異世界でもオノマトペは伝わります。

モモニコ

第1話 おっさんのはずのオレ

気づいたら綺麗な池のほとりにいた。

水面はキラキラしているし縁に青々とした短いくさと小花が見える。

池を囲む木々も大きく葉を揺らしそこから差し込む光が美しい。

風で揺れる葉の音が聴こえるだけの静な場所だった。


ここどこだ?

背中にはモフっとした感触

振り返ってみたらコロリンと転がったので手をついて身体を起こそうとして気付いた。


むちむち


手首に輪ゴムつけたかなってくらいムチムチ


オレ普通のおっさんだったはずなのに?


昔は40代で初老と言われていたらしいが今は60代からか。

その間の微妙な歳。

金持ちでも貧困でもない家庭に生まれ長男。しかし上に二人姉が居る末っ子。

姉のいる末っ子は女性に夢を見ない。

姉に負けて育った幼少期で反抗する気力はなくなり、思春期には姉二人と話せば幻想も抱かなかった。


結婚もせず独身を貫いたのは1人が一番ラクだったから。

人に気を使わず自分の時間が邪魔される事なく好きな時間を過ごす空間が快適だったのだ。


上の姉は頭がよく優等生だったし自立が早かった。

面倒見の良さから変な男と付き合っていることもあって心配はしたがいつの間にか色々振り切って仕事が楽しくて仕方ないような人だった。

共同経営だったが小さな会社を持っていた。

自分にない部分が羨ましくもあり、尊敬もしていた。


2番目は俺と双子の姉。趣味に生きた人いわゆるオタクという生き物で若い時は毎月好きなアーティストのライブにどこかしらに遠征していた。

歳を重ねて体力がなくなってくるとアニメや漫画に推しを作るようになり推しのぬいぐるみすら自分で作っていた。

腐女子でもあったが「BLはファンタジーと同じ。私は現実には持ち込まないから安心して」と言われ意味がわからなかった。


姉妹弟きょうだい仲は良いがそれほど干渉もなく、末っ子でこき使われた記憶だが良い家族だった。

姉2人がハッキリした強気な性格だったせいか父母は穏やかでどっちかというとボケボケしたのんびり屋だったと思う。



うん。家族のこと覚えてる。しかもオレおっさん!

でも他のことはよく思い出せない。

死んだ?記憶あるまま生まれ変わったのか?


とりあえず身体を起こすとそこそこ大きな虎。動物園で観たホワイトタイガーよりデカい。


『目が覚めた?』


今のこのホワイトタイガーが喋ってます?


「‥‥‥ぁぁっい」

声が出ない。

『まだ発声難しいでしょう。身体に馴染めば少しずつ話せるようになるから』


「???う?」

首をかしげるしかできない。


『了解や肯定は首を縦に、拒否や否定は首を横に振って教えてね。』


「ん」

首を縦にふる。

そのまま下を見ればむちむちの手に貫頭衣を着たポッコリお腹と足もむちむちで短い?

オレ赤児あかごボディ⁉︎


『あの方とは普通に話し合って納得した上でのことだったはずだけど

その身体に入って記憶が混乱して曖昧になってるのかしら?

馴染んでいくにつれて少しづつ思い出すでしょう』


「ほえ?」

首をかしげるしかできない。


『ふふっ混乱してるのね。

私は聖獣と呼ばれている者。ここはあなたのいた世界ではない世界なの。

あなたはこの世界を造った方にお願いされてここにきたのよ。

記憶は少しずつ思い出すはず。

この世界で死なないように新しい身体に入って馴染ませ中なので私が預かったの』


え?呼ばれた?

あの流行っていうか色々出し尽くした感まである異世界転生モノですか!

ってことは王道のトラックに轢かれて死んだパターン?覚えがない。

いや記憶が少ないんだな。


『その身体と力に慣れたらここから他の土地に行きましょう。

人の暮らしやこの世界に色々触れるようにしてほしいと言われているの。

喉乾いてないかしら?とりあえず水分でも摂りなさいな』


そういわれると喉が渇いてる気がする。

オレは縦に首を振る。


『飲み放題よ』


そういって犬は俺の服の首元を咥えて目の前の池にドボンッと落としたのだった。

雑!!水分だけどそうじゃない!

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