Ⅰ 2024年1月5日 真っ赤に燃え上がる理性
悲劇で始まった冬休みが気づいたら終わった。水島が亡くなってから、二週間が経った。水島の席が視界に入る。そこに、水島はいない。それどころか水島の机に座り、談笑をしているクラスメイトを見て腸が煮えくり返る。気づけば、持っていた英単語の本が悲鳴を上げそうな勢いくらいに。
――俺はやり場のない気持ちを心の引き出しにしまい、今は受験勉強に集中するしかなかった。
「知っている人もいると思いますが、去年の12月22日、このクラスの水島花凛さんが屋上から飛び降り自殺を図りました。連絡は以上です」
冬休み明けのホームルームで、水島の死について担任野上によって語られたのはそれだけだった。警察の見解も自殺として最終的にこの事件に終止符を打った。遺書と水島がいじめられていたという話が出てきたのが決定打になった。俺は、あの日、屋上に立つ怪しい人影を見たのに。水島の死をいとも簡単に「自殺」という言葉で片づける大人たちに俺は腹が立っていた。俺は水島の死が自殺だと信じることが出来ない。
あの日、一緒に『パステルライド』のコラボカフェに行く約束をしていたのに。膨らむ怒りを、拳を固く握りしめることで相殺させようとする。
だが、無理だ。ドアを勢いよく開け、野上の後を追う。
「先生」
「どうかしましたか、柴崎くん」
無機質な声が廊下に響く。
「水島の死はなぜ自殺で片づけられたのですか。俺はあの日見たんです。屋上から怪しい人物が見下ろしていたのを」
「それは気のせい、ではないですか。柴崎くん、勉強で疲れていて、幻覚でも見たのではないですか」
その言葉に、マグマが少しずつ湧き上がっていく。
「本当に見たんです」
野上は、溜息をつき、天井を一瞬見上げて、咳ばらいをする。
「あのですね、柴崎くん、水島さんは、いじめを受けており、自殺を図った。現に遺書が出てきているのですから。警察も最終的に自殺と判断したでしょ。そんなことより柴崎くんも受験があるでしょ。そんなことに首をつっこまないで勉強を頑張りなさい。もう終わったことなんだから。柴崎くんは期待されているのだから」
呆れたように野上は、水島の死を語り、そして、そんなことどうでもよくて、勉強しろと諭す。
――遺書って言っても、あれは直筆ではなく、パソコンで打たれたものだった。誰かが、自殺に見せかけて殺したんだ。
「じゃあ」
野上は、再び歩き始めていった。
マグマが噴火したかのように怒りがこみ上げていく。
気づけば、俺は怒りを壁にぶつけていた。本当は、叫びたいのに、声を押し殺していた。
――こんなことしたって水島はもう、戻ってこないのに……。
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