Ⅰ 2024年1月5日 ―校長室―
「今朝、水島花凛の死は自殺だと教室で話してきました」
「お疲れ様です。野上先生。一部の生徒は、殺されたのではないかと騒いでいたので、心配していました。伝統ある京栄で殺人事件が起こったという根も葉もない噂が立つと、学校に傷をつけかねないからですね。ただでさえ、屋上から生徒が飛び降りるなんて、前代未聞の事件ですから、早く片付いてよかったです」
「ねぇ、ねぇ、はーくん」
「学校でその呼び方は辞めなさい」
「はーくん。優佳って呼んで。言わなきゃ、どうなることか……」
「分かったよ。優佳」
「そうですよ。まさか、水島さんに私たちのこと見られた時はヒヤッとしましたもん。いなくなってせいせいです。有名大学の指定校推薦で口封じしようと思ったのに、言うこと聞かなかったし、どっちにしろ、良かった」
「そろそろ職員会議の時間ではないのか」
「そうですけど、行きたくない。ねぇ、はーくん。今日ご飯行きません?」
「ごめん、今日は妻の誕生日だからな。また今度な」
「奥さんとお子さんとディナーですか。いいですね」
「あぁ」
「お子さんって、確か高校三年生で、私立の女子高校に通っているんですよね」
「あぁ、娘は何歳になっても可愛いものだ」
「へぇー。なおさら娘さんに会ってみたいです」
優佳の嫉妬心の炎が揺らめく。
「それは難しいだろうな」
「分かりました。失礼します。摂津校長」
摂津にウィンクをすると、野上は校長室を後にした。
「あぁ、娘さんもひっくるめて奪おうかな。でも、これで良かった、良かった。いなくなってくれて」
ドアの向こうにいる摂津に向けて、ボソッと呟き、下を向き不敵な笑みを浮かべて歩く。途中生徒が挨拶をしてきたので、人工的な笑みを創り上げ、それに答える。
野上が部屋をあとにすると、深呼吸をし、机の上に置いている一枚の小学校の入学式でピースをしている女の子の写真を手に取り、微笑むと、何かを呟く摂津貴治がいた。
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