モノローグ(桜井)

      ◯


 私は柳に言われるまま、欄干からほんの少し顔を出し、そのまま視線を急降下させた。


      ◯

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

      私

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 私の立ち位置のすぐ目の前に整列するかの様に、陽の鏡姿(◯)が、本物の太陽(◯)と見間違うくらいハッキリ映し出されている。柳の時間稼ぎは、曇り空が晴れて、太陽が顔を出すのを待っていた、太陽を川面に映し出す為に……それだけは読み取れた。

 そして、あの時間稼ぎこそが逆に今、私に悟らせた。あの太陽(◯)こそが、私でも柳自身でもない、そう……灰色のカーテンの幕が開き、ようやく登場した、これから始まるであろうこの一対一の論争の場の真の「主役」なのだと……

 柳は、私との話し合いをどう思っているか知らないが、太陽が顔を出したのなら、「戦い」は既に始まっているのだ。……しかしまだ、柳の真意までは分からない、川面に映る陽(◯)を見させてどうするのか、その先を推察している最中で柳の声が掛かる。

 桜井、見えたか?の問いに、……第三の主役さんの事?と、返す。

 流石は桜井、話が早くて助かる……でさ、桜井が今立っているその場所から自分の立ち位置の辺りの川面を見てもらえるか?と、柳が促す。お安い御用よ——


     ◯

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

     私          柳

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 別にさっきと何も変わらない。柳の方の川面に何が映る訳でもなし、そりゃ空や周りの景色は映り込むけど。そして私の立ち位置では、さっきと変わらず陽(◯)が川面に映っている。……けど、何か引っ掛かる気がする。つまり、柳の側だ。……別に不自然な訳ではないけれど……一応カマをかけてみる。


 柳、当然私が今見ているモノが分かって聞いているんだろうけど……そっち側には特別なものは映らないだろうって事? ……じゃあ柳の方からは、私の立ち位置の辺りの川面に何か見える訳?と、今度は私の方から柳にバトンを渡す。

 「バトン」を渡すとは、つまり主導権……いや「主観」そのものを柳に引き渡すという事。今見えているのは「私」が主役の世界である、「柳」の世界ではない。柳に見えている世界は柳にしか分からない、だからバトンを渡すのだ。これは比較による確認よ。その柳の答え次第で、引っ掛かっていた何かがハッキリするから。

 ああ桜井、分かった……と、柳がバトンを受け取った合図が、私から十歩くらい離れた場所から聞こえた。

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