謎のお金持ちの人

@kawakawatoshitoshi

第1話

 そのお金持ちの人のクルマに乗って、温泉に行くのは何度目なんだろう。

 何故、そのお金持ちの人と知り合ったのかなんてつまらない話は省略する。


 その日、僕はまたお金持ちの人のクルマの助手席に乗って出かけた。

 たまたまその頃僕が聴いていて、お金持ちの人と趣味がシンクロしたスザンナホフスがカーステレオから流れている。


 海沿いの道を随分と走って、そのホテルに着いた。

 途中で立ち寄ろうとしていた、珍しい食べ物屋は全て閉まっていたけど。


 正直、僕なんかが1人でどんだけ働いても泊まれないようなホテルだった。


 夜、露天風呂に入る。

 海が近くにあり、空中にぽっかりと浮かんだ月がとても幻想的だ。


 露天風呂を出て、部屋に戻る。

 お金持ちの人はお酒を飲まず、サイダーばかり飲んだ。


 そして、僕にこう打ち明けた。


「お前に興味を持ったのは、俺が子供の頃、自殺した同級生と同じ名前だったからなんだ。

 そして、俺はその同級生から自殺する前日、手紙を貰っていた。その手紙には、自殺する日に君を待っているからね、と書いてあったんだ。俺は、手紙の内容も見ず、他の友達と遊んでたんだ。...俺は人殺しだ。

 それがお前に興味をもった理由だよ」と。


 そのとき僕は、スタンドライトの光に照らされた仄暗い部屋の中に、何かがいる事を感じた。

 実際に幽霊が見えたとかひとだまが見えた訳じゃない。

 ただ、って事を感じたのだ。



そういったエピソードが僕と謎のお金持ちの人との思い出である。









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