演じても他者

私は救われる側を演じなければならない。

救う者と救われる者がはっきりしている物語は少なくない。そして、なりきらないといけないのは救われる者である。

だが、私自身は大きな問題を抱えている訳ではない。

大変な思いをしている彼女に本当の意味で共感することは出来ないし、どこまで感情に寄り添ったところで、同情にしかならない。今生きる私のまま舞台に立ったとすれば、きっと救う側を演じるであろう。なぜなら、演じる役と私は別の人間だからだ。

物語の中で彼女が救われても、私が救われる訳ではない。あくまで救われるのは彼女で、私は彼女が救われるために彼女をつくらないといけない。彼女になる為に彼女をよく知らないといけない。彼女が何を求めるか、彼女の生き方全てを、私はたった20数ページの台本の中で想像し、実際の出来事として確立させなければならない。それが難しい。だから面白い。

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