第23.5話 幕間 中学生になった頃のお話①


「無理」

「……ほへぇ?」




 この4月、俺たちは中学生になった。


 周りも何だかカップルが出来てるみたいだし、そろそろ俺とノノも……と思い、先程恋人になって欲しいと告白したのだが。


「……バイバイ」

「ふぇぇ……?」


 結果は見事に玉砕。

 何で、どうして? 絶対にイケると思ってたのにぃ……。


 ◇


「……はぁ」


 河川敷にかかる橋の上で1人黄昏る。

 いつも横にいるノノは当然いない。


 何時間こうしているだろうか……何もする気が起きない……。


「……はぁ」


 何度目かの溜息。

 早く世界滅びねーかなー……。


「……おや?」


 そこで俺は、川の底にきらりと光る何かを見つけた。

 もしかして……何かすごいものかも?


 一緒に遊ばないときはノノは家でアニメばかり見ている。

 そのノノが昔言っていたっけ。


『異世界に行ったら、レージ君と結婚するの!』

「嘘つきぃっ!」


 しまった、1人で大声出してしまった……。

 とにかく、アニメではよく異世界に行くようなものを見ていて……その中には不思議な道具があるとかなんとか……。


「……バカらし」


 そう思いながらも、川の底にある物を良く見てみようと、身を乗り出す。


「やめろおぉぉぉっ!!!」

「ぐべぇっ!?」


 そこで俺は後ろから猛烈なタックルをくらい……へ?


「お、落ちるぅぅ~!?」

「しまった! いや問題ない!」


 あるでしょ!?

 と思う間もなく、俺を殺そうとした男が俺をお姫様抱っこし、空中で体勢を整え、見事に足から着水する。


「がぼっ! 息っ!? うげ――っ」

「じっとして! 僕が岸まで運ぶから!」


 全てが唐突、しかし目の前の男を見ていると……何故だか落ち着く。


「……」

「いいぞ、そのまま……」


 言われるがまま、体の力を抜き男の身を任せたのだった。


 ◇


「……すまなかったね」

「……」


 命の恩人であり、俺を殺そうとした男。

 はて、どこかで見たことがあるような……。


「僕は織部勇人! 隣のクラスだよ! 時任零士くん!」

「……」


 そうか、隣のクラスの奴か。しかし、よく名前を知っているな……。

 そして、なぜこいつが俺を殺そうとしたのだろうか。


「実はね……少し前から見ていたんだけど、辛いことがあっても自殺しちゃダメだよ!」

「……? 死のうとはしていないが?」


 辛いことは……あったけど。


「え? だって何度も溜息を吐いたり……ばからしいと言って川に飛び込もうと――」

「ちげぇよ! 川底にあった光る物を見ようとしただけだよ!」


 我ながら本当にバカらしい! その時思っていたことも含めて!


「……それは……すまない」

「……いいけど」


 無事だったし。

 アクロバティックな経験もできたし。


「……もののついでにさ、何があったのか話してみてよ!」

「……」


 何でこいつなんかに……。


「実はさ……ずっと一緒だった女の子に告白して……振られちゃって……」


 と思ったけど、きっと誰かに聞いて欲しかったんだろう。

 気が付けば、言葉がどんどん口から溢れていた。


「本当にずっと一緒でさ! 俺が行くところにいつもついてきて……あいつが行きたいって言ったところにも行ったし!」

「うんうん」

「あまり外に出られないから、暑い日にはずっと家で一緒に遊んでさ……」

「うんうん」

「あいつだって絶対俺の事……す、好きだと思ってたのに……何でだよぉ……」


 既に顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃ。それでも織部はからかいもせず聞いてくれていた。

 何分も、何十分も……。




「……はぁ。聞いてくれてありがとな。何だか、すっきりしたよ」


 少しだけだけど。何とか家には帰れそうな気がする。

 それに、いい加減寒いし。


「相手の子、一ノ瀬さんだっけ? アルビノの……」

「ん、一ノ瀬ノノだけど……知ってるのか?」


 まぁ、色白で髪も白くて……いつもボーっとしてるから目立つんだろう。

 明日からどう接すればいいのやら。


「そりゃ、ね。君たち有名だよ? いっつも一緒にいる……夫婦みたいだって」

「……そうかい」


 そうだったのか……。

 尚更明日からどうすれば……。


「……アルビノのことは詳しくないのだけれど……彼女、体調が悪いとかないかい?」

「ん? まぁ……そうっちゃそうだけど……」


 実はそこまで病弱なわけではないのだが……鼻血とかが出るとヤバい。

 あまり細かく他人に言うのもアレだしな、そう言うことにしておこう。


「そっか……それなら、彼女の気持ちが少しだけわかるかも」

「ん?」

「実は、僕にも病気の妹がいてね……以前、『もう来ないで』って言われたことがあってね……」


 心底悲しそうな目で遠くを見つめる織部。

 あれか? こいつ、シスコンってやつか?


「ショックだったよ。毎日お見舞いに行ったり、看病したりしてたからね。両親はずっと共働きだったから……」

「……」


 あ、違うわ。そういう顔じゃない。本気で妹を大事にしてるんだ。

 俺には……わかる。


「まぁ、そのことを両親に相談したんだけど……そのことを妹に聞いてくれたんだ。そしたら――」

「……」


 何となく、次の言葉がわかるような気がした。


「『私は病気だから、お兄ちゃんには迷惑かけたくない。お兄ちゃんはお兄ちゃんのやりたいことをして欲しい』、だって」

「……」

「まだ小5の女の子がだよ、信じられるかい? それを聞いたら……尚更放っておけないよね!」

「それは……そうだな。当たり前だ」


 妹さんも……辛いんだろうな。自分のために兄が犠牲になってると言うのが。

 しかし勘違いしてはいけない。きっとこの兄は、やりたくてやっているだけだぞ。いたいから一緒にいるだけだぞ!


「だよね! っと、今は妹の話じゃなかったね――」

「いや……いいよ。それより、もっと妹さんの話、聞かせろよ」


 言いたいことは伝わったから……きっと、ノノもそんなことを考えてるんじゃないのか、って。

 本当にそうかはわからない。もしかしたら、俺の事は好きじゃないのかもしれない。


 けど、また明日から……俺が変わらなければいい。そのはずだ。




「……ははっ! それならぜひ聞いて欲しいことがあるんだ――」


 その日、濡れた体で遅くまで語り合った俺たち。

 当然風邪を引いたのだが……翌日には治っていた。

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