきてるな、こりゃ。布団にくるまってるのに体中がぞくぞくする。

 と。

 1kのドアノブがガチャガチャと鳴り、そしてカチャリと開いた。

「風邪どう?」

 ひょっこり顔を出したのは私のハニー。うつると困るから来ないでね、って言って、うん、って答えたのに。

「……寒い」

 私は正直に答えてしまった。

「風邪薬持ってきたから」

 彼女は靴を脱いで部屋に入ってくると小さな紙袋を掲げて見せた。

「ありがと」

 そうなのだ。ウチには薬すらない。病院に行く元気も今のところないからしばらくじっと耐えているしかなかったのだ。

 彼女はかばんを床に置くと、シンクヘ行き水の入ったコップを持ってきた。

「カプセルは飲めるんだったよね?」

 買ってきた(のだろう)薬を開け、一つ取り出した。

「うん」

 私は粉薬が小さな頃から飲めない困ったちゃんだ。ハニーから薬を受け取り水を飲み干すと。

「!?」

 目の前で彼女が服を脱ぎ始めていた。

「ちょ」

 何してんの、と言う前に全部脱いでしまったハニーはするりと布団にもぐりこんできた。

「脱いで。寒いんでしょう?」

 彼女にしては珍しく積極的にパジャマのボタンを外していく。

「え、いや、あの」

 珍しく動揺するのは私。パジャマの下はブラもつけてなかったから、すぐに全裸。

「あたためてあげる」

 ハニーがぎゅうっと私を抱きこむ。

 ……うん。あたたかい。人肌ってあたたかい。ぞくぞくが急激に引いていく。

 ……一人じゃないって、いいね。

「早く治るといいね」

 その言葉にはっとなる。

「うつしたら元も子もない!」

「うつってもいいよ」

「ダメだってば!」

 と、言いつつも離れられない。このぬくもりから離れたくない。

「眠るといいよ」

「……うん」

 ごめん、ハニー。

「今日はこのままなにもなしね」

 わかってるってば!


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