第41話 恐れるなかれ

「さあゆけっ、ゾンビたちよ! しっかりとその地を踏み締めて、地上部隊の進む道を拓くのだっ!」



俺の掛け声にジャームの作ったそのゾンビたちはふらつきながらも全力で足を動かし走っていく。ここはエルデンの見張り台からはまだ死角となっている位置……ゆえに、王国兵たちの反応はまだない。そして、ゾンビの先頭集団が北門までおよそ五百メートルのところまで迫ったその時だ。



──ズゥゥゥンッ! 低い地鳴りのような音が響く。それと共に一番前を走っていたゾンビの体が空高く吹き飛ばされていた。



「やはり仕込まれていたか……王国の新型兵器 " 対人地雷 " 」



それは地面の中に潜む兵器。そして人々を殺すことを目的とせず、人々の手足を欠損させることを目的とした、人呼んで悪魔の兵器。



……いや? しかし悪魔というフレーズを使うのはいかがなものか。深刻な悪魔たちへの風評被害ではなかろうか。少なくとも俺が魔国で出会った悪魔種たちはみな誠実であったと思う(その全てが善良かどうかは測りきれないが)。



ゆえにそうだな、俺はコレを害悪の兵器と呼ぶことにしよう。



「さて、ともかく。害悪ならば、踏み潰さなければなるまいよっ!」



ゾンビたちの進軍は止まらない。地雷があろうがなかろうが関係なく、規則正しく横十列に広がってエルデン北門へと走り続ける。なにせ、ゾンビたちに恐れという感情はないのだから。

地雷を踏んで足を失ったゾンビたちは、それでもなお手で這って進み、別の地雷に引っかかり吹き飛んでいく。立て続けに起爆の音が響き渡り、煙幕のように土煙が上がった。



……俺の主な作戦は、そう。五百体のゾンビを犠牲にしての地雷除去である。



地雷を持っている王国のことだ。厳重な見張りを立てている主要街道以外からの魔国軍の進軍を防ぐために、そこ以外の地面に大量に敷設してるに違いないとは思っていた。

そして地雷の知識がない魔国陣営がそこから奇襲を仕掛けてきたときは、むざむざとその罠に引っかかり総崩れになるか、あるいは撤退に追いやられると踏んでいるだろうということも。



「それがまさか、あえて地雷のある場所から、地雷があると分かって突破してくるとは思わんだろう……?」



無論、エルデンの周辺に仕掛けられている地雷の数は五百よりも多いだろう。その数は数千か、あるいは万にも迫るか。しかし、



「地上部隊が進軍する道幅の地雷さえ起爆させてしまえば問題はない!」



ゾンビたちがその屍の肉体で、瞬く間に土煙の道を作り上げていく。その数多くが地雷の犠牲になっていたが、しかし。とうとう北門まで走り抜けるゾンビたちが出てきたようだ。王国兵たちもさすがにこの爆音の連続にこちらの進軍に気が付いたようだが……もう遅い。



「ククク……素晴らしい仕事ぶりだったぞ、ゾンビたちよ」



俺はエビルワーグたち地上部隊を連れて、運悪くも五つほどの地雷に度重なり引っかかり、俺たちの近くへと吹っ飛び転がってきたゾンビへと近づくと、



──ダークヒール。



一瞬で、四肢欠損を含めたゾンビの全ての傷を治してみせる。そのゾンビは再び北門めがけ、土煙の上がる中を走っていった。エビルワーグや、その部隊の隊員たちがどよめいた。いい反応だ。



「さあ、地上部隊のみなみなさま! 恐れるなかれ!」



俺は声を大にして、そして北門を指差した。



「あそこへ至る道の地雷のほとんどは消え去った! 仮にまだ残っていた地雷があり、それを踏んだとて、そのときはこの私が治してくれようっ!」



それを聞いたエビルワーグは不敵に頬を吊り上げて地上部隊を振り返ると、



「聞いたなっ、野郎どもっ! 俺たちの後ろには天才ダークヒーラー殿がついている! 地獄への道はまだ遠いと知れっ!!!」


「「「おうっ!」」」



その掛け声に、部隊は短く野太い声で返す。

気合いは充分のようだ。



「さあっ、これよりわれらがエルデンを取り戻すための行動を開始するっ! 総員、走れぇぇぇ──っ!!!」



地上部隊が俺の横を抜けて、土煙の中へと突入していく。

幸いなことに起爆漏れの地雷はなかったようで、その道のりから爆音が聞こえてくることはない。



……さて、地雷除去と地上部隊のケアも終了。これにて俺の作戦は完了だ。



よかったよかった。さすがにさっき実演してみせたダークヒールはハッタリが八割だったから。

誰でも彼でもゾンビほど早く回復してあげられるわけではないのだ。シェスのようなゾンビ、あるいはアギトのような鬼人種など、存分にダークヒールし慣れている種族ならまだしも、多くの種族が混在している魔国軍の回復はさすがに骨である。



「さて……仕事も終わったし、帰るか」



民間人にこれ以上出しゃばられても、アギトたちだって迷惑だろうし。

北門からは変わらず爆炎と、あとそれに混じって赤い花火のようなものが打ち上がっている。



「……フム。あれがいったい何を意味するものかは、最後までわからなかったな」



まあ、俺が気にしたところでしかたないのだろうが。

あとはきっとアギトたち魔国軍が上手くやってくれるはずだ。



……と、まあ。この時の俺はそう思っていたのだよな。



その数分後、




「──キウイ・アラヤァァァッ!!!」




そう名前を叫ばれて、白い司祭服を身にまとった見知らぬ女に追いかけ回されることになろうとは、きっと(いるのだとすれば)神さえも想像できないことだったに違いない。






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ここまでお読みいただきありがとうございます!


本作、【書籍化&コミカライズ】の企画が進行し始めました!

これからも連載、いっそうがんばります!


次のエピソードは「第42話 よし、戦場に行こう」です。

明日もよろしくお願いします!

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