名前が決めようがないなにか
脈絡ブレイカー
第1話 少年は見てはいけないものを見てしまった……?
「くっ、このぉ!」
男は着ているスーツの懐からピストルを取り出した。先端には円筒……いわゆるサイレンサーが付いている。非銃国家の、しかも現代の日本という国で一般的な人間が持つものではないそれを、男は自らが対峙している者へ向け、狙いを定める。
――が、いない。視界のどこにも。上下左右に目を動かしても、その姿がない。
(ど、どこへ……!)
男が不自然な出来事に油断したその刹那。
ザッ、ぐちゅ。
彼の背中に激痛が走り、その痛みに意識が飛びかける。だが、この男は訓練を終えたベテランだ。すぐさま銃を持たない空いた手にベルトから隠しナイフを取り出し、自身の銃を持つほうの腕を、切りつけた。
「ッ、ぐ……ぁ゙ぁ゙」
背中の痛みを塗り替えるほどでは無いにしろ、この行為のおかげで男は意識を取り戻す。すぐさまナイフを逆手に構え、振り向きざまに振るった。そしてその腕から血飛沫が飛ぶ。言葉にならない悲鳴を上げ、男がナイフを落とす。反射的にピストルを向ける。だがその手を包丁が貫通する。そのまま標的は男の顎を蹴り上げ、その足を振り下ろし右肩を砕く。
「ッ、ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ァァァァ!」
男は絶叫を上げる。だが、その声は誰の耳にも入らない。この場にいる、二人を除いて。
「……ひ、
少年の声が、教室に響く。
男を気絶させ、その場に倒れ込んだのを見届けた
純白を半ば真紅に染まったセーラー服が宙を舞う。黒いショートカットが揺れる。そして、教室の窓から入る常夜灯の光を纏った瑠璃色の瞳が、彼の姿を認める。
「……
感情がまるで乗っていないような、冷たい言葉が少年の耳に入る。
数分、二人は、互いに動かず、見つめ合う。
彼女の包丁が、一滴、また一滴と真紅の雫を床に落としていった。
……後に、これは少年の何かを大きく塗り替えることになる。そんな、お話。
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