パーティーを無限に追放され続けている女

藤想

パーティーを無限に追放され続けている女

 グレートウルフを三匹討伐して、クエスト終了。グレウルの肉は持ち帰っても良いらしいので、それならばと、クエスト終了直後にその場で鍋にした。近場に野菜の販売所もあったので野菜もたっぷり入れて、臭みを取るためのハーブも投入。グツグツ煮込む。グレウル野菜鍋のスープは絶品だった。


 暫く一人で焚火の前に座り鍋を堪能していると、野良の冒険者らしき人影が現れた。十代後半の人間の少女だ。


「どうした?パーティーでも追放されたのか?」

「ええ……」


 元気がない少女をとりあえず隣に座らせ、鍋を分けてやった。少女は腹が減っていたのか即座に平らげた。


「まあまあ、元気出せ。なんで追放されちゃったんだ?」

「ちょっと、悪いことをしてしまって」


 おや。悪いこと?盗みか?パーティーの中で後先考えずに信頼を失うようなことをするとは……一人で冒険者をやっている私が言うのもなんだが、経験不足だ。しかし、この若さなら未来がある。まだまだやっていけるだろう。


「悪いことって、どんなことをしたんだ?」

「研究をしていました」

「ポーションの研究か?それともモンスターの?」学者には見えないが、研究熱心なのは良いことだ。しかし危険な研究は味方も危険に巻き込むことになる。

「いえ」

「じゃあ、何の研究だ?装備品か?」


「パーティーのメンバー全員に他の人の悪い噂を流して、パーティーがいつ壊れるかの研究です」


 最悪じゃないか。私は少女から優しく器を受け取って、焚火はそのままにして立ち去ろうとした。しかし少女に服の裾を掴まれて、もう一度腰掛けた。


「うーん、今その続きを話すのかい」

「ええ、話を聞いてください……」


 少女が困り顔で訴えてくる。変な子だが、こんなか弱い少女をこの闇の森で一人きりにするのは、良心の呵責がある。私は嫌な気持ちを殺して少女の横で話を聞いた。しかし仲良くなりたいという気持ちは冷めきってしまっていた。


「名前はなんていうんだ?」

「エイラです」

「よしエイラ、話を聞こう。私はポールだ」

「ポールね、よろしく」エイラがにこりと笑った。その可愛さに、私は不覚にも少しドキリとした。


「それで……どうしてそんなことをしたんだ?研究と言ったか?」

「私が気になったのは、パーティーの信頼関係の強度についてです。それに興味を持ったのも、リーダーのクルソフが圧倒的な人格者で、頼れる人物だったからです」

「それは良いことじゃないか。それで?」

「クルソフはパーティーの絆を疑いませんでした。それでなんか腹が立って、じゃあどれくらい関係を悪くすればパーティーが解散するのか試したくなりました」

「……うん、それで?」

「徹底的にクルソフの悪い噂を流しました。クルソフは夜中、私に夜這いに来る。それで私は妊娠して子供を堕ろしている。そういうことが何度もあった。暴力を振るわれたこともあった。そういう内容です」

「え、でも全部嘘なんでしょう?」

「嘘ですが、自分を殴って痣を見せたりしました」

「エイラお前、怖いなぁ、なんでそんな……怖いよお前……」


 エイラは鍋の中身を確認して、「食べないんですか?」と聞いてきた。私は食欲が無くなっていたので鍋の中身を食べてもいいと手で促した。エイラはガツガツいった。


「エイラ、言っちゃ悪いがお前は魔法を操らない黒魔女みたいだ。なんでそんなひどいことをするんだ」

「黒炎龍を打ち倒すほどの冒険者パーティーを、言葉一つで解散させたらカッコいいと思って」

「それで結局クルソフにバレて、追放されたんだろ」

「もう少しで上手くいったのに」

「俺は、言葉を喋るモンスターなんかよりもお前の方がよっぽどモンスターに見えるよ……」


 その時、林の影が動いた。風じゃない。何かが潜んでいた。

「エイラ、隠れろ」

 そう言ってエイラを自分の背中で覆い隠し、私は鍋をかき混ぜるお玉を武器として手に取った。剣や盾はここからだと少し遠くにある。隙は見せられない。


 林からグレートウルフの子供が飛び出してきた。親の仇討ちだろう。

「子供だが、気を付けろよエイラ。……エイラ?」


「おりゃーっ!!」私が前を向き直るとエイラがグレートウルフの子供に飛び掛かっていた。エイラはグレートウルフを石で殴り殺そうとしたが反撃に合い、グレートウルフの牙を真正面から受けて倒れた。エイラの胸から血が溢れ出す。


「畜生……!!」私はエイラが持っていた石でグレートウルフの子供を撲殺すると、エイラの胸に自分の服を被せた。

「くそっ……エイラ!死ぬな!なんで飛び出したんだ!」

「……私でも殺せそうな気がして……」




 瀕死のエイラを担いで徹夜で歩き、村の医者に見せ、エイラはなんとか一命を取り留めた。

「ポール、私を見捨てないで……傷が回復したら冒険に連れて行ってください」

「うーん……そう言われてもな、お前今、病床で弱弱しく振舞ってれば俺が言うことを聞いてくれると思ってるだろ、そういうところがダメだぞ、マジで」

「弱いから、こういう風にしか生きられないんですよ」

「俺はお前が弱いとは全然思わない」

「でも、レベルもまだ低いし……一人じゃ冒険できません」


 このヤバい女を冒険に連れて行くのは私にとって恐らくデメリットしかないのだが、私にも下心があり、この女にも若い女特有の美しさがあった。


「グレウルの牙で割けた服の隙間から私のおっぱいを見ましたよね、それについてはどう思いますか、ポール」

「不可抗力だし、どうも思っていないよ」


 私はエイラが休んでいる宿を後にした。




 それから一年後、あちらこちらでエイラらしき女がパーティーから何度も追放されているらしいという噂を聞いて、それがエイラかもしれないし、エイラじゃないかもしれないと思っていた。


 また暫く経って、エイラと再会した。エイラは知らない冒険者とパーティーを組んでいた。

「よう、エイラ。意外と元気そうだな」

「あ、ポールだ。クリストフ、この人昔私をパーティーに入れてくれなかったの」

 クリストフと呼ばれた男は若く、まだ冒険を始めたばかりのような青年だった。


「なんでエイラをパーティーに入れなかったんですか?何のスキルも持ってないけど結構良い子ですよ?」

「そのうち分かるさ」

 私も悪い男になった。追放され続ける女、エイラの冒険は始まったばかりだ。




 また幾年かが経った。川の畔で女が一人休んでいる。何年も会っていないがどう見てもエイラだった。

「エイラ……」

「………」


 私はそれ以上何も言わず、立ち去ろうとしたが、エイラが距離を取ってついてくるのが分かった。私はエイラを好きにさせた。パーティーにだけはなりたくないと思った。

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