ねこはねこ。わたしはわたし。

まる。

第1話 気づきたくなくても、気づいてしまうから。

「音葉さん、ちょっといい?」30代後半おそらく独身の飯野さんに声をかけられ、今日も元気に

「はい!」と返事をする私は25歳音葉ゆい。今年から小学校の音楽の先生をしている。

元気に返事を返そうと思っているわけではないのに、勝手に愛想よくいつもより少し高い声で返事をしてしまう。先輩に呼ばれるということは、めんどくさいことを頼まれるに違いない。隣の会議室に移動する30秒の間に、あれかこれかと考える。27℃設定のエアコンの風は生ぬるい。

「実は急遽2日後に出張に行ってほしくて。博多に1泊2日。」(ほう。なんのために私が?1人で?異動してきたばかりの私が?)心の声はなんでなんで状態だ。空返事ではい…と答えると飯野さんが続けて「この話を山家さんに伝えてくれないかな?音葉さんならいい感じに。」(はい?!なぜ私が仲介をしないといけないの??)160㎝くらいの飯野さんが手を合わせ申し訳なさそうにお願いと頼んでいるドアを1枚挟んだ1番後ろに山家さんの姿が見える。山家さんは今年から異動してきた私より2つ年上の女性の先生でいまいち何を考えているか分からないような人だ。飯野さんの方が年上で教員歴も上なのになぜこんなに年下のペーペーの私が山家さんに頼み事を伝えるのか。まぁでもこんなに頼まれたら断れないよな。だって私は〝人の顔色ばかり気にしてるから〟いや正しく言うと〝気づいてしまうから〟嫌なくらいに。その勘はやけに鋭く正当性が高いため、無視できずにいる。「わっかりました…!今日中に伝えてみます!」と従順な人を装う私に対して助かった!と言わんばかりの表情で元にいた部屋に戻る飯野さんの身体の周りに四分音符や八分音符が見えるほどご機嫌だ。私の目線の真っ直ぐには真剣にパソコンと教科書と指導要領を照らし合わせている山家さんがいる。山家さんのペンケースやポールペンはネコばかりでどう見てもネコ好きだ。本人に確認はしたことないけれど確認するまでもない。

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