過ぎゆく、普通の日々の物語・八編(2024年文披31題)

明日月なを

第1話 「鳥になる」お題・飛ぶ

 僕は鳥になっていた。


 ──これは夢だ。そんなのは、わかっている。


 けれども日々、仕事や家庭などの雑事に追われている身としては、悪くない夢だ。

 こうして何事にもしばられず、大空を自由に飛び回れるというのは。


 滑空かっくう飛行やら、ジグザグ飛行、のんびり優雅ゆうがに風に身を任す、などと鳥ならではの楽しみを満喫まんきつした僕は、電柱に止まり、疲れをいやしていた。


 と、そこに。


「う、うわああぁっ‼」


 ……目が覚めた。

 たかに捕らえられ、われる寸前に。


 ──やれやれ。夢で良かった。


「何なの、朝っぱらから⁉ せっかくお互い休日なんだから、今日はゆっくりしようって言ってたじゃない! 大体、あなたときたら──」


 いつもの、妻のお小言こごとが始まった。

 全く。鳥でも人間の身でも、楽しいだけの人生というものは、ないらしい。

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