第7話 疼く右手の先に
――翌日。
「効率が悪い」
「?」
昨日の探索を思い返したところ、重大なことに気付いてしまった。
それは、魔物と出会うことが少ない、つまり効率が悪いということ!
「昨日1日かけて、見つけた魔物は10匹程。その内テイムしたのは2匹。もう少し効率を上げたいのだ!」
「そう……」
あくまでつなぎの段階なのだから、ささっと済ませたいのである!
「何か手はないものか……」
「私は今のままでいいよ」
何やらもじもじしながらノノさんが言うが……。
何でや、昨日の探索なんて俺らからしたら散歩みたいなもんじゃないか。
金のないカップルのデートじゃあるまいし……デート?
「……」
「……」
デート?
「……」
「……」
頭沸いてんのか、俺。
「よ、よしっ、今日も行こうか」
「うん」
◇
「……いややっぱ効率悪い」
「むぅ」
3匹目のゴブリンを爆散させるノノさんを眺めながら、どうしたものかと考えるが……。
「そうだ! 出て来いコン!」
「こーん!」
昨日従魔にしたコンを呼び出す。
こいつの鼻なら魔物を見つけられるんじゃないかって!
「コンよ、俺らは魔物を探している。匂いとかで探せないか?」
「こん……?」
だめだ、きょとんとしてる。
『封魔石』に納めた魔物とは意思疎通ができるのだが、やはり幼体だからなのか伝わりにくいみたいだ。
「魔物、探す、お前が!」
「……こん?」
「生き物、探す!」
「……こん!」
おぉ、何とかわかったか?
元気に鳴いたコンがよたよたと歩き出す。足を引きずりながら……。
「足、治らないの?」
「んー、怪我とかじゃなくて生まれつきとかだと治らないみたいだ」
そんな気はしていたから、最初はテイムする気なかったんだけどね。
頑張って歩いているが、めちゃくちゃ遅い。
「仕方ない、スララも出て来い」
「ぴぃーっ!」
「スララよ、コンを運んでくれるか?」
「ぴぃっ!」
おぉ、スララの方はすんなり伝わったぞ!
ところでこいつの脳味噌どこ?
「ぴっ!」
「きゃんっ!?」
いきなり担がれたコンがおっかなびっくりな鳴き声を上げる。
しかし俺の従魔仲間だとわかったようでされるがままとなった。
「こんこん!」
「ぴぃぴぃ!」
2匹何やら会話をしているが、何となく楽しそうだ。
「ふふ、可愛いね」
「そうね……」
この可愛らしい姿を見せるだけでも金が取れそうな気がする。
それはいいんだけども……。
「遅っ!」
結局、先程のコンよりも遅いスララだった。
◇
「んー、魔物いないなぁ。本当にこっちにいるのか?」
コンを頭に乗せ、時折小さい手が示す方向へと進んで行く。
体に纏わりついているスララが気持ちいい。
「こん!」
自信満々に答えるコン。
それから小一時間たった頃――。
「こんこん!」
「ここは……?」
コンが飛び降りた場所は……木々の隙間を縫って日差しが降り注ぐ、そして一面に広がる花畑だった。
「こーん! こーん!」
「ぴぃぴぃっ!」
楽しそうにくるくる回るコンとスララ。
よたよたずりずりとしばらく歩き回り……。
「すぴっ……」
「ぴぃ……」
やがて疲れたのか、日差しが気持ち良かったからか、2匹寄り添って眠ってしまった。
「……」
俺は……まさか、コンのお気に入りの場所に案内されていたのか……?
「ふふ、可愛いね」
「そうね……」
見世物にすれば金は取れそう。
だけど、もっと金になりそうな魔物を探してるんだよ。
「お花畑も素敵ね」
「そうね……」
ノノさんも座り込んで、花を摘んでいる。
「いい場所ね。それに……」
「そうね……」
「まるで……デ、デデ……」
大王?
いかんぞ、環境破壊は気持ちいいかもしれんが!
「デデデデ、デデデデ……」
デーデーン。
いかんぞ、犯人が崖から落ちて死んでしまうぞ!
「……」
何やらもじもじしているノノさん……と、その手に持っているお花。
もじもじする、お花ぁ?
「お、おい! それって……!」
「ち、違っ、別に――って何これぇ……」
ようやくその手に持つ花がもじもじうねうねしていることに気が付いたノノさん。
「そいつだよ! そういうやつ探してたの!」
「……」
気付かれたと察したか、花から甘い香りが漂ってくる。
これぞアロマな香り!
良く見ると根っこの部分に丸い顔っぽいのが付いている。
ちょっと可愛い!
素晴らしいよお花くん! 君をぜひ我が陣営に加えたい!
「食らえ! 『アンリミテッド・フィンガー・ワークス』!」
対して強そうでもないので、何発かデコピンを食らわせて弱らせる。中指攣りそう。
そして『封魔石』で捕獲完了!
「やったー! よくわからんお花を捕まえたぞー! 名前は――」
「おじゃまむし」
「……ん?」
「おじゃまむし」
ちょいちょい発言が古いよノノさん……俺もか!
八つ当たりされて可愛そうなお花ちゃん。
「はいはい、『おじゃまむし』ね」
「(ぷいっ)」
ぷいっとな。
やれやれしょうがないな、モテる男はつらいぜ。何もしてなくてもモテちゃって、やれやれ。
聞こえない振りするのも大変だぜ。
「さ、さて! そろそろ行こうか!」
「……」
嘘です、ほんとはこっぱずかしくてどうしたらいいかわからないだけです……。
俺、まだ17歳。相手、長年連れ添った幼馴染。
◇
「今日はなかなかの成果だったな! そろそろ帰るか!」
その後、運よく近くにいた数匹のパラリジパピヨンとお花をテイムすることができた。
魔力量的にも割と限界が近いのを感じる。
「……」
「……」
ノノさんの不機嫌さも限界が近そうだ。
「あ、あー! 何か……何かなぁ! 右手が……何かなぁーっ!」
何かとは、何かである。
「……?」
「み、右手が……疼いちゃって、て、てて……手が……」
手は疼いていない、疼いているのは胸である。
今すぐ掻き毟りたいいぃぃっ!
「……手が、何だか……寂しいなぁ……」
限界だった……これが俺の……。
何とでも呼ぶがいいさ俺には……俺はヘタレだ……。
「……ふふ、意気地なし」
「……」
機嫌を取り戻したノノさんと、手を繋ぎながら町へと戻るのだった。
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