第11話 部室、四人で会議
アキはときどき探偵ごっこをしたがり、俺はそれに付き合っている。これで五度目くらいだろうか。今まであったのはどれもくだらない事件だった。
だが今回は――催眠能力者だ。
普段ならありえないと鼻で笑うところだが、俺に限ってはそうもいかない。だって身近に時間停止能力者がいるんだ。
二人のうちどちらか。
連絡したらどこからかにょきりと姿を現したシオンとカエデ。帰宅部の二人は放課後も何故か学校に残っていたようで、呼んだらすぐに来てくれた。
カエデは膝の上に手を揃えて背筋を伸ばして座っていて、シオンは部室備え付けの器具で淹れられた紅茶を熱そうにすすっている。
「さて、新文芸部員がみんな揃ったことだし、詳しく聞かせてくれよ」
しかしアキは我が義妹と幼馴染を見て固い顔になっていた。今朝パンツを脱がされたことがトラウマになっているのかもしれない。
だが安心してほしい。こいつらはもはやノーパンなんだぜ。そういう意図を込めて頷きを送れば、理解したのかしていないのかアキは頷きを返してきて口を開いた。
「うん。僕に相談してくれたのは女子テニス部でさ」
滔々と語る。
「毎日のようにパンツが盗まれて、みんなで話し合い部室にカメラを置いた。すぐに犯人が見つかったんだけど――部長だったんだ。部員は問い詰めたんだけど、部長に犯行の自覚は無かった。それに部長の下着も盗まれていたし、カメラの設置を言い出したのも部長だった」
アキは懐から取り出したタバコみたいなお菓子を口に咥えた。どうやら興が乗ってきたらしい。
「何かがおかしいぞと思った次の日、今度は副部長が部室でみんなのカバンを漁っているのが発見された。現行犯でね。副部長はうつろな目をしていてビンタでようやく正気を取り戻したらしい。部長も副部長も冗談や悪ふざけで下着泥棒をするような人じゃない」
自称令和のホームズはタバコ風お菓子を指の間に挟んでふかす仕草をする。ハードボイルドを気取っているだろうが、顔が可愛すぎて無理だ。
「さらに、盗撮魔まで現れた。そいつは窓の外からこそこそスマホで撮っていたのだけど、みなで追いかけて引きずり倒した。しかし――部員全員そこからの記憶がないんだ。犯人の顔を確かに見たのに思い出せないらしい」
「記憶がない?」
「不思議だろう。真面目な部長副部長に下着泥棒をさせ、部員全員の記憶を奪う。こんなのは催眠術士にでもなきゃできないんじゃないかっていうのが女子テニス部の意見だ」
「催眠ねえ……」
右に座るカエデは興味深そうにアキの話を聞いていた。
目が合って言う。
「まさか……コウがやったんじゃないでしょうね?」
「やってません。あんまり適当なこと言ってると、
そう言って右ポケットを叩けば、カエデは信じられないといった顔で黙った。俺は世間体なんか気にしない。パンツを被って走り回る変態になれる。そしてカエデはパンツを被られた幼馴染になるのだ。
「……被らないでね」
「コウくんはそんなことしないよ!」
話の流れを読んでいるのか読んでいないのか、シオンが真面目くさって俺を擁護してくれる。
「パンツは好きだけど、誰のでもいいってわけじゃないでしょ?」
「ああ。盗むにしても人は選ぶ」
「盗まないで」
「カエデのを一番に盗む」
「……盗まないで。……うぅん、私ので他の誰かが救われるなら私ので我慢してもらったほうが……」
「八王子さん。君はいったい何を言っているんだ?」
文芸部を制圧した我ら3人のやりとりにアキは少々圧倒されているようだった。
「……コウは犯人じゃない。ひとまずそういうことにしよう」
ひとまずもなにも犯人じゃない。
「それでアキの推理は?」
鼻を膨らませながら自慢げに推理を語るのがアキの十八番なわけだが、しかしアキは難しい顔でガキリとタバコ風お菓子をかじる。
「超能力者相手に推理もなにもないよ。これはミステリーじゃなくて――」
アキはおずおずと機嫌を窺うようにカエデとシオンをちらりと見やった。
「――超能力バトルなんだから」
カエデはいつも通りつんと澄ましていて、シオンはいつも通りニコニコ笑っている。
そう、我々文芸部には時間停止能力者がいるのだ。催眠能力者なんかに負けるつもりはない。
「頼むぜ、2人とも」
「……どういう意味よ。超能力って」
「わたし頑張ります! 任せて!」
2人はやはり知らない振りを突き通しているが、いつまでこれが続くか見ものである。
▼△▼
とはいいつつも、俺とシオンはその後すぐに学校を出た。カエデとアキは二人で調査を行うらしい。
シオンが俺を連れていくのは――彼女の実母の墓だ。今日は命日なのである。
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