第204話 キウイの決心~保身と打算のはざまに~

「──オ、オルフェウスが私を殺す計画を立てていただと!?」



さっそく俺は、全体へと包み隠さずに方舟に関する推測を共有した。

反応はまちまちだったが、一番取り乱していたのが国王ゼウスだということは今さら疑問の余地はない。



「バッ、バカなことをっ! 騙されるものかっ!」



ゼウスはぜんそくの発作か、とでもいうほどに語気を荒げた。



「王国軍は言っていたんだぞ……国王であるこの私がこの地に留まり、そして民を鼓舞し続けて、帝国と共和国の増援まで持ちこたえれば、きっと逆転もできるだろうとっ!」


「父上、それはそれで事実だったのでしょう。その上での、保険の案だったと考えれば……納得はできると思います」



冷静に諭すように、アポロ。



「こうしてあなたの側近に置かれた王国兵が、われわれによる図書館への奇襲という非常事態に即応して、躊躇なく父上を殺そうとしたのが何よりの証拠ではありませんかっ」


「……!」


「兄上も軍も、この王国の地を、民を、そして父上を捨てたのですッ!」


「……くっ……! 何故だ……何故だぁッ! オルフェウスゥゥゥッ!!!」



そうしてゼウスは歯を食いしばりながら、深く深く、もはや言葉もなくうなだれるしかない。



「……それで、今後はどうする、キウイくん」



重苦しい沈黙を破ったのは、トロイア伯爵だった。



「この停電が明けるまで、あと十分もない。通信機能が回復すれば、まっさきにここへと状況確認が入るはずだ。そうすれば……」


「ええ。すぐに陛下を連れて隠れましょう」


「隠れるっ?」


「はい。あとは陛下と隠れていればいいだけですよ。そして朝になったら、オルフェウスと軍上層部による蛮行の真実を、一般兵と王都民たちに明かせばいい」



後は流れに任せれば、世論は魔国の侵略と王族・王国軍による企みの両方を阻止した英雄としてアポロを迎えてくれるだろう。

そうすれば、もはや王位継承に障害などない。

楽な仕事だ。

これでハッピーエンド──



──のハズだったのだが。



「いや、キウイくん。それでは今、われわれの作戦のために戦ってくれている連合軍の者たちはどうなるのだ」



俺へと渋い表情を向けるのはトロイア伯爵だった。



「大停電が明けてなお事態が決着していなければ、今も王国兵と戦ってくれているだろう連合軍の兵たちに壊滅的な被害が出てしまう。彼らのほとんどが普段は農民なのだぞ? 再び統制された王国兵たちとまともに戦うことになれば……」



あーーー……確かに。

そういえば、自分たち以外のことを考えてなかったや。

ウッカリだ。



「この奇襲の有利に乗じて、われわれで王国軍本部に乗り込んでしまおう。今すぐ伝令兵を手配し、連合軍の全兵へと王国軍本部へと攻め入るように指示を──」


「いえ、伯爵。王国軍との直接対決では事態が泥沼化してしまいます。だからこその父上だけを狙った大停電作戦だったのではありませんか」



今度はアポロが割って入ってくる。



「無理に交戦状態に突入しても、王都が混乱に陥るだけになるかと──」


「だがこのまま連合軍を見捨てることは──」



チクタク、チクタクと。

一向に結論に至らぬまま、時計の針は進んでいく。

大停電の明ける一時半までもう残り五分もない。



……くそ。そこで揉めるとはっ!



