アホの子は異世界行ってもアホでした~天然系中二病女子とちょっぴり脳筋優等生、ゴリ押しで大賢者になる~

あじゃぴー

1 仙人にドン引き

 ――成瀬なるせアオイは、確かに死んだはずだった。


1「仙人にドン引き」


 気が付くとアオイは、真っ白な空間に寝っ転がっていた。


「ここ、どこ……?」

 

 唖然とした声を上げつつ、記憶を呼び起こす。


(えっと、家庭科の授業でガスコンロに点火したら、コンロが大爆発した――のかな? それで爆発に巻き込まれて、衝撃で気を失ったのかな……)

(まあとにかく、情報を集めないと)


 そう思いアオイはあたりを見回す。

 しかし周りにはなにもなく、すぐそばにアオイと同い年ぐらいの女の子があおむけに倒れているだけだった。


(スミカちゃん!)

 

 その子はアオイのクラスメート、いずみスミカだった。

 スミカはどのクラスにも一人はいる「典型的な優等生」である。

 そして、アオイの問題行動に困り果てた教師陣が「アオイのブレーキ役」に任命した人物でもある。

 だからスミカとアオイはいつも同じクラス、同じグループ、すぐそばの席に入るようになってしまった。

 正直言って、アオイはスミカが嫌いだった。スミカは時間、勉強、礼儀など、ありとあらゆることにうるさいのだ。

 しかも、スミカは「アオイのブレーキ役」としての職務を放棄したことなど一度もない。

 アオイにとって絶対に避けたい相手であったが、「正真正銘のアホの子」な彼女がその方法を思い付くことはなかった。

 でも、今は「嫌いだから起こさない」なんて悠長なことはいってられない。情報収集が最優先事項である。

 アオイはスミカの脇腹をつかみ、おもいっきり揺さぶった。


「スミカちゃん、大丈夫!?」


 スミカはとろんとした顔で目を開いた。


「な、なに……?」それから周りを見回して叫んだ。

「ここ、どこなのーー!?」

「……アオイも知らないです」アオイは正直に言った。

「ガスコンロの爆発で気を失って、目が覚めたらここにいたです……」

「アオイちゃん、ガスコンロの爆発って――粉塵爆発が起きたのよ、きっと」

「フンジンバクハツ?」

「粉が空気中に舞った状態で火をつけると、その粉に火が燃え移って、大爆発するの――アオイちゃん、ホットケーキミックスこぼしてたわね?」

「――はい」アオイは正直に答えた。

「多分それが原因よ。換気が十分じゃなかったみたい」

「でも……じゃあ、ここはどこです?」


 アオイは入院したことはあまりないが、なんとなくここが病院ではないとは察していた。病院なら看護師さんとか、お医者さんがいるはずだ。


「私も知らないわ……でも、ぱっと見病院じゃなさそうね」

「病院じゃないなら、ここはどこですか!?」

「わからないわ……でも、もし一つ可能性を挙げるとしたら……私たちは、死んだのよ」

「え? そんな、私……死んだのです?」

「そうよ。そしてここはおそらく……死後の世界、とか?」

「そんな……母上にも父上にも、もう会えないのです?」

「ま、そういうことになるわね。私はあの世なんて一切信じていなかったけど、こんなのを見せられちゃったらね――」

「――よくお気づきのようじゃ」


  ▽ ▼ ▽


 後ろからしわがれた声がして、スミカはっと振り向いた。

 そこにはつるっぴかな禿げ頭に、白いあごひげをぼうぼうと伸ばした背の低い老人がいた。

 一言で表せば「仙人」といえるだろうか、そんな見た目をしている。


「「……え?」」唖然とした二人の声がハモる。

「よくお気づきのようじゃ、といったのじゃよ。察した通り、そなたらは死んだのじゃ」

「えっ!?」

「えっ……」


 二人の声がまたしてもハモった――スミカは現実を受け入れられないといった声で、アオイは興奮まじりの声で。


「戸惑っているね? 実は、わしゃしばらく見ていたんだ――そなたらのことをね」

「え? ……あんた、ストーカーなの? 通報するよ?」


 スミカにとって、ここが死後の世界だというのはあくまで仮説だった。やはりスミカは現実を受け入れられなかった。

 そもそもスミカは自他ともに認める現実主義者である。

 小さい頃読み聞かされた絵本も右から左、最近クラス中で話題のマンガを買ったことすらなかった。


 閑話休題。

 スミカの発言が逆鱗げきりんに触れたのか、仙人は顔を真っ赤にして叫んだ。


「……ストーカーじゃないわ! そもそもつきまとってないのじゃ! ただ天界から覗いてただけじゃ!」

「それはもっと悪質なのでは?」

「そ、それは――まあとにかく、本題に入るのじゃ。今からそなたらには――転生してもらうのじゃ」

「え……」


 唖然とするスミカを横目に、アオイが仙人に飛びかかった。

 

「――本当なのです!?」


 スミカはアオイが目をキラキラ輝かせて仙人に詰め寄るのを、ドン引きしながら眺めることしかできなかった。


  ▽ ▼ ▽


「――本当なのです!?」

「アオイ、異世界に行けるのです!?」

「どんな異世界なのです!?」


 今スミカの眼の前では、アオイが仙人を質問攻めにしている。

 スミカはもうドン引きだ。

 アオイのことはいわゆる「脳内お花畑人間」だと思って対処していたが、まさかここまでだったとは。


(……というか、この仙人めちゃくちゃちびね――)


「――スミカちゃん!」


 アオイが大声で呼ぶ。


「――異世界いけるんだって! 仙人さんが言ってた! 魔法とかもあるんだって! スキルもらえるんだって!」


 興奮した口調でアオイが言うのを、スミカはただ黙って見ていた――というか、脳が今の状況に追いつけていない。

 なんで転生しなければならないのか、どんな異世界なのか、私の近視はどうなるのか――スミカの脳内では質問の波が押し寄せていた。


(――まずはこの仙人ヘンタイに質問しなきゃね……)


 スミカは脳内で質問リストを作り終えると、仙人に突撃した。


「――質問があります」

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