第37話 京子先生と出会う運命

「はい、着きましたよ」


「着いたって……ここは」


 京子先生が車で運転して着いた先は、思いも寄らぬ場所であった。




「ここが、英輔さんの通っていた大学ですわよね」


「え、ええ……何で、知ってるんですか?」


「ふふ、当然じゃないですか。英輔さんの事は何でも知っていますわ」


 何と都内にある、俺が通っていた大学のキャンパスに来ていた。


 キャンパスっていっても、都心にあるので、ビルがあるだけで実に味気ない物なんだが……。



「何故、ここに?」


「英輔さんがどんな所で学んでいたか、興味あって。まあ、こういうキャンパスだったのですね。便利で良いじゃないですか」


「はは、まあ色々便利な場所ではありますかね」


 オフィスビルみたいな校舎ばかりで、あまり大学に通っている感じではなかったんだが、遊ぶ場所は近くに結構あったので、楽しくはあったかな。



「ふーん、ここがですか……」


 車を近くの駐車場に停めて、京子先生が興味深そうに観察していく。


 もしかして、こんな中堅レベルの大学通っていた俺を馬鹿にしているとかじゃないだろうな。


 彼女の学力なら、ハッキリ言って、東大以外は全部雑魚になりそうだけど、俺だって俺なりには頑張っていたんですって。


「良い所じゃないですか。あなたの学生時代も見て見たかったです」


「いえ、別に今と大して変わってないですし……京子先生の大学は……」


「いつか案内したいんですけど、ちょっとここからは離れているので、今日は難しいですね。当番ですので、呼び出しがあったら、すぐに行けるようにしないといけないんですよ。くす、ああ、良い所じゃないですか。古本屋街も近くにあるんですね」


 と言って、キャンパスがある所を、京子先生は俺と一緒に見て回る。



 俺の行っていた大学なんて見て回って何が楽しいんだろうな……正直、内心馬鹿にされてないか気が気ではないんだけど、京子先生はそんな事をするような人とは……。


 いや、わかんないか。内心はどう思っていようが、表に出すような人でもないだろうしさ。


「英輔さん、私が同級生で同じ学校だったら、良かったなって思います?」


「え? いやー、どうですかね……」




 京子先生が同級生だったら、どうだったろうな……彼女の学生時代を実際に見たわけではないのだが、この前、京子先生が帰省した時に聞いた話から想定するに、うーん……。


「京子先生の学生時代の写真とかあります? それを見れば、想像が付くと思います」


「ふふ、そうですか。ちょっと待っててくださいね……スマホにあったかしら……」


 スマホを取り出して、過去の写真を京子先生は探していく。



 先生の学生時代って、本当どんなだったか興味あるなあ……医学生ってのが、どんな感じなのか、俺には想像も付かないので、


「ありました。これです。大学四年生の頃のですね」


「どれどれ……おお、これが京子先生の」


 ようやく見つかったのか、京子先生がスマホで学生時代の写真を俺に見せてくれた。




 何というか……今とあんまり変わってない感じ。


 誰かに撮影してもらったのか、何処かの喫茶店の店内で撮影した写真の様だ。


「友達に大学近くのカフェで撮ってもらった写真だったと思います。あんまり、写真って撮らないですよね」


「言われてみると、俺もあんまり自分を撮影したりしないですね」


 俺も自分自身を撮影して、SNSとかに上げたりするって事はあまりやらないし、京子先生もそういうタイプなんだろう。




「どうですか?」


「今と変わらないくらい、お美しいですよ」


「まあ、お上手ですわね。そんな綺麗な女子学生と同じ大学だったら、嬉しいですか?」


「それはもう……」


 嬉しいに決まっていると言いたいが、同級生とかだった場合、京子先生との接し方もまた違ったものになりそうなので、断言は出来ない。




 正直、俺は京子先生がお医者さんで、しかもお姉さんだから好きになった面もあるので、同級生だとそういうアドバンテージがなくなっちゃうのがちょっとなって思っちゃう。


「ふふ、私も同級生だったら良いなって思いますよ。きっと、仲良くなれると思います」


「だと良いですね。でも、俺、元々医学部に入れるような頭もないですし、京子先生と同じ高校、大学ってのはちょっと……」


「そうですか。もし、同級生で付き合っていたら、私と同じ学校に入るのは諦めちゃっていますか?」


「うーん……諦めたくはないですけど、約束は出来ないと言うか……」




 恐らく俺と京子先生では偏差値にかなりの差があるし、勉強に対する姿勢とか、将来の夢とか意識が違い過ぎるので、同級生だったとしたら、多分眼中には……。


 俺も好きになったかどうかはわからないし、京子先生も俺の事を……。


「何て事を今更考えても仕方ありませんね。私達は、お隣同士になった事がきっかけで付き合い始めたのですから、今のままが良いんですよ」


「で、ですよね……」


「ふふ、そうです。ああ、ちょっと学生が増えてきましたね。まだお知り合いが、在学していたりしますか?」


「あ、どうでしょうね……」




 俺はまだ卒業して、二年も経っていないので、サークルの後輩とかまだ在学しているんだよな。


 まあ、もう三年とか四年になると、もう就活で忙しくなるので、大学にはあまり来ないかもな。


「うーん、英輔さんは経済学部でしたか。なぜ、選んだんです?」


「何となく……」


「あら、そうでしたか。将来の夢とかは?」


「い、いえ……何も」




 何となく経済学部か法学部を受験して、何となくそれなりに知名度のあるこの大学を受けたってだけでしてね。


 恥ずかしい限りだよ、全く……京子先生が同じクラスだったら、俺なんて絶対に相手にされてないって。


「そんな物ですわよ。でも、そのおかげで、私達は出会えたのですから、英輔さんがこの大学に進学したのも無駄ではなかったのです。そうですわよね? ここに来たから、私達、結果的に付き合えたんですわよね?」


「まあ、そうですかね」




 第一志望の大学に受かっていたら、また違う人生になっていたのは想像に難くないし、就職先も別だっただろうよ。


 そうなったら、京子先生とは会う事もなく、


「英輔さんは私と出会い結婚する運命だったのです。今までの人生は全て、その為の準備期間だったんですよ。そう、神様が英輔さんをここの大学に引き合わせたんですわ」


「あ、ああ……はは、ですかね」




 そうなると、ちょっと嬉しいような複雑な気分だ。


 出来れば第一志望の大学に受かった上で、京子先生と会いたかったなーと思ったけど、仮に第一志望の大学に受かっても、先生の大学とはかなりの差がありましてね……どっちにしろ、コンプレックス拗らせていたのは変わらんか。


 

「英輔さんの学生時代の事は、何となくわかりました。じゃあ、もう行きましょうか」


「は、はい」


 少し大学の周辺を見て回っただけでわかっちゃうのは凄いと思ったが、実際、特に変わった事はしてないからな……。

 

「私と英輔さんは出会う運命……もし、人生をやり直せたとしても、同じ人生を歩んでくれますわよね? そうすればこうして、結ばれるんですから」


「は、はあ……」

 

 要するに俺に第一志望の大学も落ちて、前に勤めていた会社に入れって事なんだろうか……まあ、それが運命ならしょうがないけど、そうなると、俺は京子先生との差に一生、悩まされる事になっちゃうから、それはそれでなと思ってしまった。

 

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