魔術が扱えなくても『魔術を斬れる刀』さえあれば問題ないよね!

@Nier_o

第1話 艶のある太ももを触っても問題な……あるよね!(修正版)

揺れをあまり感じられない大変心地よいバスの中、太ももに挟み込むようにして漆黒の鞘に納められた刀を大事に抱え、移り変わる外の様子を眺める。


「今日から、私も高校生なんだ……」


――4月3日。

ある意味、人生の新たなスタートを意味する“入学式”と呼ばれるイベントが行われる日にて、私こと徒篠風璃あだしのふうりは呟いた。


窓から見える街の景色は、どれもこれも私にはあまり馴染みが無い。

あの一体どれだけの人が入ったら窮屈さを感じるのだろうかと思ってしまう程に大きいビルも、この段々と同じ制服を身に着けている人が増えつつあるバスの中さえも。


だからなのだろうか。

胸の奥から沸々と、感動や感激と言った感情が自然と湧き上がってくるのが分かる。

目は輝いていると思うし、無意識のうちに体はうずうずとしている。


でも、それはしょうがない事なのだ。

だって私はこれから――いわゆるJKと呼ばれる人生の中で最も華のある貴重な時間と呼ばれている時間を過ごす女の子なのだから。


「隣、座っても大丈夫ですか?」


私が胸をそんな感情で膨らませていると、突然左から透明感があり過ぎて国宝認定したくなってきてしまう程の美声が聞こえてきたので、流れるようにそちらに視線を向ける。


そうして目に映ったのは、雲のように白くふわっとした肩まで伸びた長髪に、まるで海のように煌めき輝く透き通った青色の瞳を持った少女が私の顔を覗き込むようにして立っていた。


「勿論ですよ!」


私は笑顔を向けて快く了承する。

席を独り占めする事なかれ也。


「ありがとうございます」


そう一言感謝を述べると、女の子は私の横に座る。

まるで凛と咲く花の如く。という言葉が似あう女の子だと思う。

体幹がしっかりしており、体の軸のブレが少ないように見受けられ、席に座る彼女の姿勢は背筋がピンとしており、まるで芸術作品のように思える。


え、すっごい何この脚。艶があって白くて超超綺麗なんだけど!?え、物凄くすべすべしてみたい。ダメかな、ダメだよね抑えて私!!


チラリと見える、まるで金銀財宝のように輝きを放つ白い太ももに、私の触ってみたいという欲望が出てきてしまいそうになったが、何とか自制心を保つ。


昔おじいちゃんのキレイでピンピカな頭をつい触ってたりもしたし、私はきっとこう、触り心地が良さそうなものをつい触りたくなってしまう人間なのだろう。


こういう現象、名前とか無いのかな。


「貴方も、夕凛せきりん高校の新入生ですか?」


なんてやましい気持ちと葛藤していると、彼女が言葉を投げかけてくる。

夕凛高校は、私がこれから通う学校の名前にして、この“学園都市”と呼ばれている都市の中でも選りすぐりの超エリート達が通う名門校なのである。


「はい!そうですよ~!!」

「やっぱりそうだったんですね!という事は、私とは同級生って事になりますね」


ふふっと上品に笑いながら、その美しい笑みを零して話す。


「本当!?それなら、お互いため口で話そうよ!!」


私は興奮を隠さぬまま、提案を投げかける。

すると、彼女は人差し指を口に押し当てながら――。


「しっー。バスの中はお静かに、だよ?」


早速タメ口を使ってくれながら、私に優しく注意してくれる。


「あっ……。うぅ、ごめんなさい。私、昔からうるさくて…………」


興奮するとすぐに大きい声が出てきてしまうのは、私の昔からの悪い癖だ。

でもでも、こんな美しくて上品な人が同い年だなんて普通思わないじゃん?テンション上がっちゃっても無理ないよねごめんなさい。


「あ。そういえばさ、名前何て言うの?」

「私は白鷺琴音しらさぎことね。好きに呼んでもらって大丈夫だよ。貴方は?」

「じゃあ、琴音ちゃんって呼ぶね!ちなみに、私は徒篠風璃あだしのふうりって言うよ!」

「うん。よろしくね、風璃ちゃん」


まさか学校に着く前にこうして友達が出来るとは――私は思っている以上に運がいいのかもしれない。


私的には誰かと交流を図るのは好きだし、友達もいっぱい作りたいと思っていたから、こうしてすぐに友達が出来るという事態は幸先だって良いだろうし、予想以上に嬉しいものである。


「…………後、さっきから気になっていたんだけど、風璃ちゃんが抱えているのってもしかして刀?」


私が大事に抱えている刀に視線を向けながら、琴音ちゃんが質問を投げかけてくる。


「そうだよ!これはね~、私の家に代々伝わる宝刀でね?“御厨世みくりよ”って言うんだ~」


私にとっては最早家族同然のような存在の愛刀の話になった事により、ついついニヤけた顔を浮かべながら声を発してしまう。

しかし、そんな私とは対照的に琴音ちゃんは困惑した表情を浮かべていた。


「えぇっと、代々伝わる宝刀って持ち歩いていいんだ……」

「ふふん。こう見えて、今のこの刀の所有者は私だからね。細かい事は全部気にしなくても大丈夫なのだよ。それに、この刀に人を斬る効力なんて無いし、私以外の人は上手く扱えない代物だから価値なんて全然無いんだよ!」


琴音ちゃんの純粋な疑問にそう答えると、更に琴音ちゃんの困惑が増したような気がした。


「人を斬る効力が無くて、風璃ちゃん以外は上手く扱えない……?」 

「うんうん、だから心配ご無用ってわけよ!後ほら、みんな“魔術”扱えるでしょ?けど私、扱えないから……護身用で身に着けなきゃっていうのもあるかな~」


魔術は、例えば火種の無い場所で火を起こしたり、あるいは風を操り、またあるいは氷を生成したり――そんな現象を引き起こせる力の総称の事。

勿論、今のは例であって人それぞれ扱える力は違うんだけど。


「魔術が扱えない……?それってもしかして――!!」


琴音ちゃんが、全てを理解したような表情をして告げる。

きっと、私の体質に気付いたのだろう。


「うん。多分琴音ちゃんが気づいた通りだよ。私、生まれつき“魔力”が宿ってなかったんだ」


魔術を扱うには、前提条件があった。

それは、魔力と呼ばれる血液とは別に生まれつき体中に巡るオーラのような物の有無。


人は、魔力を用いて魔術と呼ばれる力を行使する為、魔力を所有している事が絶対条件なのだ。

けれど、私の体には生まれつき魔力が一切備わっていなかった為、魔術を扱う云々の土俵にすら立つことが出来なかったのだ。


「そう、だったの…………」


不味い事を聞いてしまったといったような、居心地の悪い表情を浮かべる琴音ちゃんの様子に、私は慌てながら口を開く。


「あ、待って待って!?私、魔力が無いだとかなんだとか、全然気にしてないからね?本当に!」


精一杯の笑顔を放つ。


「そっか……強いんだね、風璃ちゃんは」

「え、?えへへ、まぁそんな事あるかな~」


何故だか唐突に褒められてしまった事により、驚きつつも私は頬を赤らめながら照れる。


「…………あれ?でも待って。魔術を扱えないのに、どうやって夕凛高校に入学出来たの?」

「私が強いから?」

「精神的な強さじゃなくて実力の話なのだけれど……」


――――なんて他愛もない雑談を続けながら、私達はバスが目的地へと到着する時が訪れるのを待つのだった。

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