第23.5話 幕間 中学生になった頃のお話②


「おはよ」

「――!?」


 その日、珍しく一緒に登校しなかった俺とノノ。


「……」


 ぷいっとそっぽを向いてどこかに行ってしまうノノ。

 その顔は……目の周りと鼻の下の赤みを化粧で誤魔化しまくっていた。


「何、喧嘩でもしたの?」


 隣の席の館山未来がニヤニヤしながら声をかけてくる。


「うっせ!」

「何よ、心配してあげてるんじゃん!」


 嘘つけ! 絶対面白がってるだけだろ!

 しかし……どうしたもんかねぇ……。


「ふふ、また振られちゃったね」


 そこに声をかけてきたのは……昨日出会った男、織部勇人。


「……別に――」

「は、ははは初めまして! 館山未来です! 趣味は……趣味は何だろ?」


 何だこいついきなり……顔を赤らめやがって。

 確かに織部は俺も照れちゃうほどイケメンだけども。


 ……え? そういうこと?


「? 初めまして、僕は織部勇人だよ! おもしろい子だね!」

「はははは、はひぃ……趣味は……趣味は、あなたですぅ……」


 最後の呟きは恐らく聞こえていないだろう。

 聞こえていたらお前の恋はここで終わりだぞ?


「ところで零士くん、追わなくていいのかい?」

「んー、あまり強引なのも良くないかなって……」


 ここは学校だし、周りの目もある。

 変な噂を立てられても迷惑だろう。


「けど……泣いてたよ? 一ノ瀬さん」

「――っ!?」




「な、何よあいつ急に――」


 そんな館山の声が聞こえた気がしたが、それどころじゃない!


 ◇


「ノノ!」

「――!」


 ノノは少し先の廊下にいた。

 両手で精一杯隠しているが……その隙間から信じられないくらい涙を流している。


「だ、大丈夫……?」

「へ、平気……」


 近くの女子が気を使って声をかけるが、顔を上げずに返事をする。


 どうする……このままじゃ変な噂が……。


「――っ!」

「きゃっ!」


 仕方なしに、ノノを抱き上げて走り出す!

 誰にも見られない場所へ!


「やめっ、離して……」

「嫌だっ! 離すもんか!」


 ノノが泣きながら、拒絶の言葉を吐く。

 しかし、絶対に離さない!


「迷惑! もう一緒にいたくない!」

「うるさい! そんなの知るか!」


 とても軽い彼女を抱えて走る!

 目指すは屋上! きっと誰もいないから!


「嫌だ、嫌だ嫌だ!」

「……っ」


 本当にそう思っているのなら、すぐにでも離すし、もう2度と近づかない。


「放してよぉっ! もう……零士とは……バイバイなのぉ……」


 だけど、そうじゃない。

 だって――最初から掴んで離さないのは、ノノも同じじゃないか!


 屋上の扉を開け放つ。




「俺は――! 俺はお前と一生一緒にいたいんだよっ!!!」


 他に気の利いた言葉が言えれば良かったのだが……何も浮かばなかった。

 ただ、それだけが口に出ていた。


「ふぐぅ……わ、私だってぇ……本当は……!」

「なら! 何で!」

「私は……アルビノは……寿命が短いからぁ……だからぁ……」

「……」


 そう言って泣きじゃくるノノ。

 アルビノの人は……寿命が短いってこと……?


「レージが……レージは、他の人と幸せになって! おじいちゃんになるまで、誰かと一緒に幸せになって!」

「ノノ……」


 そうか、そんな……辛い思いを……。


「……ノノ。俺は……それでもお前と一緒にいたいよ」

「……レージ……だめよ……」


 きっと……ノノもたくさん悩んで、そして出した答えなんだろうな。

 それでも、俺は一緒にいたい。

 

「俺は……お前のかわいいところも、実はやさしいところも、ボーっとしてるところも、お出かけに手間暇かかるのも、ものぐさなところも、全部好きなんだよ! 例えおじいちゃんになったときに1人ぼっちでも……お前と過ごした日々を思い出しながら死にたい」


 偽りのない本心。

 俺の気持ちは……小学1年生のあの日から、ずっと同じだから……。


「どうして……わかってくれないの……ばかれーじ……」

「バカでいいよ」

「バカ……ばかぁ……!」


 そうして放課後最終の鐘が鳴るまで……俺たちは抱き合って泣いていた。



 

 ◇



 ――そして現在。


 とても懐かしいことを思い出してしまった。


 結局あの後……一部始終を見ていたユートやミライが後日色々と調べてくれたんだよな。

 アルビノの人の寿命が短いってのはデマだって。


 それを知った俺たちは……いろいろな恥ずかしさしばらく顔を合わせるたびに恥ずかし死していた。

 恋人云々もうやむやに……けど、あれで良かったのかも知れない。


 今日も楽しそうに無表情で異世界を楽しむノノを見て、焦る必要はないと……自分に言い聞かせたのだった。

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