詩潟志々乃は忙しい

『マジで私たちキャラ濃すぎ』

 脂ぎったテーブルを拭いてると、近くの客の会話が耳に届く。

『だよね。つか私ら偉すぎだよね』

『そーそ。学校ちゃんと行って。バイトやってんだから。もっと褒められてもいいんじゃない?』

『それにさwくっそ忙しいのにバンドもしてんだよ?ウチらw』

『それはそうw』

『親もウザいしさ。彼氏も束縛激しいしw』

『それそれ』

『てか私らの卓だけマジでカオスなんだけどw』

『わっかるw他の客みんな肉食べてるのにウチら騒ぎすぎw』

『ちょっと待ってー。ストーリー上げるから』

『ほらみんなー、可愛い顔か変顔してー』

『どう撮れてる?』

『待って待って私のギターケース入ってないからwちゃんと写してw』

『クソウケんだけどw』


 脈絡なく展開されるトーク。このギャル達はちゃんと話を理解できてるのか?そんな疑問を抱きながら、詩潟志々乃うたがたししのはバイトに励む。

 いつもの私なら、この手の会話はシャットアウトするんだけど、最近の忙しさで疲れが溜まってるせいか、業務に集中できないでいた。


『限界JKって私らのためにある言葉だよねw』


 一人のギャルがそう言った。他の子達も賛同している。

 同年代の彼女達は流行りの韓国風メイクをして、店の中で動画を撮ってはしゃいでる。

 みんな可愛いし、荷物から察してバンドやってそうだったから興味はあったけど、湧き出した苛立ちがそれを押しつぶした。

 彼女たちが悪いわけじゃない。これは私の問題なんだ。

 壁掛け時計に目をやると、退勤時間が過ぎていた。


 タイムカードを切って、さっさと着替える。疲れがどっと押し寄せてきた。当然だ。

 先週まではテスト期間で睡眠不足が続いていたし、バイトも休まず週三でしてたから。

 今月末は文化祭も控えていて、明日はバンドメンバーとスタジオ練習。

 忙しすぎて溜め息が出そうになったけど、ぐっと堪えた。

 だってさ。今めちゃくちゃ楽しいから。

 とにかく人生が辛かった中学のあの頃に比べると、今の私は本当に幸せだ。

 授業についていけてるから勉強は楽しい。

 バイトもいっぱいして自由に使えるお金がある。

 友達はほとんどいないけど、仲間がいる。

 不安なこともあるけれど、私は私が好きだ。

 そう思えるようになったのは、先生のおかげ。

 さっきのギャル達みたいな存在を、認められるようにになったのも先生のおかげなんだ。

 辛かった私に寄り添ってくれて、導いてくれたから。


 『弱いフリするのやめたらいいんだよ』


 先生の言葉を思い出す。

 変な人だったけど、いつかまた会えたら。

 お礼が言いたい。

 違うな。嘘吐いちゃった。

 好きってちゃんと伝えたいな。

 

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