大いなる目的のための小さな犠牲、として割り切るにはさすがに犠牲者が多すぎるというわけだろうが……想定外だ。

であれば、致し方ない。気は向かないのだが。



「──私が王国軍本部まで攻め込みましょう」



俺の言葉に、アポロもトロイア伯爵も、目を丸くした。

しかし反応を待っているヒマもないので、俺は先を続ける。



「行動する班を分けるのです。王国軍本部へと少数精鋭で攻め入る私と、国王陛下を守るトロイア伯爵の班にね」


「で、ですが、アラヤ様っ! それではやはり、王国軍と直接対決になるのでは……」


「いえ、王国軍と真正面から戦うつもりはありません。あくまで目的は、明朝までの時間稼ぎにあります」


「……ど、どういうことです?」


「王国軍本部の通信施設、その一点のみを狙いに行きます。そこにある通信機器を使って、王国の一般兵へと戦闘停止と武装解除の命令を下してもらいます」


「下してもらうとは、いったい誰にっ?」


「アポロ殿下に、です」


「私にですかっ!?」


「ええ。アポロ殿下であれば一般兵からの信望も厚いでしょう……話を聞いてくれる者たちもきっと多い。それによって、明朝までの武力衝突をできる限り回避させることを目的にします」


「ま、待ってくれキウイくん! それはあまりに希望的観測が過ぎるのではないかっ? それに、キウイくんや殿下を危険にさらすという大きすぎるリスクが……!」



ごもっともなことを言う伯爵。

それについては、もちろん俺だって理解してるとも。



「ですが、このまま連合軍の多くを見捨てて明朝を待つ、という作戦ではご納得できないのでしょう?」


「む……」



言いよどむ伯爵。

まあ無理もない。

伯爵が領民想いの領主だということは、俺もアポロも知っていることだ。



「勝算は決して高くありません。不可能だと判断したら、私は、私と殿下の身を第一に考えて撤退します。ですが……何もせずに朝を待つよりかはいいのでは?」


「……私は、それで問題ありません」



アポロは頷いた。



「伯爵たちの領民にばかり危険を負わせるのは、私の志す王族としての振る舞いではありませんから。私にも背負えるものがあるのであれば、私は背負いましょう」


「殿下……」


「伯爵、その代わりに、あなたには父上を──国王ゼウスを明朝まで、何としてでも守り抜いていただきたい」


「……承知いたしました。必ずや、この命に代えてもっ」



方針は確定した。

俺たちはこれから二班に分かれ、そして明朝に王宮で落ち合い、国王ゼウスへと降伏宣言をさせる。


バチンッ! と音を立て、図書館の閉架に灯りが点く。

停電が明けたのだ。

時刻はちょうど一時半だった。



「行きましょう、アラヤ様! われわれの手でこの戦いに終止符を打ってみせるのですっ!」


「……そうですな」



やる気に満ち溢れるアポロ。

対照的に俺のモチベーションは非常に低い。



……だって正直なところ、俺としてはリスクだけを負う選択なんだもの。



しかも、ご褒美もないときた。

俺の保身を第一に考えるなら、国王ゼウスとともに朝までどこかに隠れておく方がよほどいいのだ。

だけど、それだと領民の犠牲を強いられたトロイア伯爵からの信頼を失ってしまいかねない。

それはあまりよろしくないだろう。



──せめてこれが骨折り損のくたびれ儲けにならないように、何か、面白いイベントでも起こればいいのだが。



チラリ。

期待を込めて、アポロを背負うゾンビ・ソルジャーを見る。

例えばそう、アポロ殿下と共に王国軍本部への殴り込みをするにあたり、ゾンビ・ソルジャーに新たな変化がないか、など。



「頼んだぞ、ゾンビ・ソルジャー。しっかりと殿下をお守りするのだぞ」


「ンヴァ」


「うっかり生き返っても一向に構わん。ただし、そのプロセスはきちんと覚えておくように」


「ヴァ……」


「ではそういうことで、ひとつよろしく」



戸惑ったような反応を見せるソルジャーの肩を叩くと、俺はジラドに抱えてもらい、早速王国軍本部へと向けての移動を開始した。






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いつもお読みいただきありがとうございます!

次のエピソードは「第205話 【Side:王国】シュワイゼンの決心~半ばヤケ~」です。


次回は9/12(金)更新予定です。

よろしくお願いいたします!

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