第17話 新生活
そして数日が過ぎ……ボクと百合は白姫女学院高等学校の制服を纏い、この学校へとやってきた。
まさかあの冗談みたいなくだりから本当にこんなことになるなんて……いや、そもそもボクが女の子になっちゃったことからもう、冗談にしたって笑えない話なんだけど。
父の運転する車に、姉妹揃って乗せられている時、たまにバックミラーで見える自分の姿を見ては、決定的に変わってしまったものを自覚させられた。
それはきっと二人――お父さんとお母さんも同じだろう。
家族だけの狭い空間……なのに、妙な居心地の悪さ。慣れない感じ。
そういったものを感じつつ、でも、たくさん話した。
違和感が少しでも薄れてくれるように、そして、別れを名残惜しむみたいに、たくさん。
「それじゃあ二人とも、体には気をつけてな」
車から降り、荷台にボクの私物を入れた段ボールを載せていく。といっても趣味の道具は殆ど無い……だって、バスケのボールやゲームや漫画はどれも男の子趣味すぎるから。とはいえ変に女の子趣味なものを揃えるのも嘘っぽくて、結局中身の殆どは着替えだ。これも着慣れているわけじゃないけど……。
白姫女学院は男子禁制。入学式や文化祭など、特別なタイミングを除いて、お父さんがついてくれるのはこの駐車場までだという。
「お父さんこそ、ボクらがいなくなったからってタバコ再開しないようにね」
「う……そうだな、帰ってきた時にタバコ臭いって言われたら嫌だしな」
ボクは名残惜しさを感じつつ、しっかり釘を刺していく。なんでも、ボクが生まれる前にタバコを辞めたことが、父さんにとっては自慢の一つだったとよく聞かされていたから。
「碧、困ったことがあればいつでも言えよ」
「うん、ありがと」
お父さんは男性だからこそ、ボクがまだ戸惑いを吹っ切れていないことに気がついているのかもしれない。
「困ったことがなくても連絡していいのよ。碧も、百合も。というか、毎週一回は必ず電話しなさいっ!」
「分かりました、母様」
お母さんは敷地内に入ってもいいのだけど、そうしたらお父さんが一人残されてしまう。さすがに心細いだろうなぁと、母さんにも見送りはここまでにしてもらった。
トランクに押し込んだ段ボールが三つ、後部座席に置いた段ボールが一つ、合計四つ。当然今日からボクと一緒に寮に入る百合も
荷台に載せれば全然運べる量だ。むしろこのくらいやってみせなきゃ、親元を離れての生活なんてとても無理だろう。
……と、思っていたんだけど、
「すみませーんっ! お待たせしましたー!」
ばいん、ぼいん……と、漫画みたいな効果音が聞こえた、そんな錯覚を覚えた。
駐車場の向こう、校舎のある方から、一人の大人の女性がこちらに手を振りながら走ってきたのだ。そのとても大きな胸の膨らみを、存分に弾ませながら。
ノースリーブのセーター、ジーンズ。その上にはエプロンを着けている。そんな家庭的で……俗っぽいことを言うと、人妻感のある女性。
「天海さん、ですよね。わたし、こういうものです」
女性がボクらを一瞥しつつ、お父さんとお母さんに名刺を差し出した。
「国原さん……あなたが学生の寮の管理人さんなんですね」
「はい。国原奏と申します。受付からお越しになられたと連絡がありましたので。大事なお子さんを預かるんですから、せっかくならご挨拶と、あと荷物を運ばせてもらえたらと」
「わざわざすみません。ありがとうございます」
「娘と……娘達を、どうかよろしくお願いいたします」
二人が深々とお辞儀をする。国原さんと呼ばれたこの人が寮の管理人さんか。はえぇ、すっごい美人。物腰柔らかで、柔和な感じで……いい人そうだ。美人だし。
「何か気になることがありましたら、いつでもこの名刺の番号にご連絡ください。天海碧さん、天海百合さん、これからよろしくね?」
「は、はいっ」
「よろしく願いいたします」
僕らも頭を下げる。
なんかいよいよ寮生活が始まるって感じがして、余計に緊張してきた。
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