第8話 賄い飯
前回賄い飯のことについて少し書いたのでここで詳しく書きたいと思います。
レストランで働く人たちの生活は厳しいですがそれを助けるものが賄い飯です。無料でプロのシェフの作ったおいしいご飯が食べ放題なのです。
接客スタッフや洗い場担当スタッフはスタッフルームで雑談やまたはスマホをいじりながら椅子に座ってゆっくりと時間をかけて味わうことができる至福の時間です。
しかしこの場にキッチンスタッフは存在しません。この賄い飯はキッチンスタッフにとって大きな問題の一つなのです。
まずキッチンスタッフは賄い飯を座って食べることが許されません。忙しい仕事の合間に立ったまま急いで掻き込みます。
そして一番問題なのがその日の賄い飯をだれが作るかということです。
賄い飯は大体どこのレストランも午前11時と午後4時の2回あります。この時間はどちらもキッチンスタッフが仕込みのために走り回っている時間帯です。そのためこの日の賄い飯を誰が作るかでキッチンは揉めます。
誰も作りたがらないということは必然的にキッチンでは比較的下の階級のシェフに押し付けられます。
レストランによってはあらかじめ一週間の献立を決めて食材をスタッフミール用に注文するところもあれば余った具材を適当に使って適当に作れということろもあります。どちらが簡単かというと当然献立通りに作るほうです。
キッチン経験の浅いシェフが2,30人分の賄い飯を余った食材を使って適当に作ることはかなり大変なことです。もし、うまくいかないとレストランの従業員みんなからボロクソに言われます。それに傷ついて自信を無くすと誰もが面倒くさがる嫌われる仕事となります。
その状況に我慢できなかった私はその仕事をできるだけ引き受けるようにしています。そうすることで若いキッチンスタッフが傷つくことも減りましたし、余った食材を賄い飯に使うことで少しでも経費削減のお手伝いが出来るのがうれしいからです。
レストランのキッチンの廃棄食材は家庭のそれとはまったく規模が違います。また中にはかなり値段の張る高級食材もあるのでそういうものが捨てられるのが我慢ができなかったからというのもあります。
それによっていい効果もありました。一つは接客スタッフからよく話しかけられるようになったことです。大きなレストランでキッチンとホールが離れているの場合、キッチンスタッフと接客スタッフはあまりコミュニケーションがないので名前を覚えることもあまりありませんでした。
しかし、おいしい物を賄いで出せた時は向こうから話しかけてもらえてそれをきっかけに少しずつ話すようになりました。しかし、いいことばかりでもありませんでした。
前にも話した通りシェフというのはそれはそれは嫉妬深い生き物です。誰かが上手に作った料理をわざと口にしないという人たちとかなりたくさん出会いました。
または少しだけ口にして本人の見えるところで捨てられることもありましたし、本人の見ている前でこれでもかというほどいろんなソースをかけて食べる人もいました。これは意地悪なのか舌が馬鹿なのか判断が難しいのですがそういうことも含めて賄い飯をみんなに作るということはいろいろな犠牲を払うということにもなります。
もちろんその中にはきちんと感謝して食べてくれるシェフもたくさんいました。おいしいものは素直にほめて、まずかったものに関しては容赦なく突っ込む健全なシェフが近くにいたおかげで料理技術の向上にもつながりました。
なので私も誰かが忙しい仕事の合間に作ってくれた賄い飯はできるだけ大きな声でみんなに聞こえるようにお礼と味の評価をするようにしています。それによって料理に自信ができる若いシェフが増えることを願っています。
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